好きなものを好きだと言うこと。

 項垂れる暑さに身体の水分が持っていかれる中、クラスの盛り上がりも想像以上に暑苦しい。
「はい、チアの服は笹宮がリーダーとなって進めるそうです」
 前に立っているはずなのに俺から見えるのは顔と、数人は背中。ちゃんと聞けっつうの。手元を動かし声で伝えることはこんなにも難しいのだとつくづく思う。
「じゃあチアをやりたい人をここのクラスからは三人。挙手制でいいですか?」
 目線を窓辺に向けると見える泉谷の不安感。安定に棘は見えるけど……案の定項垂れてんな。この大勢の中、挙手にしたのは酷だがこの方がきっとあいつとクラスの為になる。
「俺さあ、前から思ったんだけど泉谷ピッタリじゃね?スカート普段から履いてんだし!」
 暖かみのあるような言葉の先端は、口にした本人が思うよりも鋭いことにまだ気づいていない。ただそれ以上に受け取った側がどう思うか……。
「お、俺……やりたい、です。もちろんみんながいいならだけど」
 無数の見開かれた目が見つめた先は、声を振り絞った泉谷だった。大人が入る隙もないくらいにクラスの雰囲気がガラリと変わる。
「いいじゃん!俺も気合い入れて作るから期待しとけよー?」
「えーじゃあ僕は泉谷くんと対決したい!僕の方が似合ってみせる!」
「チア泉谷と写真撮りてーから俺もやる」
 騒がしさが込み上げると同時に泉谷から溢れ出る笑顔。そしてあいつの指先は人の温もりに触れ迷いもなく、ピンと上に伸びていた。
「はい、じゃあ三人決定しました。三人は衣装係と話し合って作業を進めておいてくださいね。ではその他の係について__」
 黒板がクラスの生徒の名前で埋め尽くされた頃、丁度授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。勢いよく、一斉に立ち上がったと思えば挨拶を催促されていた。
「ではこれにて六限の授業を終わります。礼」
 ありがとうございました、はちゃんと揃えるんだよなこいつら。大人から見てちゃんと高校生らしく、でも短期間での成長も垣間見える。やっぱりこんな瞬間が一番教師としてのやり甲斐を感じた。
 帰りのホームルームも終わり、放課後は忙しなく係を全うする生徒たち。
 教室には会議を行う衣装係とチア役。図工室には巨大パネルと向き合う塗装係、体育館では冷房に当たりながら流れ確認を行う応援団長。
 懐かしいなほんと。前の学校とは少し違うが……この緊張感と焦燥感は毎年恒例らしい。
 俺は少し遠回りして、職員全員が待ち構える職員室に足を踏み入れた。