「泉谷さんじゃないですか。こんなところで何を? 」
単なる気まぐれで声をかけてみた。
威嚇を掻き立てた泉谷の視線が俺に向く。
「さっきの時間、やっぱり退屈でしたか? 」
「……軽蔑しないんですか」
「えっなんで軽蔑しなきゃいけないんですか」
それに理由もなければ、必要もない。間を壊すように漏れ出てしまった本音が絶妙な雰囲気を生み出す。
「え? なんでって……男なのに気持ち悪いとか、色々あるでしょ」
情けない俺を上回ってしまう腑抜け顔、そして上ずり声。強張った体から思わず力が抜けていく。
「ないでしょ。それに生徒本人の意思を学校側が了承の上。なので自由ですよ、私や他の人が口出すところじゃないですし」
「そう、ですか」
後、見えたのは身守るように立てられた棘が萎んでいくようなそんな思い込みの幻覚。
目を解しつつ脱力がてらフェンスに体を委ねた。澄んだ空気は最高に気持ちよくて、なんだかボロがでてしまいそうで俺はどこか気が気じゃない。
「三限目、始まるのでぼちぼち行きましょうか」
自分の発した言葉の重さが体にのしかかり、思わずこの足を止めてしまいたくなった。上手く生活を送れている子供たちの前に立つ、そんな事の重大さから感じるのが尋常じゃない圧迫感。
「まだもう少しいます」
「じゃあ私もいます」
横目で見定められ、子供に救われてしまった。甘えるよう隣に並び頬杖をつく俺の目に映るのはもちろん車の群れ。そんな飽きるような景色の中、泉谷は一つの場所を魅入って眺めていた。
「あそこの店には可愛いものがいっぱい置いてあるんだ」
低めの声に惹かれ見るは雑貨店。そこに書かれた文字は結び。
なーにが結びだ……あそこはもう行きたく無い。けど。
「確かにそうですね」
肯定的な相槌に目を見開く泉谷は笑う俺を不満げに一度見つめ、視線が戻る。
「入ったことあるんですね」
「まあ一度だけ。これとかを買ったことはありますね」
スマホに下がったリングはくるりと踊る。泉谷の視線は青紫に輝くリングではなく、なぜか俺に向いていた。
授業では見られなかったその瞳はとても綺麗だった。
澄んだ黒に混ざった景色と俺の影。
髪の毛はさらりと揺れている、近くで見て確信したのは茶髪のロングウィッグを被っていること。その隙間から覗き見える黒髪。
そして考えが読めないことによる不安感。
「それ……可愛いですよね、期間限定のやつ。幼くて」
泉谷の視線、それは想定より下に落ちていく。覗き込んでわかったのは柔らかな笑顔をこぼしていたこと。それもあってますます何を考えて生きているのかわからなかった。ポケットの裾を握りしめるせいでブレザーに皺が寄ってしまっているし。
「そんなに力強く握ると皺になりますよ。ほら、そろそろ授業に行きましょうか」
「海里先生! えっと……下の名前って何でしたっけ」
再び俺の足を止めたのは、泉谷の背中を貫くような声。これは一歩前進、ってことでいいんだよな?
「海里朱雨です、ぜひ覚えておいて」
予鈴が鳴り響く廊下をいそいそと渡り、再び教室へ泉谷と共に足を踏み入れた。もちろん教師としての喜びを噛み締めて。
単なる気まぐれで声をかけてみた。
威嚇を掻き立てた泉谷の視線が俺に向く。
「さっきの時間、やっぱり退屈でしたか? 」
「……軽蔑しないんですか」
「えっなんで軽蔑しなきゃいけないんですか」
それに理由もなければ、必要もない。間を壊すように漏れ出てしまった本音が絶妙な雰囲気を生み出す。
「え? なんでって……男なのに気持ち悪いとか、色々あるでしょ」
情けない俺を上回ってしまう腑抜け顔、そして上ずり声。強張った体から思わず力が抜けていく。
「ないでしょ。それに生徒本人の意思を学校側が了承の上。なので自由ですよ、私や他の人が口出すところじゃないですし」
「そう、ですか」
後、見えたのは身守るように立てられた棘が萎んでいくようなそんな思い込みの幻覚。
目を解しつつ脱力がてらフェンスに体を委ねた。澄んだ空気は最高に気持ちよくて、なんだかボロがでてしまいそうで俺はどこか気が気じゃない。
「三限目、始まるのでぼちぼち行きましょうか」
自分の発した言葉の重さが体にのしかかり、思わずこの足を止めてしまいたくなった。上手く生活を送れている子供たちの前に立つ、そんな事の重大さから感じるのが尋常じゃない圧迫感。
「まだもう少しいます」
「じゃあ私もいます」
横目で見定められ、子供に救われてしまった。甘えるよう隣に並び頬杖をつく俺の目に映るのはもちろん車の群れ。そんな飽きるような景色の中、泉谷は一つの場所を魅入って眺めていた。
「あそこの店には可愛いものがいっぱい置いてあるんだ」
低めの声に惹かれ見るは雑貨店。そこに書かれた文字は結び。
なーにが結びだ……あそこはもう行きたく無い。けど。
「確かにそうですね」
肯定的な相槌に目を見開く泉谷は笑う俺を不満げに一度見つめ、視線が戻る。
「入ったことあるんですね」
「まあ一度だけ。これとかを買ったことはありますね」
スマホに下がったリングはくるりと踊る。泉谷の視線は青紫に輝くリングではなく、なぜか俺に向いていた。
授業では見られなかったその瞳はとても綺麗だった。
澄んだ黒に混ざった景色と俺の影。
髪の毛はさらりと揺れている、近くで見て確信したのは茶髪のロングウィッグを被っていること。その隙間から覗き見える黒髪。
そして考えが読めないことによる不安感。
「それ……可愛いですよね、期間限定のやつ。幼くて」
泉谷の視線、それは想定より下に落ちていく。覗き込んでわかったのは柔らかな笑顔をこぼしていたこと。それもあってますます何を考えて生きているのかわからなかった。ポケットの裾を握りしめるせいでブレザーに皺が寄ってしまっているし。
「そんなに力強く握ると皺になりますよ。ほら、そろそろ授業に行きましょうか」
「海里先生! えっと……下の名前って何でしたっけ」
再び俺の足を止めたのは、泉谷の背中を貫くような声。これは一歩前進、ってことでいいんだよな?
「海里朱雨です、ぜひ覚えておいて」
予鈴が鳴り響く廊下をいそいそと渡り、再び教室へ泉谷と共に足を踏み入れた。もちろん教師としての喜びを噛み締めて。



