「――……、――……た――陽太っ‼」
鉛のように重い瞼を開けると、そこには見慣れた天井があった。
まぶしい。
視界の端に、うっすらと母さんの顔が見えた。
「……母さん?」
上体を起こす。「まだ横になってないとだめよ」と言う母さんを無視して、辺りを見渡した。
間違いない。僕の部屋だ。
「僕、どうしてここに……」
「突然、容態に異変があったのよ」
なるほど、まだウィルスが体の中に眠っていたというわけか。
それにしては、喉も鼻も好調だ。息苦しさはみじんも感じられない。
ただ、頭だけはずきずきと痛む。
痛む頭を押さえれば、母さんはスクワークル型の白い錠剤と、水が入ったグラスを渡してきた。
「薬。しっかり飲みなさい」
「う、うん……」
言われた通り、一錠を水で流しこむ。
――母さんには、言うべきだろうか。
冬休み中に相次いだ体調不良から、僕の記憶はごっそりと抜け落ちている。もしかしたら、ウィルスによる後遺症のようなものかもしれない。
「母さん、」
空になったグラスを盆に載せ、部屋を出て行こうとする母さんの背に声を掛ける。
「どうしたの?」
「あの、さ……――」
眉を垂らしながらも笑みを浮かべる母さんを見て、次の言葉を発せなかった。
ただでさえ心配を掛けているのに、これ以上余計なことを考えさせてしまうのは気が引ける。
言いかけた言葉を呑み込み、代わりの言葉を引き出した。
「僕、ファミレスで倒れたんだよね? そのとき、鳥飼凪っていう同級生が一緒にいたと思うんだけど……」
「えっ?」
意表を突かれたように、母さんは目を丸くした。
その反応に、得体の知れない不安の波が胸に押し寄せてくる。
僕はそもそも、なんでここにいるんだ?
もしファミレスで倒れたのならば、家ではなくどこかの病院のベッドの上で目覚めるはずじゃないか。
倒れて意識を失っていたのだから、この家に着くまでの記憶がないのは当たり前だ。しかし、それよりもっと大事な何かを忘れている気がしてならない。
そして、母さんはきっとそれを隠そうとしている。
「……ごめん。ちょっと寝る」
「うん。そうしたほうがいいわ」
困惑した様子の母さんの背を見送り、僕は布団を頭まで被った。
真っ暗で、狭くて、それでいて温かい。
薬の副作用だろうか。本当にちょっと眠くなってきた。
そっと目を閉じ、微睡む。
気がつけば、僕は深い眠りについていた。


