16歳、先生になる―女子高生社長の挑戦―

「さて……」
「もう、夕方5時、過ぎてるね」

本格的に生徒が集まれば、授業は夜の7時からにする予定にしている。

でも体験は1人。部活をやっていないという事だったから、夕方5時に来る予定になっていた。

「来ないなぁ……」
「ま、そのうち来るでしょ……」

昨日お母さんが来て、時間の確認はちゃんとしている。

でも、たった5分来ていないだけで……不思議と見捨てられたような気分になった。

「こんにちはぁー……」

(……来たっ!!)

外から女の子の声がした。反射的に私と智花は「はぁい!」と声を出し、ドアに向かって歩いていた。

ドアのすぐ外に、小柄でショートカットの女の子が、もじもじ……と立ち尽くしている。

「あっ……えっと、千夏……ちゃん、かな?」
「はい……松下です」

私たちよりも1オクターブ高く、か細い声。私たちを探るかのように、ちらりと見ている。

「初めまして! 千夏ちゃん!」
「ささ、入って入って!」

2人で中へ手招きして……千夏ちゃんは恐る恐る玄関に入る。靴を脱いで……ゆっくりと6畳の教室へと入ってきた。

「んー……じゃ、ここに座ろっか」

教室の1番前。ホワイトボードの目の前の机を指さす。

「……はい」
「大丈夫だよ! 緊張しなくて大丈夫! ね? 智花」
「そうだよ! ……怖くないからね」

千夏ちゃんは、私と智花を交互に見つめて、そっと椅子に腰を下ろした。

体験は丁度1時間。夕方6時までの予定になっている。

(あ……何聞けば良いんだろ……)

自分が勉強を教えるというシチュエーションはこれまでの人生で初めて……

改めて考えてみると、何をしゃべれば良いのか言葉が浮かんでこない。

「千夏ちゃんてさ、英語と数学、どっちが苦手なの?」
「んー……両方?」

智花が千夏ちゃんに投げかけた質問。少しおどけて笑いながら、千夏ちゃんが答えている。

「そっか。今、3年生になったばかりだから……展開とか因数分解の計算やってるのかな?」
「あっ、そうです! 今日、因数分解やったけど……あまり分からなかったなぁ」
「そうなんだ。じゃあ……数学は因数分解を一緒にやってみようか? 学校のワークとか……今日持って来てるかな?」
「うん。確か持ってきてるはず……」

千夏ちゃんは学校のカバンをしょってきた。ガサゴソ……と何冊も入っている教科書の間をまさぐっている。

(はぁー……? ちょっとぉー……スゴっ……)

智花が千夏ちゃんと流れるように会話をしている事に、私は言葉が出なかった。

あたふた……と立ち尽くす私をよそに、智花は千夏ちゃんに更に語りかけた。