『間違っても何も起きない』

………………僕とベットで過ごしても。

わざわざ言われなくたってわかるよ。そんな牽制しなくても。僕は…ベットの上、テテの腕の中で、自分のものが反応しない事を必死に願っていたけど。


「……なんで俺に恋愛相談…」

「結城先輩が呼び出したんじゃないですか。
頼んだの僕だけど…
昼休み…テテは今頃きっと1人で…寝てるかな」

部室の前。進学準備で出かけて、お土産を買ったから
取りに来いと呼び出された。

「ああ、アイツが待ってるからって
そんなに急ぐなって言ったら
何でいきなりベットの話に…
あー、俺に慰めて欲しい?
確かに光史と2人で身体くっ付けてたら
俺は絶対勃つね」

「……好きって程じゃなくても
変な気持ちになったらそうなる事ありますよね?」

「好きだから変な気持ちになるし…
変な気持ちになるって事は好きって事じゃねーの?
あ……お前また俺の話はスルーだな?
……お前…俺の時は絶対認めなかったのに
アイツであっさり自覚かよ…」

「…!違いますよ!僕も勃ちませんでしたよ!」


 素肌の脚から感じる温もりと、頭にかかる息の温もりを感じながら必死に違う事を考えた。

雨…あめ…アメ……雨が降ってる……雨…空…月…星……そうだ、今日…流星群が見れるんだ……あの山の上の公園でテテに見せたら綺麗な星空を喜んでくれるかな……田舎に……ここに来た事。僕と出会った事…喜んでくれるかな……とか。


 教室に戻ると僕の席に顔を伏せて寝ていた。隣のテテの席に座るとテテはゆっくり起きて動き出しこちらに向き直す。

「……何して来たの」

「コレ。結城先輩からのお土産。
帰ったらチイ婆ちゃんと食べよ」

「……」

無言でテテの膝が僕の脚に当たる。当てて来てるのか、何度もぶつかる。…続く無言。置いてかれて拗ねてるとか?まさかな。

「あ、今、高校生なのにお土産とか
じじ臭いとか思ってるだろ!?
先輩の進学先が韓国だから僕が頼んだんだよ!
お菓子とか…」

「…あの人韓国行くの?」

「うん。留学するみたい」

「……いいの?」

「いいよ?……そういう関係じゃないし。
……僕、違うから。
テテは勘違いしてるかも知れないけど…違うから」

言い聞かせるように、当たる膝を止めるように手で抑えた。

「……そう。
…ねぇ…補習の後だから暗いかもだけど
またあの公園行きたい。…帰り寄ろ?」

口説かれでもしてるみたいに、テテの膝の上の僕の手の上に重ねられるテテの手。
見つめられてこんな聞き方されたら断れるわけ無いし…

「いいけど…寒くても文句を言うなよ?」

「もちろん」

…公園、気に入ってくれたみたいで嬉しい。
『僕、違う』は、どこまでの否定と受け止めただろう…


「…鼻水出てきた…」

 テテがティッシュを探して鞄をゴソゴソしてる間に僕はポケットからテッシュを出して渡した。

「あんがと。寒くて…」

「ほら、寒いって言ったじゃん」

「大丈夫だよ!ただ鼻水が出て来るってだけで…」

 補習を済ませ、今朝まで居た公園にまた来た。
辺りはもう暗くなってきて、星が輝きだす。夕焼けは自転車に乗ってる間に終わり、ここでは見れなかったけどまだ闇が深くなる前の何故か1番寂しくなる時間。

「今も流れ星、見れるかもね…」

返事は無く、真剣にカメラを構えて見上げる空、正面で構える山、見下ろす町並み…丁寧にゆっくり動くカメラ。邪魔してはいけないと思って暫くそのまま、シャッター音とフィルムの音に耳を澄ませていた。
カメラを下ろしこちらを向いたテテに、やっと話しかける。

「撮った写真見たいな。
今までの写真…昔撮った物も。今度見せてよ」

本気で彼が見ている世界、見て来た世界を見てみたい。

「んー……」

「また適当に返事して…本気で見せてよ?
…こっちに持って来て無い?とか?」

「んー……」

話し出すと乾燥する唇が気になって、空を見上げながらリップクリームを塗った。

「…俺も塗りたい」

「ああ、リップ?はい」

塗り終わったリップクリームをテテの手の平に乗せたはずが、地面に落ち、坂を転がりだす。

「あ!!や!………あー…」

転がった先は竹やぶの様な林の中。そして暗くて探しても見つかるかどうか…

「ごめん!貸せなくなっちゃった…」

本当に申し訳ない気持ちでテテの顔を見て本気で誤った瞬間、一気に顔が近づいてきて驚いた。
唇が重なった。
多分。すぐは理解出来なくて数秒間、固まる僕。

「……あ、ごめん。
リップを俺の唇にも分けて貰おうと…」

リップ…リップ…保湿………保湿の為…?

「…だからって…
いきなりビックリするだろ!普通しないし!」

「そうだよね、だからごめんって。
…ミミの唇から直接つければ…
キスすれば付くかなって…」

「キスとか言うなよ!恥ずかしい…」

「……ごめん」

直接って…やっぱりこれってキス…
言葉が出ない代わりに、山の寝床に帰ってきた鳥達の騒々しい鳴き声が響くけど…それよりも騒ぐ僕の心臓。
…僕の心臓の音は聞こえてないかな。大きな音、異常な速さで跳ねる心臓。
初めてのキス。ファーストキス。
キスって言えるものじゃ無いのかもしれないけど…
暫く2人無言で空を見上げた。公園に数個ある灯りは少し離れていて僕の赤い顔は気付かれないから……やっと…心臓が落ち着いてきたかなって思ったのに…

「…いきなりじゃ無ければいい?
ミミはリップを俺に分け与えるだけと思って…」

「からかうなよ。キスって言った……キスはヤダ。
なんでリップを分け与えるのに
しなきゃいけないんだよ…」

「……からかってないよ…」

僕の事、何とも思ってはないけど唇を重ねられるくらいの存在…って事なんだろうか。
それだけでも嬉しくなるのは、やっぱり自覚しないといけないのかな。
テテを好きになり始めてるという事。
自覚すると…余計意識してしまいそうで嫌なのに。