翌日、いつも通りに学校へ行くと、担任の関本先生は怖いものでも見たかのような表情を浮かべた。そして「神崎、大丈夫か!?」と沢渡と同じようなことを言って、両腕を掴む。俺が笑顔で過ごしていると、心配になるらしい。
 3年生は学年閉鎖となっていた。
 その影響で全部活が休みになっていると、関本先生が教えてくれた。
 学校の空気は何かおかしい。
 俺に対する対応もおかしい。
 みんなそう。沢渡も、関本先生も、クラスメイトも他の教師も家族も。みんな、変なものを見るような目で俺を見てきた。
 周りの変化を感じてから、横断歩道のシマシマが気になる。それと同時に、何かを忘れている気もするから居心地が悪い。
「……沢渡、俺、なんか変?」
「へ、変っていうか……だってさ、お前……あんとき、一宮(いちみや)先輩と一緒に帰ってたんだろ!? なんで、なんで……なんでそんな感じなんだ!?」
「……そういえば、一宮先輩に部長業務の引き継ぎのこと聞かなきゃ」
「だからさぁ!!」
 沢渡は声を震わしながら、ついに涙をひとつ零した。
 クラスメイトも、関本先生も、みんな心配そうに俺を見つめる。
 様子がおかしいのは、周りではない。
 この感じ、きっとおかしいのは俺なんだと、ふいに思った。



 結局今日も、ひとりだけ早退をさせられた。
 1時間目の途中に学校を出て、さっき歩いてきた道を行く。
 俺が歩いている様子を不審そうに見つめる視線が全身に刺さる。不思議そうに首を傾げる。そんな状況を俺も不思議に思いながら、横断歩道の前で止まった。
 赤信号。横断歩道は今日もシマシマだ。
 どうしてシマシマなのか、その答えが今もまだわからないけれど、今日も変わらずシマシマだった。
「——よっ、神崎」
「……え?」
 また肩に強い衝撃を受ける。
 弾き飛ばされるような重たい突撃に、俺は体勢を整えて視線を動かす。
 そこには、アキラ先輩が立っていた。
「あ、アキラ先輩」
「神崎、今日もサボり?」
「そういう先輩こそ」
「オレはいいの~」
 アキラ先輩は、このあいだ突然いなくなったことについて、何も言わなかった。
 前と同じ、横断歩道みたいなシマシマのリュックを背負って、ニカッと微笑む。信号が赤から青に変わると、「ほら、行こうぜ!」と俺の手を引いて、小走りで駆け出す。
 シマシマのリュックは、やっぱり軽そうに揺れていた。



 小走りでアキラ先輩がやってきたのは、ドーナツのチェーン店だった。
 入口の前で立ち止まり、先輩は「買ってきて、お金がないんだ。お願い!」と両手を合わせて懇願する。またか、と思いつつ、すっかり先輩のやり口に慣れ始めていた俺は、自然とその願いを受け入れていた。
「何がいいんですか?」
「いちご抹茶チョコレート」
「そんなのあるんですか?」
「あるって、絶対あるから行ってみてって!!」
「えぇ~」
 言われるがままに店内に入り、ドーナツが置かれた棚を物色する。
 眺めていると、期間限定の商品として、ほんとうに『いちご抹茶チョコレート』というものがあった。
 俺はそれをひとつトレーに乗せて、自分用に生クリームがたくさん入ったドーナツをひとつ乗せる。
 会計を済ませて店の外に出ると、アキラ先輩は外壁にもたれかかりながら、行き交う車を見つめていた。そして俺の姿を見ると、車から視線を外して満面の笑みを浮かべた。
「買ってきましたよ」
「サンキュー!! 近くの公園に行こ!」
 嬉しそうな先輩はスキップしながら、公園がある方に向かっていく。
 先輩とはこうやって遊び初めて2日目だけど、どこか懐かしくて落ち着く感覚がしていた。先輩は明るくて、元気いっぱいだった。