16歳、先生になる―女子高生社長の挑戦―

「……」

泣いている智花を見て、お父さんは何も言わなかった。

ただ、ずっと……温かく見守ってくれていた。きっとこうなる事が、事前に分かっていたかのように。

「……悔しい、私……」

泣きじゃくりながら、智花が呟いた。

「そうだよねぇ……私たち、全然信頼されて無い……」
「……悔しい……」

両手で顔を覆いながら、智花が震えるように声を絞り出す。

私も自分を何とか保つので精一杯……。これからどうなってしまうんだろう?

「仕方無いよ」

ドアをゆっくりと閉めながら、お父さんが私たちに向かって言う。

「信頼を勝ち取るしか無い。どの仕事もね……最初はこんなもんなんだよ」
「……そうなんだ」
「あぁ。特に2人は若いから。保護者が『大丈夫かな』って思うのは……当たり前だよ。僕が松下さんの立場でも、きっとそう思うと思う」

「……」
「だから、結果で勝ち取るんだ。松下さんの信頼を。それしか無いよ」
「結果で勝ち取る……」

「そう。どの仕事も同じだよ。過程も大切だけどね。でもやっぱり……結果が全てなんだ。何せお金を払ってもらってるんだからね。プロって事だ。楽しさだけじゃ、やっていけないぞ?」
「うん……」

「まぁ。今日は良い経験になったみたいだな。この気持ちを忘れない事。それが1番大切かな」
「そう……だね」

「明日から体験が始まるから。しっかり勉強を教えてあげて、松下さんの信頼をキチンと勝ち取らないとね。『この2人に任せても大丈夫なんだ』って思ってもらわないと」

お父さんの言葉は、私と智花の心の中にスーッと沁み込んできた。

智花も涙を拭いて、前を向いているように見えた。

「だね……そうだね。こっからだ! ……よぉし、見てろよぉ……! 頑張ろう? 智花!」

「うん。やるしかないね! 私も頑張らないとな……」

ショックを受けた初めての面談。

でも私たちは、お父さんのお陰で、明日からの体験授業に向け……やる気を再び取り返す事ができた。

教室の中を手早く掃除して、明日に向けて家路に着く。時計を見ると、夜の7時になろうとしていた――

◇  ◇  ◇  ◇

朝から私の心は揺れていた。

夜に初めて会う、松下千夏ちゃん。「頑張って教えるぞ!」という気持ちと、不安で逃げ出したい気持ち……。

「初日なのに」と思うけど、ずっと心の中に重くのしかかる。授業が全て終わり、智花のいる6組に私は向かおうとした。

「英里―」
「うわっ……智花じゃん。来てたんだ」

私のいる3組のドア。智花が近くに立っていた。思わず私は声を出してしまう。

「やっぱり英里も浮かない顔してるねー……」
「智花もね……いや、昨日は結構応えたよ?」

「ね。やっぱりあんたもかぁ。でも、今日からだよ? 頑張らないとね!」
「うん! 千夏ちゃんだよね? 名前。よぉし! やるよぉ? 私は!」

きっと私は智花と気持ちを合わせたかったんだと思う。

顔を見て「同じ事を思てたんだな」と安心した私は、ようやく吹っ切れる事ができた。

「さ! 向かおうよ。私たちの英智ゼミに!」
「うん。そうだね。お仕事初日だ!」

階段を下りて、私たちは山手駅へと向かう。

歩くスピードも、いつもよりちょっと速い。なぜだろう? ……山手駅から電車に乗って、塾へと近づけば近づくほど……胸がドキドキするのは。

「……さて」

ガチャリと203号室のドアを開け、「よろしくお願いします!」と一礼する。

今日から始まる、私たちの塾。「ここから始まるんだ……」と明るい未来を想像せずにはいられなかった。

「……先ずは?」
「窓開けて……掃除かな」

4時半に塾に着いた私たちは、トイレや教室の掃除から始めた。

まだ生徒はゼロ。

生徒に関するファイルも何も無い。

「教材は週末届くから」と、お父さんに言われていたから、体験は学校でもらっている教材を進めていく事にしている。

時間が経つにつれて、徐々に緊張してきたからなのか……私たちはお互いにずっと無言のまま、掃除を続けた。