「智花―! おっはよぉ!」
「……痛いなぁ。押さないでって」
「へへ……相変わらず、朝からテンション低いなぁ。智花は」
「英里がおかしいのよ。……私が普通なんだって」
私――藤本英里は、この4月で栄ケ丘高校の2年生になった。学校があるJR山手駅は、横浜駅からたった4つ目の駅なのに……すっごい静かな住宅街。
「うちらも、もう2年生だってさ。智花ちゃん」
「……それが何よ?」
「ちょっとは勉強しないとねぇ? ねえ」
「私はちゃんとやってるよ。……あんたこそ、ちゃんとやった方が良いんじゃないの?」
「まあまあ! 私は数学と理科の天才だから。大丈夫だって」
「……そう。なら良いけどね」
学校までは山手駅から長い坂を、15分ほどかけて上っていく。私の見立てでは……40度はある。場所によっては……45度くらいかも知れない。入学した時は、正直3年間この坂を上り続ける自信は無かったけど、「帰りは下りじゃん」という智花の一言で、私はしぶしぶ納得したような気がする。
「てかさ、今日は部活、無いんだ」
智花は中学の時からの同級生。高校に入っても吹奏楽を続けていた。
「うん。久し振りにね。朝練の無い日は天国だね」
「吹奏楽なんて、よくやるよなぁ……引退遅いんでしょ?」
「まあ……9月まではあるから」
「大丈夫なの? 来年」
「……英里と違って、私はコツコツやってんのよ」
「……ま、文系は努力が重要だからね」
1年生の秋に行われた、文系に進むか理系に進むかの調査。私は理系に進み……智花は文系に進むことを決めた。だからこの春から、クラスは違う。
「でもねぇ……部活、悩んでるんだよね」
「……部活? 辞めんの?」
「なっ……なんで分かるのよ」
「えっ? 部活での悩みって……それくらいじゃない?」
「どうしようかなぁって」
「キツイから?」
「まぁ……そんな感じかなぁ。好きなんだけど……もっと勉強したいっていうか」
智花は中学生の頃から、英語や国語が得意。将来は「一橋大学に行って、経済を勉強したい」ってよく言ってる。智花は智花なりに、色々と考えてるんだなぁと思った。
「そしたら、一緒に帰れるね」
私は、帰宅部。部活が嫌いってわけじゃないけど……青春を謳歌したかったから、帰宅部にした。今のところ、ときめく出会いは何一つ無い。
「夕方さ、図書館とか行って勉強できるじゃん!」
「そうなんだよね……そろそろちゃんと勉強したいなぁって」
「流石。『一橋に行く!』って言ってたけど……本気なんだ」
「当たり前でしょ。ちゃんと目指すわよ? あんたもなんじゃないの?」
私は、中3の頃から……東京科学大に憧れている。受験生だった時に、塾で宇宙の勉強をしてからずっと、「東京科学大で、宇宙の勉強をやる」と心に決めている。
「もちろん! 宇宙の研究者になるからね! 私は!」
「……まぁ。目標があるのは何よりだけどね」
「ふふん! ま、見ててよね!」
山手駅から学校までは、ずっと一本道が続く。まだ散り終わっていない春の桜並木は、私たちの未来を、明るく示してくれているように見えた――。
「……痛いなぁ。押さないでって」
「へへ……相変わらず、朝からテンション低いなぁ。智花は」
「英里がおかしいのよ。……私が普通なんだって」
私――藤本英里は、この4月で栄ケ丘高校の2年生になった。学校があるJR山手駅は、横浜駅からたった4つ目の駅なのに……すっごい静かな住宅街。
「うちらも、もう2年生だってさ。智花ちゃん」
「……それが何よ?」
「ちょっとは勉強しないとねぇ? ねえ」
「私はちゃんとやってるよ。……あんたこそ、ちゃんとやった方が良いんじゃないの?」
「まあまあ! 私は数学と理科の天才だから。大丈夫だって」
「……そう。なら良いけどね」
学校までは山手駅から長い坂を、15分ほどかけて上っていく。私の見立てでは……40度はある。場所によっては……45度くらいかも知れない。入学した時は、正直3年間この坂を上り続ける自信は無かったけど、「帰りは下りじゃん」という智花の一言で、私はしぶしぶ納得したような気がする。
「てかさ、今日は部活、無いんだ」
智花は中学の時からの同級生。高校に入っても吹奏楽を続けていた。
「うん。久し振りにね。朝練の無い日は天国だね」
「吹奏楽なんて、よくやるよなぁ……引退遅いんでしょ?」
「まあ……9月まではあるから」
「大丈夫なの? 来年」
「……英里と違って、私はコツコツやってんのよ」
「……ま、文系は努力が重要だからね」
1年生の秋に行われた、文系に進むか理系に進むかの調査。私は理系に進み……智花は文系に進むことを決めた。だからこの春から、クラスは違う。
「でもねぇ……部活、悩んでるんだよね」
「……部活? 辞めんの?」
「なっ……なんで分かるのよ」
「えっ? 部活での悩みって……それくらいじゃない?」
「どうしようかなぁって」
「キツイから?」
「まぁ……そんな感じかなぁ。好きなんだけど……もっと勉強したいっていうか」
智花は中学生の頃から、英語や国語が得意。将来は「一橋大学に行って、経済を勉強したい」ってよく言ってる。智花は智花なりに、色々と考えてるんだなぁと思った。
「そしたら、一緒に帰れるね」
私は、帰宅部。部活が嫌いってわけじゃないけど……青春を謳歌したかったから、帰宅部にした。今のところ、ときめく出会いは何一つ無い。
「夕方さ、図書館とか行って勉強できるじゃん!」
「そうなんだよね……そろそろちゃんと勉強したいなぁって」
「流石。『一橋に行く!』って言ってたけど……本気なんだ」
「当たり前でしょ。ちゃんと目指すわよ? あんたもなんじゃないの?」
私は、中3の頃から……東京科学大に憧れている。受験生だった時に、塾で宇宙の勉強をしてからずっと、「東京科学大で、宇宙の勉強をやる」と心に決めている。
「もちろん! 宇宙の研究者になるからね! 私は!」
「……まぁ。目標があるのは何よりだけどね」
「ふふん! ま、見ててよね!」
山手駅から学校までは、ずっと一本道が続く。まだ散り終わっていない春の桜並木は、私たちの未来を、明るく示してくれているように見えた――。



