シマシマだ。黒と白。どこまでも続く、横断歩道のようなシマシマ。
そういえば、一宮先輩もアキラ先輩も、シマシマの横断歩道みたいなリュックを背負っていた。
一宮晃先輩の葬儀会場も、黒と白のシマシマ模様に彩られていた。って、葬式だからあたりまえなんだけど、俺には横断歩道とリュックがどうしてもよぎってしまう。
先輩はカレーまんを食べた後、消えた。
消えたというと違和感があるけれど、でもほんとうにこれ以上の適切な言葉が見つからない。先輩は、消えた。
何か焦っているような様子だったのは、この世界に魂を維持するのに、タイムリミットがあったかららしい。
消える間際も、先輩は笑っていた。
俺が憧れた一宮先輩の優しい笑顔。先輩の笑顔が、何よりも素敵だった。
シマシマ。
横断歩道は、なぜシマシマ?
くだらない疑問は、時間の経過と共に消えていく。
心を守るための防衛反応で、衝撃を咄嗟に視界に入ったものへとすり替えた——という症例はあまりないけれど、けっしてゼロでもないと医者は言っていた。
シマシマ、シマシマ。
黒と白で満たされたこの空間の中で、正面に飾られた遺影の先輩も、やっぱり素敵な笑顔をしていた。
「——神崎、大丈夫か?」
「関本先生と……沢渡」
葬儀が終わり、建物の外で空を見上げていると、ふたりが近づいてきた。
本来は親交のあった3年生と吹奏楽部だけ参加する予定だったが、俺を心配して、沢渡まで来てくれた。
沢渡は、いつも支えてくれた。
「……先生も沢渡も、ありがとうございました。俺、おかしくなってたけど、もう大丈夫。先輩が亡くなったこともわかるし、事故当時のことも……思い出しました」
「でも無理はよくない……」
「先生、無理じゃないです。大丈夫です。だって——先輩が亡くなった後、先輩自身が俺を支えてくれましたから」
「え……?」
いちごチョコレートチーズケーキ抹茶フラペチーノ。
トッピングにバニラアイス。
メンチカツ。
いちご抹茶チョコレートドーナツ。
カラオケ。
カレーまん。
たぶん、亡くなったあとの先輩と過ごした時間って、そんなになかったと思う。
でも、何よりも濃い時間だったし、何よりも楽しい時間だったと自信を持って言える。
俺はつい思い出し笑いをして、そのままふたりを見る。心配そうな表情をしたままのふたりに、さらに微笑みかけてみた。
「関本先生、沢渡。ふたりとも、横断歩道を渡るときは、青信号でも、左右の確認を怠らないでくださいね」
「……神崎」
ふたりの笑い声に重なって、一宮先輩の笑い声も聞こえたような気がした。
白い雲が浮かぶ、青空の下。
建物の中から、先輩が生前に演奏したホルンの音が静かに流れていた。
シマシマの向こう 終



