16歳、先生になる―女子高生社長の挑戦―

「もちろん、子供がどういう状態なのか? とか……塾の料金とか、システムとかの説明はしなくちゃいけない。これは当たり前。で……大切なのが、それだよ」
「そっかぁー……なるほど……」

「目の前のお客さんが『一体何を求めているのか』って事を、探る必要がある」
「なるほどー! さっすが先生だ! 意外とスゴイね! 先生っ」

「おいおい……何年やってると思ってるんだ? ……意外とスゴイのよ? なんてね」

「ふふっ……」
私たちは笑った。何か……笑うのは久し振りな気がする。こういう所が遠藤先生のマジックだなと思った。

「聞き方もあるし。難しい事ではあるな。でも……それを知ってるか知らないかじゃ……面談の方向性がそもそも変わるから」
「ですよねぇ。聞き取るのは難しそう……」

「うん。変にがっつくと、尋問みたいになりかねないから。頭に入れておくだけで良い。『この人は何を求めてるんだろうなぁ』ってね」
「なるほどなぁー……面談で聞けば良かったのかぁ」

「そう。ま……でも、難しいっちゃ難しいけどね」
「聞き方が……って事ですか?」

先生は「そうねぇ」と言って、部屋を出て行った。

「遠藤先生……流石だよねぇ」
「うん。やっぱり、長年塾をやってるだけはあるよね……」

智花も私も、ぐうの音も出ない。「本当にそうだ」と思う事ばかりだった。

「あ、ごめんごめん。コーヒーお代わり入れてきた」
「さっき『難しい』って言ってましたよね」

「うん。あー……でもそろそろ時間だなぁ……じゃ、簡単に教えておこうか」

壁に掛かった時計は夜の6時40分になろうとしていた。確か、夜の授業が開始する時間。

「2つあって」
「……2つ?」

「うん。1つ目は、本当の事を言わない人もいるって事。ウソをつく……までは言わないけど、本音を隠している場合だね。本当は『合格して欲しい』って思ってるのに……口では『ちょっと点数が上がれば、満足です』みたいな感じかな」

「……深いなぁ。なるほどなぁ。そういう人、いるもんなぁ……」
「で、2つ目は……あ、ごめん。始まるね。ここまでだな」

「えー……」
「はははっ! 仕方無いよ。時間だから。また来たら良いよ」

「あっ……ですよねぇ……いやいや、突然ありがとうございました! めっちゃ助かりましたもん!」
「だろ? こう見えて、結構スゴい先生なのよ? 僕」

「……自分で言わなきゃ、カッコいいのになぁ……」

中3生に向けた授業が始まる直前。ざわざわとした教室を抜けて、私たちは光成塾を後にした。

「……凄かったなぁ」
「ね。すっごい勉強になったな……」

「流石だよね。じゃないと……栄ケ丘とか受ける生徒に教えられないか」

先生から具体的な話や、面談の時にやっておくべき事を教えてもらって、「なるほどなぁ」と思ったのは事実。

でも……同じ仕事をしている先輩から話を聞けたって事の方が、私たちには大きかった。

そして、誰かに聞いて欲しかったんだと思う。今日の辛いできごとを。