16歳、先生になる―女子高生社長の挑戦―

「……塾ってさ、色々と大変なんだねぇー……」

2人が帰った後、塾の戸締りをしながら、私はため息をついた。

「勉強を教えるだけじゃ、無いんだね」
「そうそう。話をしたり、勉強を教えるのは楽しいけどね! ……でもそれだけじゃ、ダメなんだなぁってさ」

「ね。そういう感じだろうなぁって思ってたけど……私の想像以上だったな」

ボロボロのアパートの階段を下りて、暗く細い道を歩きながら、私たちはため息をついた。

「……真衣ちゃんさ」
「ん? 真衣ちゃんがどうかした?」 

「いや、何て言うか……ギター頑張って欲しいなって思って」
「……そうね」

上手く言葉にできないけど、何だか胸にもやぁ……っとしたものが残っていた。

お母さんと真衣ちゃんの考えが違うって事なのか……それとも何か別の事なのか。「まぁ、何とかなるか」と思い、私は家に帰った。

「どうだ? だいぶ疲れたろ?」

家に帰って小さくため息をつくと、ソファに座っていたお父さんが私に話かけてきた。

「……ん。まぁ……」
「ははっ。無理するなよ。顔に書いてあるぞ?」

「えっ……?」
慌てて顔を両手で覆う。

「はんっ……お姉ちゃん、バッカみたい。例えでしょうよ。た・と・え」

こういう絶妙なタイミングでイヤミな事を言ってくる妹は、流石だ……。

「うるっさいんだよ、お前は」
「ひぃー……あぁ、怖い怖い」

どこ吹く風で、手のひらをふりふりと降る。

「でも、勉強以外の事も、なかなか大変だろ?」
「うん……面談も大変だったし、やる事……いっぱいあるねぇー……そこは正直、甘く観てたかなぁ」

「塾もそうだけどさ、教育業界は大変だよな。お父さん尊敬するよ。遠藤先生もそうだけど……長く業界で働いている人、本当に凄いと思うぞ」

「本当だよ。まだ生徒に2人なのにさ。20人とか30人とかいる塾、マジでスゴいと思う」

私は疲れてしまって、崩れるように椅子に座った。「はぁ」と小さくため息をついて、冷蔵庫に麦茶を取りに行った。

「……お父さんてさぁ、何の仕事してるの? 前から気になってたんだよね。ずっとパソコンの前だし」

昔から気になってはいた。でも……自分で塾をやり出してから、一層気になるようになった。

お金の管理などはしていないけど、仕事をし始めたっていうのが影響しているのかも知れない。

「ん? 僕か? まぁ……コンサルタントみたいな感じかな」
「コンサルタント……? 名前は聞いたことあるような……何それ?」

「そうだな。まぁ、一言で言えば、お客さんの仕事が上手くいくようにアドバイスする仕事みたいなとこか」
「えっ? スゴくない!? そんなスゴい仕事してんの?」

飲んでいた麦茶を危なく吹き出してしまう所だった。

「そんなに凄くはないよ。……仕事はどんな仕事でも凄いんだぞ? 2人のやってる塾だって凄い事だよ」
「……そうかな。たった2人だよ。それに……千夏ちゃんのお母さんからは信頼されてない感じがするし」

「それは初めてなんだから仕方無いよ。大事な事は……信頼されるように頑張る事だと思うけどな」
「……うん、まぁ……」

「失敗は誰しも必ず通る道だよ。でもその失敗を糧にして伸びていく人もいれば……うじうじしたままで、更に失敗していく人もいる」

お父さんの仕事を聞いて、尚更、お父さんの言葉が私に刺さるようになった気がする。

「失敗しない人なんていない」確かにそうだ。でも……大人の人にあんな事言われると……なかなかメンタルが復活しないもの事実だった。

「ま、お姉ちゃんは『失敗を続けまくる人』の方なんじゃないのぉ~?」
「はぁ!?」

「私はお姉ちゃんの塾、行かないけどねぇ~」
「くっ……こっちから願い下げだよ。……お前は入れない」

こういう絶妙なタイミングで、香織が話をねじ込んでくる。……もはや才能かよ。

(でもお父さん、凄いなぁ……)
(……だから色々アドバイスしてくれたのかぁ)

私と智花がお父さんに初めて「塾をやりたい」と言った時。智花のお父さんと私の知らない所で電話をしていた時。

スムーズに話が進んでいった事が、何だか納得できた気がした。