昼の陽射しが歩道を白く照らしていた。
 いつもと同じ道のはずなのに、今日は誰もいない気がしてやけに静かに感じる。早く帰らされた理由はわからないけれど、これもまたいい機会だと思った。
 寄り道なんかしながら帰ろうか。そう思い、いつもの通学路を歩く。
 赤信号と横断歩道が見えれば、一歩手前で止まる。
 ふと、横断歩道が気になった。
 昨日と同じシマシマが目の前にある。見慣れた道路のはずなのに、見れば見るほど、模様がうねって見えた。
「……なんでシマシマなんだろう?」
 小さく声に出してみる。でも、俺の疑問は誰にも届かない。
 しばらく悩んでいると、信号が青に変わる。左右を確認して一歩を踏み出そうとした、そのときだった。
「やっほー、神崎」
「——ん?」
 声と同時に肩へ痛みが走る。
 タックルにも近い突撃を受け、その主に視線を向ける。
 そこには、同じ制服を着た男子が立っていた。
「……え、どちらさま?」
「え、オレサマ!」
 自分の回答が面白かったのか、その人はお腹を抱えながら爆笑し、俺の肩を激しく叩いた。濃い茶色の髪に光が当たり、キラキラと輝きを放つ。
 くしゃっとした全力の笑顔は、なんとなくその人を幼く見せた。
「神崎、学校は?」
「い、いや……君こそ。状況で言えば俺と同じですケド」
「確かに!」
 またお腹を抱えて爆笑し、今度は激しく両手を叩く。何がそんなに面白いのか、目に浮かんだ涙を手の甲で拭っていた。
 なんだ、この人。なんで、俺の名前を知ってんの?
 まったく理解できない状況に、脳がフリーズしそうになる。
 不審に思いつつ、信号に目を向けた。青信号が点滅していた。
「さて、神崎。学校サボりなら、オレと付き合ってくれない?」
「……は?」
「ちょっと、遊びたい気分なんだよね」
「え?」
 急に手首を掴まれて、そのまま連れ去られる。
 この人は横断歩道を渡らず、俺が今来た道を小走りで進み始めた。人通りのすくない道をどんどん進んで行き、最終的に駅裏の憩い広場に辿り着く。
 そこにあるカフェの前でやっと止まり、無邪気な微笑みを俺に向けた。
「オレ、いちごチョコレートチーズケーキ抹茶フラペチーノ。トッピングにバニラアイス。よろしく!!」
「なんですかそれ」
 とんでもないメニューだな。ほんとうにあるのか?
 という率直な感想はさておき、あたりまえのように俺が買いに行く流れになっていることに違和感を覚えた。一緒に入ればいいのに。
「君が飲みたくて来たんでしょう。自分も入ればいいじゃないですか。ていうかお金は!?」
「オレは入らなーい。お金もなーい。入口の前で待っとく!!」
「えぇ!?」
 嬉しそうに微笑んだその人は、店先にいた犬に手を伸ばしていた。
 犬はまったく反応を示さず、吞気にあくびなんかする。
 俺はそんな意味不明な様子を見届けて、店内に入ろうとした。そのとき、ふとその人が背負っているリュックが目についた。
 横断歩道と同じ、シマシマだった。