「ね! 先生ってさ、どうして先生になったの?」
懐かしい塾の机と椅子。ドーナッツを先生に渡し、座るや否や先生に聞いてみた。
「……いきなりだなぁ。何かあったのか?」
「先生、英里……今日学校の先生に語ってもらったらしくて」
「ん? ……どういう事」
朝の古典の授業で、星野先生が私たち3組に言ってくれた事。遠藤先生に伝えると「なるほどなぁ」と言って、ドーナッツを一口。そして腕を組んだ。
「良い先生じゃないか」
「……授業は面白く無いけどね」
「お前は、相変わらず敬語を使えないんだな……」
くすっと先生が笑った。
「先生ってさ、東京科学大を出てるんでしょ? 何で……研究者にならないで、塾やってるの?」
「あんた……少しは敬語使いなさいよ」
「うるさいなぁ……分かったよ」
智花が恥ずかしそうに、私をじろりと睨む。
「別に、科学大に行った人が全員研究者になる訳じゃ無いぞ」
「……分かってるけど……ますけど」
「楽しかったからだよ」
「……楽しかった……から? ……ですか」
「そう。大学生の時に塾のバイトをしたんだけど……楽しくて」
「へぇ……そうだったんだ。……ですね」
「うん。元々、藤本と同じように……研究者になりたかったんだけどね」
「えー……先生、研究者志望だったんだ……知らなかった」
「まぁ、話をした事無かったからね。で、教える方が楽しくなった。みたいな感じかなぁ……」
先生は少し上を見上げて、何かを思い出すかのようにしゃべってくれた。
「どのみちさ」
「……何ですか?」
「数学と理科が死ぬほど得意でも……上には上がいるし」
「……分かってますよ。でも負けませんよ? 私!」
数学と理科の理解力には相当自信がある。問題を解くことももちろんだけれど、すいすいと新しい知識が頭に入ってくる。「向いているなぁ」と自分で明らかに思う。
「そうだね。理解力は高かったもんな。でも……数学と理科だけじゃ、ダメなんだよ」
「……どういうこと? ですか? ……他の教科もできないといけないってことですか?」
「極論、そう。本当に優秀な人は、何でもできるし……そもそも知識の幅も広いし、知識も深い。……大学に行ったら、分かる。でもその時じゃ遅い」
「……」
私は言葉が出なかった。心のどこかでは分かっている事。本当に優秀な人は……何だってできるんだろうなって。
「だから、苦手な勉強もそうだし、勉強以外の事に興味を持つってのは賛成だな」
そう言うと先生は、ズズズッ……とコーヒー飲んで、ドーナッツをもう一口食べた。
「なぁ、藤本と東堂」
「はい」
「お前たちさ、今日の夜……ちょっと塾に来れる?」
思いがけない先生の言葉に、私と智花は顔を見合わせた。
「夜の7時過ぎで良いからさ。一時間くらい来てよ。お父さん達は塾の事……良く知ってくれてるから、大丈夫だと思うけど」
ちらりと私たちに視線を送りながら、先生は言った。
「……あ、はっ、はい……」
そして私たち二人は、夜の7時に光成塾に再度行く事になったのだった――
懐かしい塾の机と椅子。ドーナッツを先生に渡し、座るや否や先生に聞いてみた。
「……いきなりだなぁ。何かあったのか?」
「先生、英里……今日学校の先生に語ってもらったらしくて」
「ん? ……どういう事」
朝の古典の授業で、星野先生が私たち3組に言ってくれた事。遠藤先生に伝えると「なるほどなぁ」と言って、ドーナッツを一口。そして腕を組んだ。
「良い先生じゃないか」
「……授業は面白く無いけどね」
「お前は、相変わらず敬語を使えないんだな……」
くすっと先生が笑った。
「先生ってさ、東京科学大を出てるんでしょ? 何で……研究者にならないで、塾やってるの?」
「あんた……少しは敬語使いなさいよ」
「うるさいなぁ……分かったよ」
智花が恥ずかしそうに、私をじろりと睨む。
「別に、科学大に行った人が全員研究者になる訳じゃ無いぞ」
「……分かってるけど……ますけど」
「楽しかったからだよ」
「……楽しかった……から? ……ですか」
「そう。大学生の時に塾のバイトをしたんだけど……楽しくて」
「へぇ……そうだったんだ。……ですね」
「うん。元々、藤本と同じように……研究者になりたかったんだけどね」
「えー……先生、研究者志望だったんだ……知らなかった」
「まぁ、話をした事無かったからね。で、教える方が楽しくなった。みたいな感じかなぁ……」
先生は少し上を見上げて、何かを思い出すかのようにしゃべってくれた。
「どのみちさ」
「……何ですか?」
「数学と理科が死ぬほど得意でも……上には上がいるし」
「……分かってますよ。でも負けませんよ? 私!」
数学と理科の理解力には相当自信がある。問題を解くことももちろんだけれど、すいすいと新しい知識が頭に入ってくる。「向いているなぁ」と自分で明らかに思う。
「そうだね。理解力は高かったもんな。でも……数学と理科だけじゃ、ダメなんだよ」
「……どういうこと? ですか? ……他の教科もできないといけないってことですか?」
「極論、そう。本当に優秀な人は、何でもできるし……そもそも知識の幅も広いし、知識も深い。……大学に行ったら、分かる。でもその時じゃ遅い」
「……」
私は言葉が出なかった。心のどこかでは分かっている事。本当に優秀な人は……何だってできるんだろうなって。
「だから、苦手な勉強もそうだし、勉強以外の事に興味を持つってのは賛成だな」
そう言うと先生は、ズズズッ……とコーヒー飲んで、ドーナッツをもう一口食べた。
「なぁ、藤本と東堂」
「はい」
「お前たちさ、今日の夜……ちょっと塾に来れる?」
思いがけない先生の言葉に、私と智花は顔を見合わせた。
「夜の7時過ぎで良いからさ。一時間くらい来てよ。お父さん達は塾の事……良く知ってくれてるから、大丈夫だと思うけど」
ちらりと私たちに視線を送りながら、先生は言った。
「……あ、はっ、はい……」
そして私たち二人は、夜の7時に光成塾に再度行く事になったのだった――



