クラスを受け持ってはや一ヶ月。俺の教師としてのルーティーンができた。ほんと些細なもの……と言い切りたかった。
まず朝の校舎に入り、職員室に挨拶。第二の職員室に入ってエナジードリンクをぶち込む。そして。
「先生おはよう」
なぜか泉谷が尋ねてくる。飲みかけの缶を揺らしながら対応するとこまでが欠かせないワンセット。
「ほんっとに飽きないですねー泉谷さん」
「そのキャラもういいです。俺の前では普通に喋ってもらって構わないので」
「敬語はキャラじゃなくて教師としてだっつうの……」
名前を確認された日からやけに懐かれた。独り言が虚しく消えることなく泉谷に届いてしまったこともあったせいで。
日当たりの悪い一角の部屋に、まあよくも飽きず懲りずとただ居座るだけの日常。学生にとってそれこそつまらないだろうに。
「今度体育大会あるじゃないですか」
名前を聞くと大人がたどり着く言葉は鬼畜行事。
グラウンドなんて想像するほど吐き気を催す。日陰があってもあの古めの倉庫の屋根下だろうか。ましてや生徒たち苦痛の音を聞くだけでも気が滅入る。
「男子校だからか謎にチアやるみたいで」
「まあ特有の盛り上げ方だな」
床に行動力が落ちてるわけでもないのに。意味のない時間が飛び交いだし、俺はとっさにかき消す。
「やりたいんだろ? そういや、たまたま今日の授業で交流を設けてるんだが。良い機会だと思って話しかけてみろよ」
額には不満げに集まる皺。だが吊り上げられた目頭が脱力を覚えたように少しずつ下がっていった。
「嫌だけど……チアの衣装、可愛いしやりたいから」
でも泉谷は時々、こうやって本音を伝えてくれるようになった。多少は俺に心開いてくれてる、と思いたい。
「そういや笹宮がお前と話したいって言ってたな。でもお前あまりにも周りに威嚇する雰囲気出してるからさ、まずはその棘。しまうんだぞ」
「棘って、なに言ってるか分からないんですけど」
「だって」
初めましては眉と目頭を釣り上げ、そんで少し背を丸めながら威嚇体勢になるあの感じ。
「お前ハリネズミ系じゃん」
訳もわからず場が凍りつく。若者の流行をうまく織り交ぜたはずだが。
その日見かけたのは、机に置かれた一枚の紙切れだけ。丁寧な文字とは裏腹に残された殴るような言葉に風邪をひきそうになった。
「引きましたあ? なんっだあいつ」
子供じみた紙切れ。俺の感情はたった一つのそれに情けなく振り回された。
まず朝の校舎に入り、職員室に挨拶。第二の職員室に入ってエナジードリンクをぶち込む。そして。
「先生おはよう」
なぜか泉谷が尋ねてくる。飲みかけの缶を揺らしながら対応するとこまでが欠かせないワンセット。
「ほんっとに飽きないですねー泉谷さん」
「そのキャラもういいです。俺の前では普通に喋ってもらって構わないので」
「敬語はキャラじゃなくて教師としてだっつうの……」
名前を確認された日からやけに懐かれた。独り言が虚しく消えることなく泉谷に届いてしまったこともあったせいで。
日当たりの悪い一角の部屋に、まあよくも飽きず懲りずとただ居座るだけの日常。学生にとってそれこそつまらないだろうに。
「今度体育大会あるじゃないですか」
名前を聞くと大人がたどり着く言葉は鬼畜行事。
グラウンドなんて想像するほど吐き気を催す。日陰があってもあの古めの倉庫の屋根下だろうか。ましてや生徒たち苦痛の音を聞くだけでも気が滅入る。
「男子校だからか謎にチアやるみたいで」
「まあ特有の盛り上げ方だな」
床に行動力が落ちてるわけでもないのに。意味のない時間が飛び交いだし、俺はとっさにかき消す。
「やりたいんだろ? そういや、たまたま今日の授業で交流を設けてるんだが。良い機会だと思って話しかけてみろよ」
額には不満げに集まる皺。だが吊り上げられた目頭が脱力を覚えたように少しずつ下がっていった。
「嫌だけど……チアの衣装、可愛いしやりたいから」
でも泉谷は時々、こうやって本音を伝えてくれるようになった。多少は俺に心開いてくれてる、と思いたい。
「そういや笹宮がお前と話したいって言ってたな。でもお前あまりにも周りに威嚇する雰囲気出してるからさ、まずはその棘。しまうんだぞ」
「棘って、なに言ってるか分からないんですけど」
「だって」
初めましては眉と目頭を釣り上げ、そんで少し背を丸めながら威嚇体勢になるあの感じ。
「お前ハリネズミ系じゃん」
訳もわからず場が凍りつく。若者の流行をうまく織り交ぜたはずだが。
その日見かけたのは、机に置かれた一枚の紙切れだけ。丁寧な文字とは裏腹に残された殴るような言葉に風邪をひきそうになった。
「引きましたあ? なんっだあいつ」
子供じみた紙切れ。俺の感情はたった一つのそれに情けなく振り回された。



