不覚にも生方閑真の顔面に見惚れてしまっていた間に、俺の玉ねぎブレッドは焼き上がっていた。オーブンの音に急かされて、二重にした軍手を着けてオーブンを開け、天板を出す。きつね色に焼けたパンの良い匂い。これ、まじで俺が焼いたのかとちょっと感動して膨れた気持ちは、段田の一言で萎んでしまった。
「ガス臭い」
イーストのガスのお蔭でパン生地が膨れるんだからそんな匂いがするのは尤もだろうが! ガスの匂いは御愛嬌だ!
俺は段田を非難するわけにゆかず黙ったが、講師が上手く共感した。
「イーストの匂いですね。発酵が上手く進んだということですが、この匂いが苦手という人は、少なくないですよ」
ラップに包んだカレーソースは、爪楊枝で穴を開けて焼き立ての玉ねぎブレッドにWを描くようにかける。カレーソースとフライドオニオンが良い感じ。久々に、何年かぶりに、自分で調理したものが食べられる気がした。
この場で試食して良いとのことなので、試しに食べてみることにしたのだが、一口大に千切って口に持っていったところで、頭の中に「無理」という文字が浮かんだ。
「あんた食べないの?」
段田に訊かれた。そういう段田も、食べようとせず、持ち帰り用のOPP袋に詰めていた。
「食べれば良いじゃん!」
段田は、俺のパンを荒っぽく半分に千切って俺の口に押し込んできた。さすがに、講師が止めに入ったが、段田は俺の口を手のひらで塞いで力を込める。
「美味しいですよー! 飲み込んでくださいねー!」
「段田、やめろよ!」
「やっちゃ駄目だよ」
滝本と陽依の声が聞こえる。
「なんで? 手伝ってるだけなのに?」
口の中がおかしくなる。母に言われたことがフラッシュバックする。
『自分でつくったんだから、どんなに不味くても自分で全部食べなさい。お母さんが手伝ってあげるから』
泣きそう。思い出したくないのに。
『あんたが不潔で臭いから、料理も不味いんだよ』
意識が落ちそうになったとき、急に強い力で肩を引かれた。段田の手が離れる。口に押し込まれたパンを飲み込んでしまった。胃がおかしい。
俺は強い力で腕を引かれてロビーに連れ出された。
「ガス臭い」
イーストのガスのお蔭でパン生地が膨れるんだからそんな匂いがするのは尤もだろうが! ガスの匂いは御愛嬌だ!
俺は段田を非難するわけにゆかず黙ったが、講師が上手く共感した。
「イーストの匂いですね。発酵が上手く進んだということですが、この匂いが苦手という人は、少なくないですよ」
ラップに包んだカレーソースは、爪楊枝で穴を開けて焼き立ての玉ねぎブレッドにWを描くようにかける。カレーソースとフライドオニオンが良い感じ。久々に、何年かぶりに、自分で調理したものが食べられる気がした。
この場で試食して良いとのことなので、試しに食べてみることにしたのだが、一口大に千切って口に持っていったところで、頭の中に「無理」という文字が浮かんだ。
「あんた食べないの?」
段田に訊かれた。そういう段田も、食べようとせず、持ち帰り用のOPP袋に詰めていた。
「食べれば良いじゃん!」
段田は、俺のパンを荒っぽく半分に千切って俺の口に押し込んできた。さすがに、講師が止めに入ったが、段田は俺の口を手のひらで塞いで力を込める。
「美味しいですよー! 飲み込んでくださいねー!」
「段田、やめろよ!」
「やっちゃ駄目だよ」
滝本と陽依の声が聞こえる。
「なんで? 手伝ってるだけなのに?」
口の中がおかしくなる。母に言われたことがフラッシュバックする。
『自分でつくったんだから、どんなに不味くても自分で全部食べなさい。お母さんが手伝ってあげるから』
泣きそう。思い出したくないのに。
『あんたが不潔で臭いから、料理も不味いんだよ』
意識が落ちそうになったとき、急に強い力で肩を引かれた。段田の手が離れる。口に押し込まれたパンを飲み込んでしまった。胃がおかしい。
俺は強い力で腕を引かれてロビーに連れ出された。


