会いたい。けど、会えない。

「俺……俺、ずっと佑真さんに会いたかった! あの時のお礼を、ちゃんと会って目を見て伝えたいって、ずっと思ってた! けど……けど、怖いんだ……」
 
「怖い……? オレがやっぱり怖いのか? だから会いたく……」
 
「違う!」
 
 俺は必死に首を横に振りながら、佑真さんの言葉を遮った。
 
「佑真さんは何も怖くない! 俺なんかに優しくしてくれて、何度も助けてくれて……。俺にとって佑真さんは……佑真さんは特別なんだ……。だから、怖いのは……佑真さんに嫌われることなんだ……」
 
「なんでオレが千隼のこと嫌いになるんだよ。嫌いになんてなるかよ」
 
「そんなの分からないよ! 俺は……」
 
 また息が詰まりそうになる感覚に襲われるが、俺は必死に言葉を続ける。
 
(ちゃんと伝えないと……! もう、誤解されたくない……!)
 
「俺は……。人と直接会うと、ちゃんと話せないんだ……。顔を……目が見れないんだ……。こんな俺、きっと気持ち悪いから……。佑真さんを不快にさせちゃうって……。だから……」
 
 オレの目から自然と涙が溢れ、頬を伝っていった。
 
(俺、泣いて……)
 
 ずっと隠していたことを佑真さんに全て明かしたことに俺は気が付くと、足から力が抜け、その場に座り込んでしまった。
 
「千隼……。それはアイツらが原因なのか……?」
 
「違う……。本当はあの人たちに会ったこともないよ……。もっとずっと……子供の頃からなんだ。俺は……学校にも行けなかった引きこもりなんだ。誰にも会うことができない……俺は出来損ないなんだ……」
 
「千隼は出来損ないなんかじゃない。オレが保障する。それに、オレだって完璧なんかじゃない。アイツらは千隼に会ったのかって、バカみたいに嫉妬して……。迷惑も考えないでここまで押しかけてきて、我ながら呆れてる。こんな本当のオレは、千隼をがっかりさせるだけかもな」
 
「しないっ! するわけないっ!! だって、佑真さんは俺にとって……俺にとって……」
 
 俺は必死に首を横に大きく振った。
 
「なあ、千隼……。このドア、オレが開けていいか……?」
 
「えっ……」
 
「千隼が開けられないなら、オレが代わりに開ける……。いいか?」
 
「あ、待って……!」
 
 返事をするより先に佑真さんによってドアがゆっくりと開けられたため、俺は玄関タイルに座り込んだまま慌てて片腕で目を覆い隠した。
 
「千隼……」
 
「ご、ごめん……。俺、本当に……」
 
 すぐ目の前に佑真さんが立つ気配を感じながらも、俺は顔を上げることができず、目を腕で隠しながら俯いた。
 
 すると、そんな俺の前にゆっくりと膝をついた佑真さんは、目元を隠す俺の腕を優しく片手で掴んだ。
 
「大丈夫だから……。千隼、ちゃんとオレに顔を……目を見せて?」
 
 ドア越しでもなく、耳元で佑真さんの声が俺に届く。
 
 優しい佑真さんの声に、俺は自然と全身の力が抜けていった。
 
「佑真、さん……」
 
 佑真さんの声と優しく掴まれた腕。
 
 初めて感じる佑真さんの手のひらの温度。
 
 佑真さんに導かれるように、俺は目元から腕をゆっくりと離していった。
 
 すると、涙でぼやける俺の目に、佑真さんの姿が映し出された。
 
 SNSにアップされていた手で顔を隠した姿ではない、優しく微笑む佑真さんの素顔だった。
 
(この人が……佑真さん……)
 
 切長の目に流行りの髪型、誰がどこから見てもイケメンで、俺の胸は自然と高鳴った。
 
「やっと、会えたな」
 
 そう言って、佑真さんは俺の前髪を指に絡めて掻き上げると、ゆっくりと顔を近づけた。
 
「えっ……あっ……」
 
 あまりの近さに恐怖より驚きが勝った俺は、佑真さんの瞳の中に映る自分自身をただ見つめることしかできなかった。
 
「なんだ、可愛いじゃん」
 
 悪戯をした子供のように無邪気に笑う佑真さんの顔に、俺は思わず見惚れ、頬が熱くなるのを感じた。
 
「勝手に怒ってごめんな」
 
「う、うん……」
 
「よし! じゃあな」
 
 満足気な表情を浮かべた佑真さんは、俺の前髪に絡ませていた手を離して立ち上がると、俺の頭をそっと撫で、そのまま出て行ってしまった。
 
(えっ……? えっ、え?)
 
 突然の嵐のような出来事に、状況が読み込めない俺の頭は混乱していた。
 
『可愛いじゃん』
 
 佑真さんの言葉が耳に残ったまま、何度も俺の脳内で繰り返される。
 
 俺は頬の熱を確かめるように、自分の両頬に手を添えた。
 
 頬は酷く熱くなっていた。
 
「あれはずるいって……。仕草までイケメンなんて……反則だ……」
 
 俺は天井を見上げて目を瞑るが、今度は佑真さんの満面の笑みが焼き付いて離れなかった。
 
(どうしよう……。もっと好きになっちゃったよ……)
 
 そんな俺の背後にそっと置かれた、俺の神推しからの誕生日プレゼントの存在に気付いたのは、もっと後の話だ。