「はっ?」
「心から、そう思ってる」
ふざけているようには見えない。
本当に、心から僕にいなくなってほしいと、そう思っているようだ。
何だよそれ。ふざけるな。
腹の底から何かが煮えたぎり、僕は堪らず立ち上がると凪を見下ろした。
もう、寒さなんてどうでもよくなるくらい、僕の中で何かが激しく炎上していた。
「……ぜんっぜん面白くないんだけど」
「笑わせようと思って言ったわけじゃないからね」
珍しく、凪のほうから目を逸らしてきた。
そんなつもりはないんだろうけど、その横顔が澄ましたように見えて、余計に腹が立った。
「この前言ってただろ。僕が笑っているだけで、それだけでいい――って」
「あぁ、言ったよ」
「その言葉も嘘だったのかよ」
「嘘じゃないよ。それも本当。本当に、心からそう思って言った」
凪はおもむろに立ち上がると、制服についた砂を払いながら微笑んだ。
そして、屋上の端のほうまで歩いていく凪を、僕は怒り任せに追いかけた。
「僕を揶揄っているのか?」
「そんなつもりはないよ」
「じゃあ何なんだよ! 急にそんなことを言われたこっちの身にもなってくれ」
足を止めた凪の肩を掴み、無理矢理振り向かせる。
いままで触れないでおこうと決めたものに、そっと手を伸ばした。
「……僕の記憶が関係しているのか?」
凪の眉がぴくりと上がった。どうやら図星のようだ。
僕が失くした記憶について知りたがっているということをわかっていながら、何事もなかったかのように接してきていたということか。
だとすれば、鳥飼凪という男はかなり意地悪だ。
「僕に恨みでもあるのか?」
「…………」
「おい、凪。何とか言ってくれよ」
もしも、失った記憶の中で僕が凪を傷つけていたとして、その復讐として僕に近づいてきたとしたら?
――いや、それはないか。
だって凪は、僕が笑っているだけでいいと言ってくれた。その言葉に嘘はなかった、とも。
彼の言葉を全面的に信じるのであれば、僕が恨まれているということではなさそうだ。
それなのに、凪は何も話してくれない。
冬風を全身に受けながら、なおも澄まし顔で屋上から見える景観を眺めている。
まるで僕のことは、視界にも入っていないように。
「……凪、」
「…………」
「凪――っ!」
驚いた。
「……泣いているのか?」
どうにかして視界に入ろうと前に回り込んだところで僕の目に映ったのは、涙を流している凪だった。
僕の問いに驚いたように反応すれば、凪は慌ててそれを拭った。
「どうして――」
「……おかしいなぁ。全部、プログラムされてるはずなのに」
――プログラム?
いったい、何のことだ。
「ねぇ陽太、ここが本当に現実だと思う?」
「何言ってるんだよ、そんなの当たり前だろ」
「ここは、仮想現実なんだよ」


