16歳、先生になる―女子高生社長の挑戦―

「そうなんだねぇ……私には楽器なんて全部難しいけど……何が難しいの?」
「トロンボーンって、音程を取るのが難しいんです……自分で前後に動かさないといけないから……素早く引かないといけないし」

「なるほど……そういう事か」
「音を出すのは、そこまでじゃないんですけど……」

「良いね! 良いね! 真衣ちゃん……音楽が好きなんだね!」
「はい! でも本当はギターやりたいんですよね」

「……ギター?」

どうやらお母さんは面談の時に、話をしてくれなかったけど、去年真衣ちゃんはギターを買ってもらったらしい。

そしてトロンボーン以上に、家で毎日ギターの練習をしている……。

「何? 真衣ちゃん……毎日練習してんの?」
「うん……まぁ……」

千夏ちゃんも初めて聞いたらしく、驚いたような声を出している。

「ふぇぇ……飽きないの? 毎日練習して……」
「いや? めっちゃ楽しいよ!」

初めて真衣ちゃんが笑った。3年生らしい……可愛らしい笑顔だった。

結局、真衣ちゃんの体験は、後半の数学の授業は音楽の話で終わってしまった。

でも……あれだけ緊張していた真衣ちゃんの笑顔も見る事ができたし、沢山しゃべってくれたから……私はあれで良かったと思っている。

帰り際も、真衣ちゃんは笑顔で挨拶してくれた。

「……あれで良かったのかなぁ」
「何? あれって」

「いや……真衣ちゃんだよ。数学、全然やってないし」
「あぁ。英語はちゃんとやってくれたから……良かったんじゃない? あの音楽の話で、緊張もほぐれたみたいだったしね」

「……そうだと良いけどね」

いつも通り、入念に戸締りをして、私たちは英智ゼミを後にした。

千夏ちゃんも真衣ちゃんも3年生。火曜と木曜の夕方5時から80分の週2回。私たちは自分の勉強もあるから……今の所は上手にやれてる。

「毎日塾を開く事になったら……大変だなぁ」と思いながら、智花とアパートの階段を下りて行った。

「真衣ちゃんも入塾したいって電話があったぞ」とお父さんから電話がかかってきたのは、アパートを出て2、3分後の事だった――。