シマシマ、シマシマ。
 俺の前をスキップしながら歩くシマシマ……ではなく、アキラ先輩。
 そのシマシマのリュックには中身が入っていないのか、軽そうに上下左右に揺れていた。
「ねぇ神崎、次はメンチカツを食べよ!」
「……フラッペの次にメンチカツですか?」
「甘いものを食べたら、しょっぱいものが食べたくなる。鉄則だろっ!!」
「メンチカツってしょっぱい……?」
 複雑な疑問を残しながら、俺はアキラ先輩に誘導されて駅前に向かった。
 すこし離れた場所にある商店街には、昔ながらのお肉屋さんがある。そこで買えるメンチカツは、間違いなく美味しい。
「いらっしゃい! 学校はサボりかね?」
 店先に立っていたおばさんは微笑みながら肉の計量をしていた。俺はメニュー表を見ながら、隣に立つアキラ先輩を見る。先輩は「普通のメンチも、ごぼうメンチも、れんこんメンチも食べたい」と言ってよだれを垂らしていた。漫画の世界にいそうだなって、なんとなく思った。
「先輩、何にします?」
「どれも欲しいけど、ここは普通のメンチにするよ。全部買うと、神崎の財布が冷えるからね!」
「自分で買うという選択はないんですか!?」
「お金ないも~ん」
 もはや清々しい。「神崎のおごり!!」と嬉しそうに飛び跳ねる先輩は、どこか楽しそう。
 おごりは避けられないと理解した俺は、諦めてメニュー表に視線を戻し、食べたいものを決める。俺はごぼうメンチにしよう。
 注文しようと顔を上げると、おばさんは心底驚いたような表情をしていた。
「……え、なんですか?」
「い、いや。ひとりでどうしたんだろうって思って」
「え? ひとり?」
「いや、まぁ……わたしは別に、なんも思わんよ。でも、ちょっとびっくりしてな……」
 おばさんの様子に今度は俺が驚き、視線をまたアキラ先輩に向ける。
 先輩は「ふっふふ~」と言いながら唇を尖らせ、謎のピースを浮かべていた。



 揚げたて、サクサク。
 メンチカツをひとくちかじれば、サクサクっとした軽い音と共に、口内にはジューシーな肉汁が溢れ出す。
 濃い肉の味と、あっさりとしたごぼうが相性抜群。油もしつこくなくて食べやすい。やっぱりここのメンチカツは美味しい。
 お肉屋さんでメンチカツを買った俺らは、近くにある公園のベンチに座って食べていた。
 隣に座るアキラ先輩も、サクサクっと軽い音を立て、嬉しそうに咀嚼する。
「メンチカツ最高! ありがとうな、神崎!」
 また俺の肩を強く叩き、満面の笑みを浮かべる。
 メンチカツは美味しい。でも心情は、正直それどこではなかった。
「……先輩。なんか、先輩のこと、誰も見えてないっぽいんですケド」
「んー?」
 サクサク。また隣から軽い音が聞こえてくる。
 その音を聞いて、俺もまたメンチカツをかじる。
 美味しい。メンチカツは美味しい。
 アキラ先輩は微笑んだまま何も言わない。
 俺もこれ以上、何も言わない。
 太陽はちょうど真上にいる。
 平日のお昼時。先輩と食べたメンチカツは、ほんとうに美味しかった。