確か今日ももう一本ズラしたような記憶がある。


まぁ、そんなのはどうでもいい。


「麗は好きな人、いないの?」


気づけば先程と同じように机の周りに人が寄ってくる。


「うーん…そうだな、海瀬くん…かな」


ここで『いない』などと言えばつまらない奴などとレッテルを貼られる。


海瀬くん。


そんなの根っからの嘘だ。


本当は一小路くんに片思いしているなんて、口が裂けても言えなかった。


――聞いてしまったから。


『一小路っておどおどしててなんかムカつかない~?』


そんなこと、ないのに。

「え、マジ!?そーなんだ~」


「麗、美人だし、海瀬くんとお似合いじゃない!?」


「アタックしてみればいいのにー」


前髪の隙間から覗く綺麗な紺色っぽいアーモンドアイ。


少し茶色がかったさらさらのストレート髪。


クールな顔立ちと塩っぽい態度は女子からも人気がある。


まさにみんなの『理想』の人間。


恋愛感情はない。でも、理想の自分でいるには密かでも海瀬くんを好きでいないと。


「てかさー言おうか迷ってたんだけどさぁ、私彼氏できたんだよね」


いつも私の机に集まってくる三人組のうちの一人。


確か、日花里だっただろうか。


「マジ!?これでうちら全員彼氏できたくない!?」


「なんで言ってくれなかったの!?今度紹介してよー」


「良いけど、結構イケてるから、好きになんないでよ?」