16歳、先生になる―女子高生社長の挑戦―

「私たちは経営者じゃ無いですよ?」
「分かってるよ。まぁ、そんなようなもんだろ。……座りなよ」

「はぁい。失礼します」
「いっぱい買ったんだな。たぶん、参考書とか……かな?」

「ですです。お昼に行ってきました」
「関内かな? 有隣堂?」
「そうです」

私たちが住んでいる磯子駅から電車で四つ目の駅。関内駅。

大きな商店街があり、色々なお店が立ち並ぶ。商店街の入口付近には、有隣堂という大きな書店がある。私たちは電車に乗って、有隣堂で参考書類を買い込んできた。

「で? どうなの。塾は」
「聞いて下さいよ! 入塾してくれたんですよ! 一人!」

興奮気味に、前のめりになって遠藤先生に報告した。

「おぉ! 入った? スゴいじゃんか! おめでとう!」
「ありがとうございます! ……いやぁー……嬉しいですよ?」

「だろうなぁ……記念すべき一人目だからな。ずっと忘れないもんだよ」
「やっぱり……そんな感じですかぁ」

「そりゃね。だって……そこから始まった訳だからね。それはうちもそうだし……どの塾だって、どのお店だって同じだよ」

何か思い出すように、遠藤先生が少し遠くを見つめながら……穏やかな表情で話す。

「大変だろ? でも」
「えっ? 何がですか?」

「その生徒だよ。入塾してくれた」
「あぁ……そうですねぇー……先生の言ってた通りでしたよ? 勉強が死ぬほど苦手な子です」

「何年生?」
「中三です」
「だろうね。もう五月だからね。『今から入れてくれる塾』って事と……『新しくできた塾』って事を考えると、勉強がとことん苦手な生徒が来るだろうからな」

「はい……一回だけ体験に来てもらって、入塾してくれたんですけどね。大変でした」
「ははっ……でもね、君たちは若さとやる気があるから。きっと……良い経験になるよ。全力で頑張るべきだね」

「……はい」

同じ仕事をしている先輩からのアドバイスというか、励ましが……こんなに心に染みるなんて……私は思ってもみなかった。

お父さんと智花はいるけど、やっぱり……全然違う。私と智花が経験した事を、ずっと昔に経験していて……何だか物凄く頼もしく感じた。

「どう? 君たちみたいに、栄ケ丘高校を狙えるような……勉強が得意な子の方が良いなっていうか、入塾して欲しいって思う?」

白い湯気の上るマグカップ。「ふぅー……」と息をかけながら、先生は言った。

「うーん……どうなんでしょう……」
智花が、悩むように答えた。

「『来て欲しい』って感じに見えるなぁ。どう?」
「まぁ……来て欲しく無いっていえば……ウソになりますけど……」

「でもねぇ、二人だったら、今のその生徒の方が良いと思うよ。栄ケ丘高校を狙えるような生徒は、今はいない方が良いかな」
「えっ……? どうしてですか?」

智花が驚くように先生に尋ねる。

「……君達じゃ、経験が足りないよ」
「経験……」

「そう。そういうトップレベルの子達はね……人を見てくるよ? 『この人、ちゃんと教えられるのかな?』とか『どんなスゴイ先生なのかな……』とかね。もちろん全員が全員、そうだとは言わないけど。でも、『この先生大した事無いな』って思われたら、辞めちゃう子も多い」

「あっ……」
「思い当たる節……あるだろ?」

そう。私と智花が遠藤先生の所で勉強していた頃、男子が休み時間に「あの先生よりこっちの先生の方が良いな」なんて……良く話をしていた。

もちろん、私を含めて誰にでもそういう事はあるけど……特に塾の場合は、上位を狙うクラスには結構あるらしい。

「だから、そういう生徒の場合は、君たちの『若さと情熱』だけじゃ、足りない時もあるんだよ」

(なるほど……)

私は心から納得した。千夏ちゃんは、何一つ勉強ができない状態だから……「優しく」「分かりやすく」教えてあげると、凄く納得してくれていた。

勉強ができる生徒さんが来た場合……求められるものが、変わってくるって事か……。