「ありがとう」と、「ごめんね」と、それから。


 この世界のどこかに、届かない言葉が行き着く先があるって、聞いたことあるかな。

 どこにあるのかって?
 それはね、教えられない。
 というより、決まっていないんだ。
 ある夜の終わりに辿り着く人もいれば、夢の途中で迷い込む人もいる。願ったからってたどり着けないけど、気がついたら入口に立ってる、なんて人も多い。

 ここに届く手紙は、ちょっと変わってて。
 住所が書いてないもの、宛名だけがあって、差出人がないもの。最初から、白紙のまま投函されたものもある。
 でもね、不備があるからって、突き返したりはしないよ。
 だって、ここに来る手紙は全部、書こうとして、書けなかった言葉達だから。
 そんな未練を回収するために、客人はやって来る。

 好きって言えなかった。
 ごめんねが遅すぎた。
 ありがとうを伝える前に、時間がなくなった……とかさ。
 そういう未練は、時に切なくて、悲しい。
 実に人間らしくて、いいよ。僕は嫌いじゃない。
 とても綺麗なんだ。星屑みたいに。


 その少女は、真っ白な封筒を持ってドアの前に立ってた。
 僕に向かって小さく会釈をすると、角の机に座る。
 しばらく虚空を見つめ、やがて便箋に言葉を落とす。
 幸せそうな顔で。目に涙を溜めながら。

 「お願いします」

 今日も、星屑がひとつ、カウンターに置かれた。
 ぼくがポンとスタンプを押すと、少女は静かに去っていく。

 ──さて。
 ぼくはそれを、静かに受け取った。
 さぁ、届けに行くよ。
 だってここは、星屑の郵便局なんだから。