16歳、先生になる―女子高生社長の挑戦―

(どうしよう……)

因数分解は今後絶対に必要になる計算……。

あまり身に付いていないし、絶対にもっと練習する必要が、千夏ちゃんにはある。

でも学校で次の単元に進んでいるらしいから……そっちを一緒にやった方が良いかな……。

「千夏ちゃんはどっちが良い? 因数分解の練習をガッチリやるのと、平方根の練習に入るの」
「んー……平方根が良いなぁ」

「オッケー! じゃ、平方根やっていこうか」
「はぁい」

平方根。「ルート」「根号」と呼ばれる、新しい考え方……というか概念が入ってくる単元。

別に深い話をしなければ、意外と簡単な分野。逆に数学が好きな人にとっては……物凄く奥が深い単元だけど……千夏ちゃんは、まずは「できるようになる事」を目指す。

「9ってさ、何を2乗したら……9になるかな」
「9……? えっと、3でしょ?」

「引っかかったなぁー? 違うよ。不正解だね」
「えっ……? だって……3を2乗したら、9じゃないの??」

「そうやって引っかかるんだよねぇ、みんな」
「えー……何だ……?」

「どう? 何か出そう?」
「3しか思い浮かばないなぁー……」

「じゃ、時間切れね。答えは2つあるよ」
「あっ! そっか。3と……-3だ!」
「そうそう! そういう事。マイナスも2乗するとプラスだからね」

「……なるほどぉー……」

授業中のリズムというか……千夏ちゃんとの掛け合いも、だいぶスムーズになってきた。

それはもちろん、教えている私が慣れてきたという事もある。

「じゃ、同じ感じで……2乗したら36になる数は?」
「えっと……6と-6」

「そうそう! 良いじゃん! じゃ、ちょっとレベル上げて……100はどう?」

「100!? 100……何だろ……」
「無理して頭で考えなくて良いよ? ノートで計算しても良いよ」

「んー……50かなぁ?」
「そうやって引っかかるんだよねぇー」

「えっ?」
「50は2乗しても、100にはならないよ」

「あっ……ほんとだ。じゃあ、10だ! 10と、マ-10!」
「おぉ! 正解。自分でできたじゃん!」

中3生はとっても素直で可愛い。「勉強が苦手」って事もあるかなぁと思ってるけど……私や智花の教える事を、ちゃんと守ってくれる。

「じゃ、交代だね。次は数学しよっか」

真衣ちゃんに英語を教えていた智花が、時計を見ながら言う。お父さんと決めた時間割。

1教科40分は、意外と短い。

「真衣ちゃん! よろしくねー!」
「あっ……よろしくお願いします……」

英語の授業を終えてはいるけど、まだまだ緊張しているらしい。声も弱々しくて、キョロキョロと教室内を見回している。

「大丈夫よ? 隣に千夏ちゃんもいるしね!」
「英里先生、真衣ちゃん……学校でも大人しくて、こんな感じです」

千夏ちゃんが横を向いて、私に教えてくれた。

「あっ……そうなんだねぇ」
「でも、部活の時は凄いんですよ! ね? 真衣ちゃん」

「そうかなぁ……」
「そうだよ。定期演奏会の時とか……真衣ちゃん、凄かったじゃん!」

(へぇ、そうなんだ……)
(音楽の事は、やっぱり好きなんだなぁー……)

「そうなんだね! 楽器、何をやってるんだっけ?」
「……トロンボーンやってます」

「トロンボーン? ……どんなヤツだっけ……大きい?」
「いやぁ……そこまでは大きくないですけど……こういうやつです」

真衣ちゃんが、トロンボーンを持っている仕草をしてくれた。左手をグーの形にして胸の前に出して……右手を前後に動かす。

「あっ! 分かる! ……そっか、それがトロンボーンかぁ」
「難しいんですよ。トロンボーン」

(お? トロンボーンの話……真衣ちゃん色々しゃべってくれるじゃん)