16歳、先生になる―女子高生社長の挑戦―

土曜日はいつも私たちに大きな出来事が訪れる。ただ今回は、いつもと違う緊張が、私と智花を包んでいた。

「それにしても、大きな決断をしたもんだ」
「……うん」

「ちゃんと伝えないとな」
「分かってる。……頑張る」

午後2時。真衣ちゃんのお母さんに来てもらうようお願いをした。……真衣ちゃんも一緒に。

「緊張……するなぁ。怒られないかな……」
「それは分からないよ。相手次第だからね。英里と智花ちゃんは、想いを伝える事しかできないから」

「……うん」

「こんにちはぁ」

真衣ちゃんの声が、玄関から聞こえた。私と智花はいつものように玄関まで小走りで近づいた。

「……お待ちしてました」
「こんにちは」

真衣ちゃんのお母さん。明らかに「何の話だろう」と言いたげな表情をしている。

「すいません、お時間頂戴しまして……。どうぞ、こちらです」

いつものように、6畳ほどの教室にお母さんと真衣ちゃんを招き入れた。

「どうぞ、お座り下さい」
「はぁい」

真衣ちゃんが可愛らしく返事をして、椅子に腰を下ろした。続けてお母さんも椅子に座る。

「お世話になっております。今日は……普段指導させて頂いております、2人の先生達から、お母さんに直接お伝えしたい事があるらしく……お時間少し頂きます。お忙しい中、お時間頂戴しまして……本当にありがとうございます」

お父さんが、真衣ちゃんのお母さんに優しく語りかけて、頭を下げた。私と智花もそれに続く。

「いえいえ……いつも真衣がお世話になっています」
「あっ……こちらこそ……いつもありがとうございます……」 

私はたどたどしく、真衣ちゃんのお母さんに挨拶をした。

「本題を言わないと……」と思うけど……緊張して何から言えば良いのか、頭が真っ白になった。

「先日、真衣ちゃんと面談をさせて頂きまして」
静かにパニックになる私を置いて、智花が穏やかにお母さんに話かけた。

「高校について、どう考えているのか……とか、色々聞かせてもらったんです」
「そうでしたか。家じゃ何も言わないから……この子は」

「お母さんが1番最初に面談に来て頂いた時……公立高校に行って欲しいと言われていたのですが……」
「まぁ……そうですね……行けるものなら……」

「真衣ちゃんに入塾して頂いてから、ずっと真衣ちゃんの想いを聞かせてもらってきました。私たちの立場で……生意気な事を言うのを、お許し下さい」

そういうと、智花は深々と、お母さんに向かって頭を下げた……。真衣ちゃんはきょとんとした顔で、智花をじっと見つめている――。

「真衣ちゃん……絶対にギターを頑張った方が良いと思うんです……」

意を決したかのように、力強く、智花が言った。

「バンドを組んで……一生懸命やっていきたいって気持ち……私たちは全力で応援したいんです。部活も辞めたいって言っています。それを私たちは否定できません。勉強をしている時間があるのなら、バンドに向けて、ギターを毎日毎日……一生懸命に頑張って欲しいんです。……それが、真衣ちゃんと過ごさせてもらって、気持ちを聞かせてもらった私たちの……願いなんです」 

お母さんは唖然としていた。無理もない……きっと勉強に関する話だと思ったんだろう……。少しの間、5人の間に沈黙が流れた。

「ねぇ、お母さん……」

重たい空気を払いのけたのは……何と真衣ちゃんだった。

「私ね……通信の高校に行きたい! 東京に行きたい音楽の学校があるの……頑張って通うから……ねぇ? 行っちゃダメ?」
「えっ……音楽の? 高校……?」

お母さんの顔色が、少し白くなっているように見えた。

「うん……部活は辞めたい。実はね……たぶんだけど、いじめられてるんだ。私」
「……そうなの?」

「たぶん。でも誰が悪いとかじゃないから……ただ、もう辞めたいだけ」
「ずっと……ずっとやってきたのに?」

「だから……その分、ギターを死ぬ気でやりたいの。私……本気なんだよ」
「……」

「将来ね、バンドやりたいの! 途中で変えないよ? だから……お願い」

真衣ちゃんは真剣にお母さんの目を見つめていた。私は驚いた……。

今日の面談、真衣ちゃんからも何か言ってもらう予定にはしていなかったから。

でもきっと、真衣ちゃんは……私たちが何を言うつもりだったのか、どこかで分かっていたのかも知れない。

「15歳、16歳は……あっという間に終わります」

思わず私も……想いが溢れ出てしまった。

「私と智花は……将来、行きたい大学があります。だから……15歳、16歳の今、真剣に勉強に取り組んでいます。真衣ちゃんは、それがギターなんです! だから……今の若い時間を、少しでも無駄にして欲しく無くて……『あの時、勉強しないでギターをもっと真剣にやっていたら……プロになれたのに』って、思って欲しく無くて……本当にそれだけなんです! 生意気言って、本当にすいません! でも……私たち本気でそう思ってるんです!!」

「あっ……」

私と智花、そして真衣ちゃん……自分の想いの丈を語り尽くして、肩で息をしている状態……お母さんの顔色、元に戻ってきたように感じた。