パンの体験教室が始まった。つくるのは、「カレーソースの玉ねぎブレッド」。フライドオニオンを混ぜ込んだ生地を焼き、カレーソースをかけるというものだ。
ボウルをふたつ用意し、強力粉を半分ずつ入れる。ひとつのボウルには砂糖とドライイースト、もうひとつのボウルには、塩とバターを入れる。
「一緒のボウルでは駄目なんですか?」
早速、段田が文句を言ってきた。俺も同じことを思ったが、言ったら失礼だと思って突っ込まないことにしたのに。滝本が段田を軽く睨んだが、講師はごく普通に答える。
「塩はイーストの働きを阻害してしまうんです。逆に、砂糖はイーストの働きを促進します。だから、砂糖とイーストは同じボウルに入れて、仕込み水で混ぜて馴染ませます。その後に塩を加えても、もう塩はイーストの邪魔をしません」
講師の答え方は、何度も説明をしてきたように慣れている。段田が機嫌を損なわなくて安心したが、段田は「良い質問をした」とばかりに機嫌の良い顔をする。
半量の強力粉と砂糖、イーストの入ったボウルにぬるま湯を入れ、木べらで滑らかになるまで混ぜる。昔、製菓をさせられたときに、泡立て器でバターと砂糖を柔らかくなるまで混ぜたことを思い出した。それよりも明らかに水分が多いのに、イーストの粒が馴染むのに時間がかかった。滝本は速く終わったが、女子は時間がかかっていた。
「あたし達の足を引っ張らないでよね!」
そう言う段田は、途中で音を上げて講師に手伝ってもらっていた。
イーストが馴染んだら、半量の強力粉と塩、バターを入れて混ぜる。粉がエプロンに飛んでしまった。段田に馬鹿にされると思ったら、段田もエプロンに粉を飛ばして大騒ぎしていた。
粉っぽさがなくなり生地がまとまってきたら、生地を作業台の上に出し、手で捏ねる。最初は、縦捏ね。生地を台に擦りつけ、捏ねてゆく。べたべたの生地は、スケッパーというプラスチックのカードでまとめながら縦捏ねを繰り返すと、生地の触感が変わった。空気の抜けかけた風船のように、弾力が出始めたのだ。
生地に弾力が出始めたら、次は「Vの字」捏ね。Vを描くように生地を左右に動かして捏ねる。
「Vの字捏ねも大切ですよ。生地と台の摩擦でグルテンを強化して、弾力と滑らかさのある生地にします」
講師がOKを出した生地は、表面はつるんとした膜を張り、側面を指で押すと弾みが出る。その生地にフライドオニオンを混ぜ込み、ボウルに入れ、ラップをかけて発酵器で25分温める。これが、一次発酵。
「ねえ、あいつ何かやってるよ」
段田が、生方閑真の背中を指差す。
「あっちのテーブルも、パンのレッスンですね。あの彼は、高校生のときから地元のスタジオに通っていたそうで、ここに来たときにはライセンスも持っていました。ライセンスというのは……」
段田の思惑を知らない講師は、一次発酵の間に入会の勧誘を始める。
俺の場所からは、生方閑真が何をしているのか見えないが、手慣れている様子ではあった。
ボウルをふたつ用意し、強力粉を半分ずつ入れる。ひとつのボウルには砂糖とドライイースト、もうひとつのボウルには、塩とバターを入れる。
「一緒のボウルでは駄目なんですか?」
早速、段田が文句を言ってきた。俺も同じことを思ったが、言ったら失礼だと思って突っ込まないことにしたのに。滝本が段田を軽く睨んだが、講師はごく普通に答える。
「塩はイーストの働きを阻害してしまうんです。逆に、砂糖はイーストの働きを促進します。だから、砂糖とイーストは同じボウルに入れて、仕込み水で混ぜて馴染ませます。その後に塩を加えても、もう塩はイーストの邪魔をしません」
講師の答え方は、何度も説明をしてきたように慣れている。段田が機嫌を損なわなくて安心したが、段田は「良い質問をした」とばかりに機嫌の良い顔をする。
半量の強力粉と砂糖、イーストの入ったボウルにぬるま湯を入れ、木べらで滑らかになるまで混ぜる。昔、製菓をさせられたときに、泡立て器でバターと砂糖を柔らかくなるまで混ぜたことを思い出した。それよりも明らかに水分が多いのに、イーストの粒が馴染むのに時間がかかった。滝本は速く終わったが、女子は時間がかかっていた。
「あたし達の足を引っ張らないでよね!」
そう言う段田は、途中で音を上げて講師に手伝ってもらっていた。
イーストが馴染んだら、半量の強力粉と塩、バターを入れて混ぜる。粉がエプロンに飛んでしまった。段田に馬鹿にされると思ったら、段田もエプロンに粉を飛ばして大騒ぎしていた。
粉っぽさがなくなり生地がまとまってきたら、生地を作業台の上に出し、手で捏ねる。最初は、縦捏ね。生地を台に擦りつけ、捏ねてゆく。べたべたの生地は、スケッパーというプラスチックのカードでまとめながら縦捏ねを繰り返すと、生地の触感が変わった。空気の抜けかけた風船のように、弾力が出始めたのだ。
生地に弾力が出始めたら、次は「Vの字」捏ね。Vを描くように生地を左右に動かして捏ねる。
「Vの字捏ねも大切ですよ。生地と台の摩擦でグルテンを強化して、弾力と滑らかさのある生地にします」
講師がOKを出した生地は、表面はつるんとした膜を張り、側面を指で押すと弾みが出る。その生地にフライドオニオンを混ぜ込み、ボウルに入れ、ラップをかけて発酵器で25分温める。これが、一次発酵。
「ねえ、あいつ何かやってるよ」
段田が、生方閑真の背中を指差す。
「あっちのテーブルも、パンのレッスンですね。あの彼は、高校生のときから地元のスタジオに通っていたそうで、ここに来たときにはライセンスも持っていました。ライセンスというのは……」
段田の思惑を知らない講師は、一次発酵の間に入会の勧誘を始める。
俺の場所からは、生方閑真が何をしているのか見えないが、手慣れている様子ではあった。


