ミミが望むなら、賭けを理由にされてもいいから距離を取ろうかとも思った。

俺の行いを知ったら、呆れられると思った。
離れていった人達には言い訳なんかしなかったけど…ミミには、呆れられてしまったら言い訳しようとも考えていた。
けど、そんな心配よりも、俺の心配をしてくれた。離れるよりも、近づく事を望んでくれてた。…俺の身体にも救いの手を…
言葉には言い表せない。どんどんミミが好きになる。
求められる喜びを初めて感じた。

人の欲求…性欲にはどこか嫌悪感すら抱いていたのに…
ミミが俺で欲情してる?いつから?

「……ミミも脱いで…?」

近くで見る仕草…目の動きとか…いつも色っぽく見えるのは何で…?
整った造形の身体や肌触りは勿論だけど、今まで見てきた人達の中で1番心が綺麗で優しい人。
そんなミミが俺の前で、しかも初めて理性を投げ出してる。

首に手を回され、首筋に噛み付かれてる痛み。けどその痛みでさえ快感と混ざる。

「……ハァ…ハァ……
……ミミ……ミミ…?こっち向いて…?」

息がすぐには整わない、全ての感覚を味わったら感覚が鈍くなるように、身体も気持ちもふわふわに軽くなった。
首元からこちらに動いた顔を見ながら心の底から溢れてくる想い…
好き…
出会えて良かった…ミミとずっと一緒にいたい…
ミミとキスを優しく繰り返しながら、そう願った。


 朝の電車の中。まだ足を痛めてるミミと早めに電車に乗り、出来るだけ座って過ごす。

「…今度、東京に行こうかな…」

「…お父さんの所?」

「んー…」

目を少し見開きながらも細かく頷くミミ。

「ミミも一緒に遊びに行く?」

「え?遊び?
…お父さんと用事あるんじゃないの?」

「まったく。
あの人、俺の母親からの手紙が届いてるのに
ついでに持って来てもくれないし、
送ってもくれないから」

「へー、お母さん。…うん。僕も行こうかな…」

両親の事や向こうでの交友関係をミミは聞いてこないし、俺も初めて出した母親の話題。

「…母親、写真撮る人でさ。
海外転々としてて、
こっちからは殆ど連絡取れないんだけど…
年に3.4回、写真が送られて来て…」

「…うん。それは取りに行かなきゃね」

今度は笑顔で細かく頷く。ミミに相談すると、こんなに気持ちが軽くなるんだ…

「…母親が…俺が撮った写真を見たいって…
離れてても、写真を後で見れたら…
嬉しいって……写真の現像、
母親が教えてくれるって…約束してて…」

電車に揺られながら言葉を紡ぐ。ミミが隣で優しく頷きながら聞いてくれる。

「…ごめんね、なかなか俺の写真見せられなくて。
今度、母親が日本に帰って来た時には
現像するから…」

「…うん。楽しみにしてる…」

座りながら、鞄を膝の上に乗せてる俺達。その鞄の下で誰にも見られないように手を握った。ミミからも指が絡められ、握り合う手。降りるまでこのまま…
こんなやりとりを、電車で何度も繰り返した。


 数日後、母から帰国の連絡が来た。東京で会うものだと思っていたが、母の地元も父と同じだったらしく、母がチイ婆ちゃん家の近くまで来て、知り合いの写真館へ呼ばれた。

「久しぶりね。…元気そうじゃない」

「母さんも」

「フフッ…じゃあさっそく写真見せて貰おうかな。
現像、始めるわよ」

 ミミに写真を見せるのはサプライズにしたくて、今回母に会う事は秘密にして来た。この後、大量の現像した写真を持って帰ったらビックリするだろうな。
 写真を現像していると、やはりミミばかり。実際にもミミばかりであろう俺の生活を母さんが気にならないはずもなく…

「この子はだれ?」

「光史っていう隣のやつ」

…別に嘘はついてない。好きな人って言えるほど、俺は素直じゃない…

「ずいぶん仲がいいみたいね?」

「まぁね。いつも一緒にいるし」

「……ねぇ、この写真、
私の写真展で貴方の作品として展示してもいい?」

「え?なんで…」

「私が凄く気に入ったから」

「……本人に聞いてみないと」

「ダメって言うかな?」

「ダメとは言わないだろうけど、
恥ずかしいって言いそう…」

「じゃあこうしようよ…………」

母が出してきた展示方法案には驚いた。
流石母…俺の事を理解してるし、ミミの事まで理解してそう。

「光史君のこと、大事にしなさいよ?」

「…当たり前」

「あなた、口下手で心配なのよ…」

「分かってるよ。頑張るよ。これからもミミには…」

「ミミって呼んでるの?
じゃあ輝良はなんて呼ばれてるの?」

「……テテ」

ニヤニヤと嬉しそうに聞いてくる母親に、恥ずかしくて気まずいながらも返事をしたら、母親が笑いながら泣き出した。泣き笑いというやつだ。

「良かった。田舎へ行かせて…
光史君とおばあちゃんのおかげだけど
やっぱり輝良は素直でいい子に育ったわ」

「…いい子って…田舎に行かされた理由だって…」

「え?お父さんが言ってたこと?
そんな事あるわけないじゃ無い。
なんで輝良がそんな事するのよ。
まぁ私に相談してくれたら、とは思っていたけど。
ただただ、輝良が心配だったから…」

 ここにもいた。離れているけど、やはり俺の事を100%…120%?それぐらい信じてくれる人が。
そんな人に、俺が素直にならなくてどうするっていう…

「……ミミが好きなんだ。
えっと、そんな意味で…
男だけど、ずっと一緒にいたいと思ってる」

「分かるわよ。あなたの母親よ?
分からないわけないじゃない」

「………ありがとう」

「ううん。こちらこそ。話してくれてありがとう」

この人の案で、ミミに大量の写真を見せるのは先送りになってしまったけど…この人のおかげで、ミミにきちんと愛を伝えられそうだ。