16歳、先生になる―女子高生社長の挑戦―

「なるほどぉ! スゴイな、それは!」

遠藤先生はコーヒーを吹き出しそうになって驚いていた。

「お陰で……生徒0人になっちゃいました。これで」
「わはははっ! そりゃ大変だね。英智ゼミも!」

「……何か、言い方、むかつくぅー……」
「悪い悪い。……で、どうだった。どれくらい経ったんだ?」

「2ケ月ちょっとです……」
「そっか。2ケ月か……どうだった。この2ケ月は」

「……本当に大変でした。週2回か3回しか……塾を開けてないのに」
「うん。何が大変だったんだ」

「何だろ……先生が私たちに教えてくれた事、全部です」
「ん? 何だっけ?」

先生はコーヒーのお代わりをするために、席を立った。ポットを押してお湯を入れて……「飲むか?」と聞いてくれた。

「私たちの塾……『意義』は何だったんだろうって」
「そうか。良い気付きだな」

「勉強が苦手な子って……沢山いるじゃないですか。最初はそういう子たちに、勉強教えて、分かる喜びを味わって欲しいって思ってたのに……上手く行かなくて」
「うん。コンセプトだな。良い気付きじゃないか」

「後は……お金を頂く事の、責任ですね……」

智花が両手でマグカップを持ち上げながら先生に向かって言った。

「物凄いプレッシャーでした。正直……」
「だろうなぁ。僕も最初はそうだったからな」

「先生もですか?」
「もちろん。ていうか、今だってそうだぞ。お金を頂く価値や有難みを忘れたら……終わりだよ」

「……そうですね」

「でもさ、得たものだって……沢山あったろ」

少し間を置いて、先生が私たちに聞いてきた。

「もう……言えないくらいっ! ありましたよぉ!」
「お前は……相変わらず抽象的だな。もっと具体的に言えよ」
「教える喜びとか……お金をもらう価値とか……仕事って何だろうとか……絶対に塾をやってなかったら、体験できなかったですからね……先ずはそれです」

「うんうん。まともに言えるじゃないか。……で? それだけか?」

私と智花はお互いに目を合わせて、ちょっと微笑んだ。

「色々な人に……助けてもらった事……ですかね」
「お父さんや遠藤先生……智花。色々な人に支えてもらえて、初めて仕事ってできるんだなって」

ズズッ……っとコーヒーをすすりながら、先生が言った。

「ん。良いじゃないか。若さを使って、塾をやった価値があったみたいだな」
「……じゃ、英智ゼミは無くなったみたいだから……たまにはうちのお手伝いに来なさい」

「はぁー!? 少しは慰めて下さいよ!」
光成塾の中に、わはは! と笑い声がこだました。

教室で勉強していた3年生が「何だ?」という表情で見てきたので……背中を少し丸くした。

真衣ちゃんのお母さんから電話がきたのは、次の日だった。

「塾、辞めるってさ」
お父さんが昼間、私に教えてくれた。

「そっか。でも……お父さん、色々ありがとね」
「英智ゼミ。閉めるんだろ?」
「うん。智花とも話をして……そういう事にしたんだけど……大丈夫?」

「あぁ。終わりにするのは簡単だから。最初に言っただろ」
「そうなんだ」

「これが株式会社にしてたら……大変だったぞ? 借金背負うかもだからな」
「えぇー……」

「今の形だったら、お父さんが確定申告をすれば良いだけだから。もちろん他にも書類の手続きとかあるけど……煩雑じゃ無い」
「ごめんね。……塾、やりたいなんて勝手な事言って」

「まぁ、こうなるのは分かってたけどな」
「えぇー……マジ?」

「商売、舐めるなよ? 向き不向きがあるんだ。君たちは……きっと向かない」
「……うん」

「だからその分、勉強をしっかりやって。お互いに行きたい大学にちゃんと行くんだな」
「うん……ありがとう」