「私をもらってくれませんか!?」
「ごほっ!?」

 い、いきなりなにを言い出すんだ……?

「それは、どういう……?」
「そのままの意味です。私の体、心、魂……セイルさんに捧げたいです!」
「ごはっ!?」

 ともすれば犯罪的な流れだ。
 再び咳き込んでしまう。

「ふ、ふざけてんのか……?」
「エルフは、とても義理堅い種族なのよ」

 アズが説明をしてくれる。
 彼女は、まったく慌てていないけど……この流れは想定内だったのだろうか?

「受けたは恩は必ず返せ。受けた恩の大きさに応じて、それ相応の対価を払え、ってね」
「私達は命を助けてもらいました。ならば、この命はセイルさんのものです。だから、私達をもらってくれませんか?」
「んな深刻に考えんでも……というか、アズはそれでいいのかよ?」
「あたしは、まあ……あんたなら、いい……かな?」

 少し頬を染めて。
 指先で髪をいじりつつ、明後日の方向を見つつ言う。

 一方のユナは、とても真剣な顔だ。
 ただ、照れは感じているらしく、こちらもやや頬が赤い。

「わ、私、なんでもしますから……! セイルさんの役に立てるように、がんばります! よ、夜の経験はないですけど、べ、勉強しますから! がんばって喜んでもらえるようにしますから! だから、どうか、私をもらってくれませんか!?」
「こんなに可愛いエルフがもらえるんだから、男なら即答でしょ? あたしだって、その……夜だって、なんだってがんばるからさ。ほら、もらう、って言いなさいよ。あたしのこと……もらいなさいよ!」
「あー……」

 双子の美少女エルフから言い寄られている。
 男なら夢見るような場面だけど、いざ自分の身に降りかかると困惑しかないな。

 ……仕方ないだろう?
 治癒師のことばかり考えていたから、情けないが恋愛経験はゼロだ。
 こういう時、どうしていいかわからない。

「ダメ……ですか?」
「その……なんでもしてあげるわよ?」
「そう言われてもな」

 二人は真剣だ。
 本気で恩返しをしたいと思っているのだろう。

 その方法は極端ではあるものの……
 想いは本物だ。

 ……それを否定するということは、二人の想いまで否定するようなことか。
 エルフの誇りも汚してしまうような気がする。

「……ちっ……」

 舌打ち一つ。

「勝手にしろ」
「「それじゃあ……!!」」
「ただ、全部捧げるとか、そういうのはいらねえからな。ただまあ、ちょうどいいことに、俺は駆け出しの冒険者だ。今は仲間がいないから、パーティーに参加してくれ」

 これが妥協案。
 これ以上はちょっと……となる。

「はい、今は、それでも大丈夫です!」
「ま、まあ、ちょっと残念だけど……って、今のなし! なしよ!?」

 よかった、納得してくれたみたいだ。

 当面はソロ活動と思っていたんだが……
 まあ、いいか。
 やっぱり、仲間がいた方がいい。

 いざという時に安全を確保できるとか、効率のいい冒険が可能とか、色々とメリットはある。
 俺も治癒師という、戦闘に不安のある職だから、二人が加われば安定するだろう。

「仕方ねえから、コキ使ってやるよ。ただ、怪我はすんなよ? ちゃんと癒やしてやるが、面倒だからな。あまり俺の手を煩わせるな。だから、怪我をするな」
「は、はい! 気をつけます!」
「ユナ、セイルの言葉をそのまま受け取らない方がいいわ。これ、あたし達のことを心配しているんだと思う」
「そうなの……?」
「それ以外に聞こえない言葉でしょ。セイルって、ツンデレなのね」
「……ほざいてろ」

 頭をがしがしとかいた。
 適当に手を差し出す。

「……せいぜい、俺の邪魔にならないようにしろよ」
「はい! よろしくお願いします」
「よろしくね♪」

 こうして俺は、ユナとアズとパーティーを組むことになった。



――――――――――



「パーティーを組むことになったが、二人は、冒険者登録は?」
「していません」
「していないわ」
「わかった。なら、登録から始めるか」

 冒険者として活動するなら、ギルドへの登録が必須だ。
 でないと、誰もが勝手に活動をして無法地帯になってしまうからな。

「私、うまく登録できるでしょうか……?」
「問題ねえだろ。一定の年齢以上で、怪我や病気をしていない健康体。それが最低条件で、それ以上に求められるものはねえからな。最低ランクからのスタートになるがな」
「そうですか、よかったです」
「ただ、その前に……」

 今更ながら、二人が際どい格好をしていることに気づいた。
 ボロ布にしか見えない服で、色々と危ない。

「確か……」

 たくさんの荷物を詰め込んでいる、大型のリュックを引き寄せた。
 中からいくらかの装備を取り出した。
 クライブと旅をしていた時に得たものだ。

「これ、適当に好きなもの着ろ」
「わっ、いいんですか?」
「ちょ……どれも、めっちゃ高価そうなんだけど。あたし達、お金は持ってないわよ……?」
「いらねえよ。てめえらから金をむしり取るほど、俺は貧乏人じゃねえ。っていうか、パーティーメンバーが貧相な格好をしてたら、俺の常識が疑われるだろ。黙ってまともな格好をしろ」
「まーた、そういう素直になれない口の効き方を。ま、いいわ。素直にもらうわね」
「い、いいのかな……?」
「いいのよ。ここで断れば、またセイルがあれこれ、ツンデレを発動させるわよ」
「……それはちょっと見てみたいかも」
「おいこら」

 俺は、口が悪くて追放されたようなものだが……
 この二人は、なぜかそこを楽しんでいるようだ。

 なぜだ?

「じゃあ、もらうわね」

 ユナは笑顔で頷いて、ボロ布のような服を脱ごうと……

「待てこら」
「え?」
「なぜ、ここで着替えようとする……? そこの茂みとか、色々あるだろうが」
「でも、私はセイルさんのものなので、今更……」
「あたしはちょっと恥ずかしいけど……まあ、いずれ見られるわけだし……」
「貧相な体なんか見たくねえよ、ちゃんと隠れて着替えてこい」
「むー、いつか悩殺してやるんだから」
「がんばって成長しようね、お姉ちゃん!」

 どこか不満そうにしつつ、双子は茂みの向こうに消えた。

 二人の警戒心がゼロすぎる。
 というよりは、俺への信頼が高すぎるのか?

 俺を男として意識していないわけじゃないだろう。
 単純に、恩人で全てを捧げるから、という意識なのだろう。

「ったく……色々な意味で先は大変そうだな」