「はぁ……辞めちゃった。成績の事だったんだ、やっぱり」
「うん。お母さん、そう言ってたね……」
智花の返答は魂が抜けてしまったかのような声。
「どうしよう……これで真衣ちゃんも辞めちゃったら……」
「あっ! そうだよ……2人、仲良いんだから……」
「どうしよう」
急に真衣ちゃんの事が心配になってきた。
元々活発なタイプでは無い。勉強も千夏ちゃんと同じくらい苦手。
せっかく塾に一緒に行く友達がいる状況なのに……誘った千夏ちゃんが辞めてしまった。……どう考えても、連鎖的に真衣ちゃんも「私も辞めようかな」と言っている絵しか、浮かばなかった。
「そうだね。真衣ちゃんの事、大切にしてあげないとね。今まで以上にね」
『退塾届』などの書類を片付けながら、お父さんが言う。いつも通りの冷静な声。
「うん。でも……成績かぁ……やっぱり成績なんだなぁ」
「まぁ、お母さんはそうおっしゃっていたけどね。分からないよ?」
「えっ……? どういう事?」
「本当の事をどこまで言ってるのか、それは分からないって事だよ」
「「……あっ!」」
私と智花は、同時に声を出してしまった。お父さんの言葉を聞いて……遠藤先生の事を思い出した。
(同じ事、言ってた……)
「今、お父さんが言った事……遠藤先生も同じ事、言ってた……」
「同じ事?」
「うん。本当の事を言ってるかどうかは、分からないって」
「そうか。流石だなぁ、遠藤先生」
「うん……だから……最初の面談で探らないとダメって。お客さんの目的を」
「……おっしゃる通りだよ。そう。1番最初の面談って、肝心なんだよ」
「……そっかぁ。こういう事になっちゃうんだ」
「だな。ちょっと例えが違うけど……ボタンを掛け間違って生活している夫婦みたいなもんでさ。いつか必ず終わりを迎えちゃうよ」
「何その例え……」
「あぁ、まだ君たちは難しいかな」
「ははっ……何よ」
お父さんも遠藤先生も同じ事を言ってるけど、お父さんは落ち込む私と智花を、少しでも和ませようとしてくれたのかも知れない。
でも、頭では理解できるけど……行動に移せないっていうか、心の中で処理しきれない。
せっかくの土曜日だけど、私は布団に飛び込んで、寝てしまいたい気分だった。
「私たちの教え方っていうかさ……指導っていうのかな、そういうのもだけど、真衣ちゃんだよね。真衣ちゃんが辞めちゃうとヤバい」
「うん。でもさ……こういう事、言っちゃいけないのかも知れないけど……『辞めさせないために頑張る』っていう感じがして……少し複雑なんだよね」
(それよ! それ! ……私の心の中にあった事は……)
智花が言葉にしてくれた事。そう。それがずっと私の心の中にあった事。
教える事は楽しい。塾は生徒さんのためになってくれれば……という想いで始めた。でも……。
「塾ってさ、何のためにあるんだろうね? 智花の言う通りだよ。辞めさせないために……私たちって教えないといけないのかな」
「ね。上手く言えないんだけど……そう感じたんだよね。私」
「おぉ、良いじゃないか」
悩む私たちに、お父さんが微笑みながら言った。
「……何よ。悩んでんだって。私も智花も」
「良いね。ようやく言葉が……経営者になってきたじゃないか」
「えっ……?」
「明るい希望に満ち溢れて……僕に『塾やってみたい』なんて言ってた2ケ月前とは……良い意味で別人になったぞ? 素人女子高生だったのが……うん、お店を経営する側になってきたな」
「……」
「良い事じゃないか。もっと悩むと良い」
お父さんはうんうんと頷いて、「さ、今日は帰ろうか」と私たちに言った。
もやもやしている気持ちは変わらないけど、何だか……前には進んでいるんだなと感じたりもした。
「うん。お母さん、そう言ってたね……」
智花の返答は魂が抜けてしまったかのような声。
「どうしよう……これで真衣ちゃんも辞めちゃったら……」
「あっ! そうだよ……2人、仲良いんだから……」
「どうしよう」
急に真衣ちゃんの事が心配になってきた。
元々活発なタイプでは無い。勉強も千夏ちゃんと同じくらい苦手。
せっかく塾に一緒に行く友達がいる状況なのに……誘った千夏ちゃんが辞めてしまった。……どう考えても、連鎖的に真衣ちゃんも「私も辞めようかな」と言っている絵しか、浮かばなかった。
「そうだね。真衣ちゃんの事、大切にしてあげないとね。今まで以上にね」
『退塾届』などの書類を片付けながら、お父さんが言う。いつも通りの冷静な声。
「うん。でも……成績かぁ……やっぱり成績なんだなぁ」
「まぁ、お母さんはそうおっしゃっていたけどね。分からないよ?」
「えっ……? どういう事?」
「本当の事をどこまで言ってるのか、それは分からないって事だよ」
「「……あっ!」」
私と智花は、同時に声を出してしまった。お父さんの言葉を聞いて……遠藤先生の事を思い出した。
(同じ事、言ってた……)
「今、お父さんが言った事……遠藤先生も同じ事、言ってた……」
「同じ事?」
「うん。本当の事を言ってるかどうかは、分からないって」
「そうか。流石だなぁ、遠藤先生」
「うん……だから……最初の面談で探らないとダメって。お客さんの目的を」
「……おっしゃる通りだよ。そう。1番最初の面談って、肝心なんだよ」
「……そっかぁ。こういう事になっちゃうんだ」
「だな。ちょっと例えが違うけど……ボタンを掛け間違って生活している夫婦みたいなもんでさ。いつか必ず終わりを迎えちゃうよ」
「何その例え……」
「あぁ、まだ君たちは難しいかな」
「ははっ……何よ」
お父さんも遠藤先生も同じ事を言ってるけど、お父さんは落ち込む私と智花を、少しでも和ませようとしてくれたのかも知れない。
でも、頭では理解できるけど……行動に移せないっていうか、心の中で処理しきれない。
せっかくの土曜日だけど、私は布団に飛び込んで、寝てしまいたい気分だった。
「私たちの教え方っていうかさ……指導っていうのかな、そういうのもだけど、真衣ちゃんだよね。真衣ちゃんが辞めちゃうとヤバい」
「うん。でもさ……こういう事、言っちゃいけないのかも知れないけど……『辞めさせないために頑張る』っていう感じがして……少し複雑なんだよね」
(それよ! それ! ……私の心の中にあった事は……)
智花が言葉にしてくれた事。そう。それがずっと私の心の中にあった事。
教える事は楽しい。塾は生徒さんのためになってくれれば……という想いで始めた。でも……。
「塾ってさ、何のためにあるんだろうね? 智花の言う通りだよ。辞めさせないために……私たちって教えないといけないのかな」
「ね。上手く言えないんだけど……そう感じたんだよね。私」
「おぉ、良いじゃないか」
悩む私たちに、お父さんが微笑みながら言った。
「……何よ。悩んでんだって。私も智花も」
「良いね。ようやく言葉が……経営者になってきたじゃないか」
「えっ……?」
「明るい希望に満ち溢れて……僕に『塾やってみたい』なんて言ってた2ケ月前とは……良い意味で別人になったぞ? 素人女子高生だったのが……うん、お店を経営する側になってきたな」
「……」
「良い事じゃないか。もっと悩むと良い」
お父さんはうんうんと頷いて、「さ、今日は帰ろうか」と私たちに言った。
もやもやしている気持ちは変わらないけど、何だか……前には進んでいるんだなと感じたりもした。



