「麗、おはよ~」


「麗、また告白されたんでしょ?」


「マジ!?いいなぁ。返事は!?」


「はは……うーん…断ろうかな」


私の存在は今日も嘘でできている。


「えーもったいなー」


「麗、モテるんだからいい加減彼氏作ればいいのにー」


「いいなぁ、麗は。私にもモテ期、こないかなぁ」


教室はうざったるいほど恋愛の話で充満している。


今日も、嘘で一日が始まる。


自分の味方は自分だけ。


そんなことわかっている。


嫌になるほど、よくわかっている。


誰かを好きになることも、誰かに好かれることも私にはない。


窮屈な場所だけど、すべて自分で選んでやってきたこと。


今更、引き返せるほどの勇気を私は持ち合わせていない。


「あーでさぁ、もうほんっと腹立ったんだからー」


「マジ!?サイテーなんだけど」


「そんな男やめときなよ」


気づけば、私の席は私だけ。


会話はどんどん進んでいく。


ついていけないのは、私だけ。もっと、もっとみんなに釣り合うようにならなきゃ。


分かっていても、なんだか苦しくなるのはきっと気のせいだ。


「ほんと、ロクな男いないわー」


誰かを捨てては、また誰かに恋をする。


これを永遠にループしていくのだ。


ゲラゲラと下品な笑いが今日も教室中に広がる。


毎日が灰色のフィルターがかかったように重く、辛い。


膝丈のスカートもこのネクタイも靡く髪も、全てが私には痛いのだ。


なんとも言い表せないものを抱いてただ今日を生きている。


こんな毎日をいつか笑える日は来るのかな。


心から笑えるようになる日はくるのかな。


保証もなく、ただ窮屈な日々を生きている。


いっそ、いなくなったほうが楽なんじゃないかとも思って、それでもベランダでうずくまっている。


生きていてよかったって思えるようになる日まで頑張って生きている。



なにか、楽しいことをしたい。


そう思っても、簡単に楽しいことなんて転がっているはずもなく。


適当にプレイリストをタップして流れていくだけのBGM。


いつものように聞いているからか、リズムや曲調は嫌でも覚えてしまう。


何気なく流しているこのBGMの先に人がいて、この一回の再生で今日も生きている人がいる。


いいなぁ、大人は楽で。


みんな忙しそうにホームの階段を降りていくけど、私は一人、取り残されている。


煮詰まったように混雑している電車にわざわざ走って乗るほどの元気がない。