16歳、先生になる―女子高生社長の挑戦―

「千夏ちゃんが塾を辞めて、真衣ちゃんも辞めてしまうんじゃないか」

私と智花がずっと心に引っかかっていた事。意外にも、真衣ちゃんの想いは違ったらしい。

「千夏ちゃん……塾、辞めたくないって言ってます……」

真衣ちゃん1人になった教室。隠しても仕方が無いし、すぐにバレてしまう事だから……私と智花は真衣ちゃんと千夏ちゃんの話になる。

でも、「千夏ちゃんは続けたがっている」と聞いて、驚いた。

「そうなんだねぇ……続けたいって言ってくれてるんだぁ……」
「そうですよ!? 『お母さんが勝手に決めた』って……学校で落ち込んでますもん……」

「……そっか」

この時初めて、私は気付いた。

カフェみたいなお店は、コーヒーを飲みたい人が、コーヒー代を払うけど、塾はコーヒーを飲みたい人と、お金を払う人が違うという事に。

どうしようも無い事もあるんだ……。

「いつかまた……戻ってきてくれると良いなぁ……」

真衣ちゃんは寂しそうな表情で、ぽつりと呟いた。「絶対1人じゃ寂しいよな」という想いもあったけど……

「真衣ちゃんは辞め無さそうだな」と安心している自分もいる事に気が付いた。

(何なの……この気持ち……)

複雑な想いを抱えながら、週に2回。火曜日と木曜日、私と智花は真衣ちゃんの指導に全力を注いでいった。

部活動で遅れながらも、キチンとサボる事無く通い続ける真衣ちゃん。亀の歩みではあるけど……少しずつ塾にも慣れて、勉強もできるようになっていった。

ただ……私の中で、真衣ちゃんに対して気になる想いがむくりと目を覚ました事に、ある日気付いたのだった。

「真衣ちゃん、英単語……全然覚えられてないけど、家での勉強時間、増えてるみたいなんだよね」

英智ゼミの戸締りをして、薄暗い脇道を歩きながら、智花が少し明るい顔で言った。

「……そっか」
「数学は? どんな感じ?」

「まぁ……なかなか厳しいよねぇー……計算でギリギリ。応用問題はね……」

真衣ちゃんは分からない問題はしっかりと質問してくれる。それに対して、私が説明すると、彼女なりに理解してくれるのだ。

「じゃ、良いんじゃない? 質問してくれないよりは全然良いと思うけどね」
「まぁ。そういう意味では……すっごい良い子なんだけどさ」

「……何よ。何か気になるの?」
「うん……何ていうかさ」

ここ最近、ずっと気になっていた事。智花に言うべきがどうか悩んだ。

「……うーん」
「何よ。ちゃんと言いなさいよ」

「そうだなぁ。悪い意味じゃ無いんだけどさ……真衣ちゃん、勉強に向いていないんじゃないかなぁ」
「はぁ? 何よ、その言い方。そんな言い方……無いんじゃない?」

智花が怒ったように言い返してきた。ごもっともだと思う。

私も……上手く言えないけど、そういう事が言いたいんじゃ無いんだけど、言葉が見つからない。

「そういう意味じゃ無いってば」
「じゃ、どういう意味よ」

「勉強が苦手だから……うちに来てくれてるってのは分かるよ。それにうちは、そういう塾だし」
「そういう生徒に、分かりやすくしっかり教える塾なんじゃ無いの?」

「だからさ……そういう事が言いたいんじゃ無いんだよ。上手く言えないけどさ……」
「……」

明らかに不愉快な色を滲ませる智花。

そりゃそうだろうな……私が逆の立場でも、同じようなリアクションになるような気がするから……。