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…桜火ノ花ユら乃野は、美しい。
山々の尾根をいくつも下って、
千里ほどもある桜林のなか
桜火ノ花ユら乃野が揺れる。
桜火ノ花ユら乃野のまわりヲ、
くるりと囲むように、ぽうぽうと瞬く
白いしろい光のわたが咲いていた。
…花の裾野のほうまで…
火ノわタつみが広がってゆく。
花曇りの空に、夕日が滲む。
…… ……
… …
…桜の花の舞い散るなか、
桜火ノ花ユら乃野で…二人は、出会う…。
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…桜曇り。
…ほろみる桜…夕紅に染まる
火ノユらに、花は灯りて…
…トク。トク。…トク。トク。
…花の心ノ臓。
…両手を伸ばして…
…わたしの言ふことを…
…きかないと、いけない…
…竜ユ火を、抱きしめた。
…わたしの言ノ葉を…
…きかないと、いけない…
…こぼれゆく、桜花…
…桜ノ花が覆いかぶさる
ように、目の前をかくす…。
…花衣からする華やかな
香のかほりが桜の花と一緒に
〈君夢〉へと届いた。
…わたしの言うことを…
…きかないと、いけない…
…竜ユ火が、抱きしめる…
くすんだ目が由良ゆらと、
愛碧色に沈んでゆく。
…由良ゆらと火ノユらが舞う。
〈火ノユら〉が灯りて、
千の桜ノ花となって…ちるらむ。
花は灯りて、〈火ユら〉になりにし。
竜ユ火は桜花を一つひとつ
摘んでゆきては、桜花を鞠のように集めた。
…花風をまとう、香のかほり…
花紅に染めゆく〈火ノユら〉
…千の桜ノ花が舞う。
…千に。…千に。
…千に舞う、桜花の花ビラ。
春風と共に飛び込んできた
花鞠は桜ノ花のようにちりゆく。
…野に舞う桜ノ花…
…うつろい、うつつ…夢の花。
…染まりゆく。
…花袖…重ねる桜花
鳴る十二単衣の鈴ノ音
…花ノ余韻…
漂うばかりの火ノわタつみ。
桜花に染まる香のかほり
…花衣で、
竜ユ火がゐすゞを
…抱きしめる…
…花の衣手ちりゆく桜花
焚きしめた香のかほり
…深い眠りのユ夢めから覚めて
…まどろみのなか…
…桜火ノ花ユら乃野を、ゆく…。
…あなたの手ヲ、引いてゆく…。
…たゆたゆ…と。…たゆたゆ…と。
…桜の舞宴にかげらふ春の野に
億万に響き渡るすゞの虫…。
…桜の花の枝ヲたろみて、手に持ち舞う。
…そゥして、〈まじなゐ〉をかける。
…ひ一と、ふ二タ、み三、四よ…と。
…たくさんの桜の花が舞い散るなか…
…二人の歌声が響く。
…二人の歌声が響く…
…… ……
… …
…らん。…らァん。
…カラン。…コロン。
…らん。…らァん。
…カラン。…コロン。
…わタの音。…鈴のオと。
…冬の寒空のなかを国道の
ワックまでの歩道を二人かけてゆく。
…吐いた息が白く染まり、
粉雪が灰色の空をちらつかせた。
朝方、家を抜け出したのが、
…親にみつかったら、叱られちゃう!
途中、雪橋の欄干の上を竜ユ火が
かけてゆき、ゐすゞが話しかけた。
「…ちょっと!」
「…そこのおに‐さァん!!!」
花守の竜ユ火は橋の欄干の上にふわっと
しゃがみ込んで彼女の手を取り、挨拶をする。
「…私は、竜ユ火(りゆほ)。」
「…竜ユ火。」
綺麗な横顔についうっとりと見惚れてしまう。
「…君は?」
「…私は。」
…言いかけて、戸惑う。
だって、自分の名なんて、嫌いだったもの。
「…ゐすゞ。」
「…そう、ゐすゞ…。」
「…君が。」
…夢の中でみた…君…。君夢。
少し目を見開いて、驚いたように言った。
「…会いたかった。君に…。」
(…そう。私も…。)
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…遠くで駆け寄る音がする。
…らん。…らァん。
…カラン。…コロン。
…らん。…らァん。
…カラン。…コロン。
‐…ゐすゞは竜ユ火に
そのまま、素足でかけよった…‐
(…私?)
…花夢鈴がなる。袖の花。
…腰もとについた、すゞが揺れる。
…魂が腹の中から抜け出てくる。
‐…あなたに、会いにゆく…‐
(…誰?)
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…鈍色の空を、雪風が舞う。
ワックのドアを開けて、カウンターで
注文をとると、コカ・コーラを頼んだ。
「…コカ・コーラのМサイズ一つ。」
「…はい。かしこまりました。」
ワックの店員さんがアナウンスを
かけて、ハンバーガーを包むのを眺める。
ワックの店内に流行歌が流れてくる。
ハンバーガーのパネルをみて、
白いテーブルに座る。
「…お待たせしました。」
「…コカ・コーラ一つです。」
追いかけてきた大カタツムリが
店内の窓を割って中に入り込んできた!
「…ギィィィ!」
大カタツムリが大きな声唸り声をあげる!
横なぶりの雪風が窓から流れ込んできた。
雪屑と共に水面の黒いコカ・コーラが揺れた。
「…こっち、来た!」
カウンターパネルの後ろに回り、
大カタツムリが襲いかかってくるのを
さっとかわした。
腕につけていた宝珠をワックの
コカ・コーラに沈ませて、
お願い事を唱えた。
「…怖い夢から、さめて!」
コーラをぎュ‐っと、飲み干す。
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契約期間中の恋
お揃いのメガネ
普段泣かないのに
その人の前では涙する
注意指導
嫌いなものが好きになってく
席について後ろ姿を眺めれる距離
居心地のいい距離
隣の席 ドキドキ心拍数
ほんとだと、彼だといいな
振り向いた横顔が君と、
ちがうと傷つくよ
黒いチェスター買ってくれた
なんでも知ってて、
なんで、どうしてって想うよ
ずっと、目で追いかけてしまう
あなたがいない
あなたがいるような気がして
あなたがいない
化粧とかパーマ
ジェルリップ
夢の中で会う
イクラの乗ったちらし寿司
なんでも
知っていてくれた人だった
私が詰め寄る ドキドキしていた
目があって笑いかけて
何度でも会いたいと願うよ
チョコチップメロンパン
食べるだけでイライラする
手作りで作った食べものに込められた意味
その人が食べるほど切なくて愛しい
食べれないメロンパン食べる
間に挟み込まれたホイップクリームが
私が食べれなくて食べれるように
薬草で治してくれる



