発酵器にボウルを入れて、25分。ボウルの中の生地は、倍に膨れ上がっていた。
「すご……っ」
思わず反応が声に出てしまう。
ベーキングパウダーで焼き菓子が膨らむのとは違う、ぷっくりした膨れ方に、段田も、滝本も、「おお!」と驚いていた。
せっかく膨れた生地は、手で押してガス抜きをする。風船の空気が抜けるように、ふしゅー、と生地が小さくなった。しかし、その生地を分割して丸め直しているうちに、表面の膜が膨れてくる。
分割して丸め直した生地は、濡れ布巾をかけて10分寝かせる。ベンチタイムといい、生地を伸ばしやすくする。ベンチタイムの間にオーブンに使う天板とクッキングシートを用意する。
「あいつも同じことやってるんじゃない?」
段田が、にやにや笑って生方閑真を指差す。段田が生方閑真を嫌っていることは知っているが、その理由も、行動も、俺は理解できない。表立って段田に指摘する人がいないのは、段田を敵に回したときの報復が怖いからだ。大学入学から1か月しか経たないのに、段田は強者のポジションを確立した。
「そうですね。あちらでやっているのは、クラックロールですが、手順は基本的にどのパンも同じです。捏ねない……」
「せんせー! 時間ですよー!」
段田は講師の説明を途中で打ち切った。講師は、教えてくれてありがとうございます、と感謝してしたが、態度が悪いように俺には見えた。
ベンチタイムの後は、生地を細く伸ばして紐状にし、軽く結んで生地の端を輪の中に入れ込む。全員が苦戦した。一番上手いのは、段田に隠れて肩身が狭い女子、菊原陽依。騒がしいのは、やはり段田だ。無理矢理、と言いながら何とか自力で形にしたようだった。
成形した生地を天板に乗せ、ラップと濡れ布巾をかけて発酵器に20分入れる。二次発酵という。
「何すんの! 危ないでしょ!」
段田が悲鳴を上げた。発酵器の前で生方閑真とぶつかりそうになっていた。生方閑真は一歩下がって頭を下げる。
「すみません、迂闊でした」
声量は大きいわけではない。太い声でもない。それどころか、ガラス細工を彷彿させる繊細で冷たく美しい声だ。
段田は一瞬だけ口を閉ざしてから、「そうだよ!」と怒鳴った。
「段田さん、天板は重いですから、注意して下さい」
生方閑真でなく自分が講師に注意されたのが気に入らないらしく、段田はそっぽを向く。
生方閑真が、俺の方を見た。俺は、彼から目を逸らした。段田と同類だと思われたかもしれない。軽蔑されたかもしれない。
「すご……っ」
思わず反応が声に出てしまう。
ベーキングパウダーで焼き菓子が膨らむのとは違う、ぷっくりした膨れ方に、段田も、滝本も、「おお!」と驚いていた。
せっかく膨れた生地は、手で押してガス抜きをする。風船の空気が抜けるように、ふしゅー、と生地が小さくなった。しかし、その生地を分割して丸め直しているうちに、表面の膜が膨れてくる。
分割して丸め直した生地は、濡れ布巾をかけて10分寝かせる。ベンチタイムといい、生地を伸ばしやすくする。ベンチタイムの間にオーブンに使う天板とクッキングシートを用意する。
「あいつも同じことやってるんじゃない?」
段田が、にやにや笑って生方閑真を指差す。段田が生方閑真を嫌っていることは知っているが、その理由も、行動も、俺は理解できない。表立って段田に指摘する人がいないのは、段田を敵に回したときの報復が怖いからだ。大学入学から1か月しか経たないのに、段田は強者のポジションを確立した。
「そうですね。あちらでやっているのは、クラックロールですが、手順は基本的にどのパンも同じです。捏ねない……」
「せんせー! 時間ですよー!」
段田は講師の説明を途中で打ち切った。講師は、教えてくれてありがとうございます、と感謝してしたが、態度が悪いように俺には見えた。
ベンチタイムの後は、生地を細く伸ばして紐状にし、軽く結んで生地の端を輪の中に入れ込む。全員が苦戦した。一番上手いのは、段田に隠れて肩身が狭い女子、菊原陽依。騒がしいのは、やはり段田だ。無理矢理、と言いながら何とか自力で形にしたようだった。
成形した生地を天板に乗せ、ラップと濡れ布巾をかけて発酵器に20分入れる。二次発酵という。
「何すんの! 危ないでしょ!」
段田が悲鳴を上げた。発酵器の前で生方閑真とぶつかりそうになっていた。生方閑真は一歩下がって頭を下げる。
「すみません、迂闊でした」
声量は大きいわけではない。太い声でもない。それどころか、ガラス細工を彷彿させる繊細で冷たく美しい声だ。
段田は一瞬だけ口を閉ざしてから、「そうだよ!」と怒鳴った。
「段田さん、天板は重いですから、注意して下さい」
生方閑真でなく自分が講師に注意されたのが気に入らないらしく、段田はそっぽを向く。
生方閑真が、俺の方を見た。俺は、彼から目を逸らした。段田と同類だと思われたかもしれない。軽蔑されたかもしれない。


