好きなものを好きだと言うこと。

「……あの」
 扉に身を隠し顔だけを覗かせたのは泉谷だった。鳥たちが忙しく鳴く程の早朝。校舎内は早くもバタついてしかたがない。
「泉谷も体育大会本気で挑めよ」
 部屋に一歩と踏み入れた足音、それに意識をとられ視線が揺れる。
 目の前には黄色く、そして彩られた泉谷の姿。
 茶髪ではなくすっきりとした黒髪。
 目元で光るパール。
 フリルが揺れる膝丈のスカート。
「なに縮こまってんだよ、堂々としとけ。そんなんじゃ可愛いものも輝かないぞ」
「……あれから笹宮と話したんだ。そしたらフリル追加してくれて、ウィッグもとってみたんだけど」
 口をもごもごと動かす様子に焦れったさを感じてしまう。
「お前が思ってるより似合ってるし全然変でもねえよ。だから胸を張れ」
 胸を張れ、なんて酷だっただろうか。
 その言葉を受け取った泉谷の表情をみて俺は安堵した。大人の言葉が時に負担になることだってあると知っているからこその、心からの安堵。
 ポケットをまさぐり差し伸べられた手にはあのネックレスがあった。
 丁重に。壊れ物を扱うよう手に取り泉谷の首元に手を伸ばす。
 チェーン同士が結ばれ、揺れた落ち着いたリング。
「そろそろ行こうか、泉谷」
「海里先生。あの頃も今も、背中を押してくれてありがとね」
 前を歩くその背中を見守り、俺はその後ろをそっとついて行く。











fin.