グランピングから約2週間後。お盆の期間を避け、俺達は名古屋駅に降りた。
「あっつ」
真夏でも涼しい声が、暑さを訴える。
「東京と変わんないねー」
お日さまみたいな少女は、今日も元気だ。
「地下鉄、乗り換えるぞ」
地元出身者の引率に従い、俺達はJRから地下鉄に乗り換える。
名古屋に遊びに来ないか、と提案してくれたのは、滝本だ。俺の帰省に合わせて滝本も帰省する予定を立ててくれて、陽依も閑真も初めての名古屋観光をすることになった。
名古屋の暑さは俺も知っていたつもりだが、ほぼ1日滞在して遊んで過ごすには、厳しい暑さだ。
朝一番に東京を出て、新幹線と地下鉄で向かったのは、名古屋城だ。第一印象は、外国人が多い。いかにも日本の城で豪奢なシャチホコが鎮座しているから、見応えがあるのだろう。エアコンの効いた資料館に展示されているシャチホコでさえ、かなりの大きさで見応えがある。敷地内は修理や発掘調査をしている場所もあり、この暑さの中働く人達には頭が下がる。
名古屋城を出て次に向かったのは、熱田神宮だ。5月の大型連休で滝本を見かけ、最寄り駅だと記憶している。
熱田神宮の入り口は、バス旅行らしき団体客が多い。
熱田神宮の鳥居をくぐる前に、昼食を摂ることになった。
「うちに来ないか?」
先日音楽アプリのおすすめに流れてきた、新沼謙治の「嫁に来ないか」みたいな自然な流れで滝本について行くと、「みさおうどん」という年季の入った店に案内された。
「タッキーの実家?」
陽依が無邪気に訊ねる。
「うん。観光客が来ないから、並ばなくて済む。一応、それ用のメニューもある」
確かに。通りが1本違うだけで、人通りが一気に減った。
滝本が店ののれんをくぐると、店内が一気に沸いた。多分、お客さんは近所の人で、店を切り盛りするのは家族。店に飾ってあるのは、柔道着を来た子どもの頃の滝本の写真。滝本樹は愛されて育ったんだ、と思ったと同時に、段田みたいないかにも裕福な家というわけではないと感じてしまった。それなのに、俺は、滝本もクッキングスタジオに入会するものだと思っていたから
「彼には悪いことをしたかも」
閑真が呟いた。
「入会しないかと誘ってしまったから」
やっぱり、閑真も思っていた。
「……うん」
陽依も、花が萎れたみたいにしゅんとなった。
クッキングスタジオは、学割が効いてもかなりの金額が必要になる。レッスンはチケット制で、回数をまとめ買いした方が1回あたりの金額は得にはなるが、一度の出費がかさむ。大学の学費で手一杯かもしれないのに、俺達は余計な口を出してしまったのだ。
「あんた達には、悪いことをしたかも」
滝本が言った。
「別に、うちが貧乏だと言いたいわけじゃない。この店は古くて狭いけど、駅の近くに2号店もあるんだ。ただ、この暑さの中行列に並びたくなかっただけ」
「お気遣い感謝します」
3人で、ぺこぺこ頭を下げてしまう。
「うちを継ぎたい気もあるからクッキングスタジオに入って料理の勉強をしたい気もあるんだけど、やっぱりまた柔道を始めたくて、大学の近くの教室を探してる。だから、入会できなくて、ごめん。またワンデイレッスンがあったら参加させて下さい」
滝本は、凄い。やりたいことがいくつもあって、時間が足りないから選ばざるを得なくて、それでも最良の方法を探している。
「くっ……藤岡が負けた」
「太田が負けた……!」
俺が感慨にふける間に、閑真と陽依がうどんを食べ始めていた。このふたりのことだから、滝本が罪悪感を覚えないようにわざと明るく振る舞うのかもしれない。そういえば、このふたりは群馬県の出身なんだっけ。地理上ではかなり離れているみたいだけど。
うどんで昼食にして、熱田神宮の鳥居をくぐった。
名古屋城同様暑いが、樹木が多いせいか、あるいは神社という聖域のお蔭か、名古屋城より爽やかだ。資料館で刀剣を見たり、昼食を摂ったばかりなのにソフトクリームを食べたり、滝本と陽依が猫を追いかけたり、大学から解放されて気持ちが緩んでしまう。ただ、俺は敷地の奥の墳墓の前で寒気を感じてしまい、それからちょっと沈んだ気持ちを引きずっている。
「抱っこしても良いですか」
「駄目です」
閑真に訊かれて、俺は即答した。昨日の夜、たまたま見たブログに書いてあったのだが、神社で恋人モードになるのはマナー違反らしい。神様が妬くのか、神域だから清楚にしないといけないのか、定かではないが、混み合った場所ではぐれないように手を繋ぐ以外は手を繋ぐのも駄目らしい。
「抱っこしても良いですか!」
「駄目です!」
陽依ならオッケーと言いそうになったが、ラッキースケベが叶ったら天罰が下りそうだ。
「抱っこする」
「言い方を変えても駄目です!」
滝本に抱えられそうになり、俺は参道を走って逃げた。鳥居のところで滝本と陽依に捕まり、ひとり足りず振り返る。今日も閑真は足が遅かった。
陽依は、明日はアルバイトがあるから今日のうちに東京に帰る。滝本は、実家に帰省。
中央本線のホームで、閑真に肩を寄せられた。
「行こうか」
「うん」
俺も、閑真に体を預ける。
「あっつ」
真夏でも涼しい声が、暑さを訴える。
「東京と変わんないねー」
お日さまみたいな少女は、今日も元気だ。
「地下鉄、乗り換えるぞ」
地元出身者の引率に従い、俺達はJRから地下鉄に乗り換える。
名古屋に遊びに来ないか、と提案してくれたのは、滝本だ。俺の帰省に合わせて滝本も帰省する予定を立ててくれて、陽依も閑真も初めての名古屋観光をすることになった。
名古屋の暑さは俺も知っていたつもりだが、ほぼ1日滞在して遊んで過ごすには、厳しい暑さだ。
朝一番に東京を出て、新幹線と地下鉄で向かったのは、名古屋城だ。第一印象は、外国人が多い。いかにも日本の城で豪奢なシャチホコが鎮座しているから、見応えがあるのだろう。エアコンの効いた資料館に展示されているシャチホコでさえ、かなりの大きさで見応えがある。敷地内は修理や発掘調査をしている場所もあり、この暑さの中働く人達には頭が下がる。
名古屋城を出て次に向かったのは、熱田神宮だ。5月の大型連休で滝本を見かけ、最寄り駅だと記憶している。
熱田神宮の入り口は、バス旅行らしき団体客が多い。
熱田神宮の鳥居をくぐる前に、昼食を摂ることになった。
「うちに来ないか?」
先日音楽アプリのおすすめに流れてきた、新沼謙治の「嫁に来ないか」みたいな自然な流れで滝本について行くと、「みさおうどん」という年季の入った店に案内された。
「タッキーの実家?」
陽依が無邪気に訊ねる。
「うん。観光客が来ないから、並ばなくて済む。一応、それ用のメニューもある」
確かに。通りが1本違うだけで、人通りが一気に減った。
滝本が店ののれんをくぐると、店内が一気に沸いた。多分、お客さんは近所の人で、店を切り盛りするのは家族。店に飾ってあるのは、柔道着を来た子どもの頃の滝本の写真。滝本樹は愛されて育ったんだ、と思ったと同時に、段田みたいないかにも裕福な家というわけではないと感じてしまった。それなのに、俺は、滝本もクッキングスタジオに入会するものだと思っていたから
「彼には悪いことをしたかも」
閑真が呟いた。
「入会しないかと誘ってしまったから」
やっぱり、閑真も思っていた。
「……うん」
陽依も、花が萎れたみたいにしゅんとなった。
クッキングスタジオは、学割が効いてもかなりの金額が必要になる。レッスンはチケット制で、回数をまとめ買いした方が1回あたりの金額は得にはなるが、一度の出費がかさむ。大学の学費で手一杯かもしれないのに、俺達は余計な口を出してしまったのだ。
「あんた達には、悪いことをしたかも」
滝本が言った。
「別に、うちが貧乏だと言いたいわけじゃない。この店は古くて狭いけど、駅の近くに2号店もあるんだ。ただ、この暑さの中行列に並びたくなかっただけ」
「お気遣い感謝します」
3人で、ぺこぺこ頭を下げてしまう。
「うちを継ぎたい気もあるからクッキングスタジオに入って料理の勉強をしたい気もあるんだけど、やっぱりまた柔道を始めたくて、大学の近くの教室を探してる。だから、入会できなくて、ごめん。またワンデイレッスンがあったら参加させて下さい」
滝本は、凄い。やりたいことがいくつもあって、時間が足りないから選ばざるを得なくて、それでも最良の方法を探している。
「くっ……藤岡が負けた」
「太田が負けた……!」
俺が感慨にふける間に、閑真と陽依がうどんを食べ始めていた。このふたりのことだから、滝本が罪悪感を覚えないようにわざと明るく振る舞うのかもしれない。そういえば、このふたりは群馬県の出身なんだっけ。地理上ではかなり離れているみたいだけど。
うどんで昼食にして、熱田神宮の鳥居をくぐった。
名古屋城同様暑いが、樹木が多いせいか、あるいは神社という聖域のお蔭か、名古屋城より爽やかだ。資料館で刀剣を見たり、昼食を摂ったばかりなのにソフトクリームを食べたり、滝本と陽依が猫を追いかけたり、大学から解放されて気持ちが緩んでしまう。ただ、俺は敷地の奥の墳墓の前で寒気を感じてしまい、それからちょっと沈んだ気持ちを引きずっている。
「抱っこしても良いですか」
「駄目です」
閑真に訊かれて、俺は即答した。昨日の夜、たまたま見たブログに書いてあったのだが、神社で恋人モードになるのはマナー違反らしい。神様が妬くのか、神域だから清楚にしないといけないのか、定かではないが、混み合った場所ではぐれないように手を繋ぐ以外は手を繋ぐのも駄目らしい。
「抱っこしても良いですか!」
「駄目です!」
陽依ならオッケーと言いそうになったが、ラッキースケベが叶ったら天罰が下りそうだ。
「抱っこする」
「言い方を変えても駄目です!」
滝本に抱えられそうになり、俺は参道を走って逃げた。鳥居のところで滝本と陽依に捕まり、ひとり足りず振り返る。今日も閑真は足が遅かった。
陽依は、明日はアルバイトがあるから今日のうちに東京に帰る。滝本は、実家に帰省。
中央本線のホームで、閑真に肩を寄せられた。
「行こうか」
「うん」
俺も、閑真に体を預ける。


