16歳、先生になる―女子高生社長の挑戦―

「おぉ、藤本」
ハンカチで手を拭きながら、先生が電気を点けてくれた。

「1人で来たのか」と言わんばかりの表情をしている。

「あ、こんにちは。ちょっと今……良いですか?」
「ん? まぁ、少しだけなら。どうした、1人?」

「あっ、はい。今日は1人です」
「へぇ。喧嘩でもした?」

「んー……いや、まぁ」
「相変わらず、お前達は分かりやすいな。ま、座ったら?」

先生に促されて、ホワイトボード前のいつもの席に腰を下ろす。

「あ、お土産忘れちゃった」と言うと、笑いながら「別に良いよ」と返してくれた。私はここ最近あった出来事、そして私の胸のもやもやを先生に伝えた。遠藤先生は目を窓の外をじっと見ながら、腕を組んで真剣に聞いてくれた――

「なるほどな」
「……最近、ずっと悩んでて。悩んでてっていうか……上手く言えないんですけど」

「藤本の言いたい事は、分かるぞ」
「えっ……本当ですか!」

「もちろん。どれだけ長くやってると思ってるんだよ。ま……それが良いか悪いかは、置いておいてだけどな」
「はぁ……」

「君達の塾って、存在意義は何だ」
「存在意義?」

「何のためにやってんの? って事だよ」
「それは……勉強が苦手な生徒さんに、丁寧に分かりやすく教えて、ちょっとでも成績が上がれば良いなって……」

「それは君たちの『想い』だろ。聞いてんのは意義だよ、意義」
「意義……」

「難しいよなぁー。意義って。俺は藤本に考えて欲しいだけだから。別に今、正解を教える気はないぞ」
「……」

「それに、別に正解は無いし」
「無いんですか……?」

「それは社長である君たちが決める事だからだよ」
「……そっか」

「でも、藤本のそのもやもやは……どうして出てきたんだ?」
「何でだろ。真衣ちゃん、勉強に向いて無いんじゃないかなって思っちゃって……」

「ふぅん。ちょっと待って。コーヒー淹れるから。……飲む?」
「あっ……じゃ、もらいます……」

ポットを押して、お湯を入れる。「粉が先なんじゃ無いの?」って思ったけど、上げ足を取るみたいだから、黙っておいた。

「ほら」
「あー……ありがとうございますっ」

白いマグカップ。ほんのりと立ち上る湯気。両手で抱えて、息をふぅとかけた。

「さっきの話だけどさ。じゃ……その子にどうなって欲しいのさ」
「ギターやってるんですよ。ギターが頑張って欲しいなって」

「……そうか。まぁ、僕が見てる訳じゃ無いからね。どんな感じかは分からないけど」
「……絶対そっちの方が向いてると思う」

「ふーん。なら、そうなんじゃないのか?」
「ちょっと……真面目に答えて下さいってば……結構悩んでるんですよ?」

「僕も真面目に言ってるんだぞ?」
「……」

最後に先生が言った言葉が、私の心に突き刺さった。