16歳、先生になる―女子高生社長の挑戦―

「うん。真衣ちゃん……色々大変そうね」
「そうだね……あのさ、私さ……思う事があるんだよね……」

何かを察してくれたのか、智花がじっと私の言葉を待ってくれている。

「……真衣ちゃんさ、通信制高校とかに行って……ギターに全力を注いだ方が良いと思うんだよね。私」
「……」

「たぶんね、高校自体に興味が無いって事じゃ……無いと思うんだよね」
「どういう事?」

智花もアイスココアを静かに飲み始めた。

「ん? 高校には行きたいけど……県立とか、私立の通学する高校には興味が無いって事だと思うんだよ、私。通信ならさ、テレビCMとかでもやってるじゃん? 自分の好きな事に専念できるらしいじゃん」
「……」

「何よ。……何か言ってよ……」
「私も……そう思ってはいるけどね……」

「じゃ……」
「勉強、っていうか……塾。いらないじゃない」

「……!」
「通信とか単位制の高校に行く事自体、私は賛成よ? 今は色々な生き方があって良いと思うからね。でも……それだと塾に来る必要は無くなるね」

「……そう……だね。学校の勉強だけ最低限やっておけば良いもんね……」

そう。これも私は心の奥底で、きっと気付いていた。

でも……気付かないフリをしていたんだ。

真衣ちゃんの希望を最優先するのなら、もう無理に塾で出した宿題を頑張る必要なんて本当は無いって事……。

「そういう事だよ。英里先生? どう考えるの?」
「……」

「ねえってば」
「智花には……ウソつきたく無いんだよね。だから……私が思ってる事、正直に伝えても良い?」

「ええ。どうぞ?」
「真衣ちゃん……塾に使ってる時間を、ギターに充てた方が良い。……いや、むしろ……塾に来て勉強したり、塾の宿題をずっとやってるのなら……その時間、ギターに充てて欲しい。……これが私の、素直な気持ち」

「……そっか。ごめん」
「どうしたの? 何で謝るの」

「だって。そしたら生徒が……いなくなる」
「あははっ!」

「何で笑うのよ……」
「社長は……私たちよ? 英智ゼミは……私たちの塾なんだから。『何のために存在してるのか』は、私たちが決めて良いよね!」

私は、はっとした。

「智花……まさか、あんた……」
「ふふっ……」

智花が下を窓の外を見て笑った。

「ふんだ。遠藤先生の所に相談に行ったの……英里だけじゃ無かったんだからねぇ!」
「お前―! 私、めっちゃ悩んだんだぞぉー……!?」

「私だって、そうだもーん!」

私たちは笑った。周囲のお客さんも顧みず……。英智ゼミ、最大の決断が行われた夜だったから。