「ばあちゃんが、「鶏ちゃん」と郡上味噌を仕込んで待っとるんや。付き合ってくれるか?」
「まじ!? めっちゃ楽しみ!」
郡上市和良地区出身の祖母は、昔から、鶏ちゃんと郡上味噌を食べさせてくれた。どちらも、白米が止まらなくなるおかずだ。
「連休明けたら、冷凍して送ろうか?」
「嬉しい、けど……帰ってきたときの楽しみにする」
「お前は本当に良い子だな」
義父の運転する車は、昔ながらの商店街を抜け、土岐川の橋を渡り、観光客向けの古民家風の通りも過ぎて、道の細い山の中に入る。粘土を捏ね上げたようなデザインの、モザイクタイルの美術館が突如現れた。初めて見たときはインパクトの強さに違和感を覚えたが、今となっては出迎えられている気分だ。美術館の先に、義父の家はある。
義父は、多治見市のこの笠原地区でタイルの小さな会社を経営している。
多治見を含む美濃地方は、その名の通り古くは美濃焼の産地で、今でも陶芸作家と陶房があり、観光客向けの美濃焼の店や陶芸体験できる工房もある。
多治見は、モザイクタイル発祥の地とされていて、義父のようにタイルを製造する工場が在る。
陶芸体験できるような陶器は、手捻りや電動ろくろで1個ずつ成形され、乾燥、素焼き、釉薬、焼成という肯定がひとつひとつ手で行なわれる。それに対して、タイルはプレス機で成形され、全長72メートルのトンネル窯で焼成されます。トンネル窯では、24時間かけて1250度まで上げタイルをじっくりと焼成される。均一な温度管理と焼成時間の調整により、強度と美しさを兼ね備えたタイルが完成する。
「ただいま!」
俺が車から降りると、外の畑で作業していた祖父母が顔を上げて手を振る。
「まごまご、おかえり」
「まごまご、腹減らんか?」
ふたりは、俺のことを「まごまご」と呼ぶ。方言ではなく、ふたりの語録だ。
「腹減った!」
俺が答えると、祖母は腰を上げた。
「もう昼やね。飯にしよう」
義父に「疲れてない」と言ったのも、祖母に空腹を訴えたのも、彼らを喜ばせたいためである。俺はまだ、可愛い子どもでいる必要がある。
朝のパンがまだ胃に残っているから、空腹ではない。新幹線の中でSNSを見たせいもあり、気持ちが疲れている。
祖母の手料理は美味いが、胃が破裂しそうだ。でも、昨日のような気持ち悪さは一切感じない。
自室のベッドに横になると、満腹と疲労で眠気に襲われた。夢の中で思い出した。この家の子になった経緯を。
「まじ!? めっちゃ楽しみ!」
郡上市和良地区出身の祖母は、昔から、鶏ちゃんと郡上味噌を食べさせてくれた。どちらも、白米が止まらなくなるおかずだ。
「連休明けたら、冷凍して送ろうか?」
「嬉しい、けど……帰ってきたときの楽しみにする」
「お前は本当に良い子だな」
義父の運転する車は、昔ながらの商店街を抜け、土岐川の橋を渡り、観光客向けの古民家風の通りも過ぎて、道の細い山の中に入る。粘土を捏ね上げたようなデザインの、モザイクタイルの美術館が突如現れた。初めて見たときはインパクトの強さに違和感を覚えたが、今となっては出迎えられている気分だ。美術館の先に、義父の家はある。
義父は、多治見市のこの笠原地区でタイルの小さな会社を経営している。
多治見を含む美濃地方は、その名の通り古くは美濃焼の産地で、今でも陶芸作家と陶房があり、観光客向けの美濃焼の店や陶芸体験できる工房もある。
多治見は、モザイクタイル発祥の地とされていて、義父のようにタイルを製造する工場が在る。
陶芸体験できるような陶器は、手捻りや電動ろくろで1個ずつ成形され、乾燥、素焼き、釉薬、焼成という肯定がひとつひとつ手で行なわれる。それに対して、タイルはプレス機で成形され、全長72メートルのトンネル窯で焼成されます。トンネル窯では、24時間かけて1250度まで上げタイルをじっくりと焼成される。均一な温度管理と焼成時間の調整により、強度と美しさを兼ね備えたタイルが完成する。
「ただいま!」
俺が車から降りると、外の畑で作業していた祖父母が顔を上げて手を振る。
「まごまご、おかえり」
「まごまご、腹減らんか?」
ふたりは、俺のことを「まごまご」と呼ぶ。方言ではなく、ふたりの語録だ。
「腹減った!」
俺が答えると、祖母は腰を上げた。
「もう昼やね。飯にしよう」
義父に「疲れてない」と言ったのも、祖母に空腹を訴えたのも、彼らを喜ばせたいためである。俺はまだ、可愛い子どもでいる必要がある。
朝のパンがまだ胃に残っているから、空腹ではない。新幹線の中でSNSを見たせいもあり、気持ちが疲れている。
祖母の手料理は美味いが、胃が破裂しそうだ。でも、昨日のような気持ち悪さは一切感じない。
自室のベッドに横になると、満腹と疲労で眠気に襲われた。夢の中で思い出した。この家の子になった経緯を。


