16歳、先生になる―女子高生社長の挑戦―

「うん、良いんじゃないかな?」

結局、夕方5時半までの約30分間。解くことができた問題は、たったの6問だった。

お互いが初めましての状態だったりした事もあるけど……これじゃ受験まで間に合うどころか、何年かかるんだろう?というレベル。

「……よし、じゃ、次は英語だね。智花先生だぁ!」

数学を教えるのに没頭していて、「そういえば、どこに行ったんだろ?」と智花を探すと……ガチャリとドアが開く音がした。

「あっ……智花……どこ行ってたの」
「ごめんごめん、ちょっとコンビニでコピー取ってきたから。あっ、数学終わったかな? じゃ、次は英語だね」

私の横を通り、千夏ちゃんの元に歩く智花。手には紙を持っていて「中学1年生」と書いてあるのが見えた。

◇  ◇  ◇  ◇


「ありがとうございました――」

無事に6時までの体験も終わり、千夏ちゃんは深々と頭を下げて、部屋を出て行った。

最初は、お互いに緊張していたけど……帰る時には、笑顔が多く出ていたような気がする。

「いやぁ……終わったねぇ……」
「ね。英里も大変だったね。お疲れさま」

「いやいや……智花も。お疲れ」

千夏ちゃんを見送った後、私たちはぐったりと椅子に座り込む。

背中が丸まってしまい……想像以上に疲れてしまった。勉強を教えただけなのに、うっすら背中に汗をかいている。

「はぁー……こりゃ、大変だ」
「ね。想像以上だよね。不思議よね、遠藤先生の所でお手伝いしている時は……気軽にって言ったら失礼だけど……もうちょっとリラックスしてできたのに」

智花の言っている事は、痛いほど分かる。それは私も同じだったから。

「責任の重さ、かもね……」
「うん。私もそれは思うかなぁ……責任の違いなんだろうなぁって」

「遠藤先生って……何気にスゴイのかも」

私たちは、声を上げて笑う。ようやく緊張感から少し解き放たれたような気がした。

夜の6時半。アパートの外灯は切れそうなのかチカチカと点灯している。私たちは入念に戸締りを確認して、塾を後にした。

「ね、ちょっとお茶しない?」
「……お茶? どこでよ」

「いつものカフェ。今日はさ……私たちの初めての授業日だったんだから、少しだけ。良い?」
「まぁ……そうだね。初めての授業日か。人生で最初で最後だもんね。行こうか」

私たちは磯子駅のいつものカフェで、ささやかなお祝いをした。

「大変な1日だったな……」とちょっと疲れてはいたけど、何とも心地良い疲れ。暗い路地を歩きながら、私たちは駅へ向かって歩いて行った――。