神崎(かんざき)……昨日は大変だったな。今日、無理して学校に来なくてもよかったのに。大丈夫か?」
「……先生が何を心配しているのかわかりません。ところで、質問いいですか?」
「……なに?」
「横断歩道は、どうしてシマシマなんでしょうか?」
「……」
 1時間目の授業は現代文だった。
 俺はいつも通りロッカーから教科書を出して、席に座っていた。隣に座る親友の沢渡(さわたり)が「神崎、普通なん?」と聞いてきたが、なんのことかわかんないから「何、急に」とだけ答えて適当に教科書をめくった。シマウマの絵が描いてあった。
 沢渡は不審そうに表情を歪めて、小さく溜息を吐く。俺は気にせずにシマウマの絵を眺めていると、背後から担任の関本(せきもと)先生に声をかけられたのだった。
 関本先生は、俺に授業は参加しなくていいと言い放った。
 突然のことでびっくりしたし、授業に参加しなくていい理由がわからなくて不思議だった。けれど、勉強しなくてもいいなら、それに越したことはない。
 俺は先生の指示に従って席を離れ、その後ろをついて行った。
 辿り着いたのは、相談室だった。
「ところで、関本先生は授業ないんですか?」
「……あぁ、1時間目は1年3組の授業があるよ。でも、それよりお前が優先だから。別の先生に頼んできた」
「どうしてですか?」
「ど、どうしてって……逆にお前は、なんでそんなに普通なんだ?」
 先生の目に心配の色が滲んだ。本気で心配しているのだと思った。
 俺は周囲の変化が理解できずに、ただゆっくりと首を傾げる。
 どうして横断歩道はシマシマなのか。誰か、その答えを教えてくれてもいいのに。

 結局1時間目の終了を知らせるチャイムが鳴るまで、俺は関本先生と相談室にいた。そして先生は「今日はもう帰りな」と言い、俺を無理やり帰らせようとする。
 相談室を先生と一緒に出て、職員室経由で教室に荷物を取りに行くことになった。その道中、泣きじゃくっている大人の集団を見つけた。関本先生は足早に横を通り抜け、何事もなかったかのように笑顔を浮かべる。
 関本先生は、いつもと違う。
 拭いきれない違和感の答えが見つからないまま、俺は学校を後にした。