スマートフォンの着信音で目が覚めた。すんごい量のグループトークが既読になっている。段田のグループだ。俺が既読しないことに気づいてメッセージを連投している。最初は、京都旅行を楽しんで写真を載せていただけだったが、俺からの反応が無いことに気づき、怒り、無視されたと傷つく内容に変わっている。滝本も陽依も段田を警めて止めようと試みていたが、段田のメッセージ連投は止まらない。
返事できなくてごめんなさい、と俺がメッセージを送ると、火に油を注いだような返事が来た。
『今更何なの?』
『旅行が台無し』
『うちらはあんたをかけがえのない友達だと思ってるけど、この仕打ちはあんまり』
『死にたい』
これに対して滝本と陽依は、段田は言い過ぎだと非難し、段田と旅行中の仲の良いふたりは段田を擁護する。
どうしよう、と思ったとき、義父が俺の部屋にやってきた。
「起きたか。ばあちゃんが、夕飯何食べたいかって……?」
義父は、俺の顔を見て絶句した。しまった。義父に心配をかけるわけにはゆかない。
「夕飯? 久しぶりに俺がつくるよ!」
「……お前、大丈夫じゃないだろう。顔色が悪いぞ」
義父は、俺の手元のスマートフォンに視線を落とした。グループトークの画面には、現在進行系で段田からメッセージが送られてくる。
「顔色? 全然そんなことないよ。昼寝させてもらったから、調子良いんだけど」
スマートフォンをしまおうとしたが、義父の大きな手が画面を抑えつける。
「とおちゃんは、他人のケータイなんか興味無い。でも、真っ青な顔をしてケータイから離れられない人に対しては、別だ。お前は18歳だから成人の年齢だけど、まだまだ守られる年齢なんだよ。とおちゃんは、他の子の父親とは違うけど、お前のことは戸籍上の父親として父親らしいことがしたい。多分、今、親ポジションの者がしゃしゃり出ないと収拾がつかないことになっているんじやないのか?」
俺を息子のように思ってくれる義父の気持ちは嬉しいが、親を巻き込んだら段田がどんな行動に出るか、わかったもんじゃない。
「今のお前は、実の母親から心無い言葉を言われ続けていた頃と同じ顔色をしている。お前にとって今の環境は毒だ、と、とおちゃんは思うよ」
義父は、スマートフォンから手を離してくれた。どこをタップしたのか知らないが、通話状態になっている。
『父ちゃん最高じゃん』
『父ちゃん、神ってる』
『うちの親父そこまで格好良くないよ。優しいけど』
『タッキーそれ、私の台詞』
滝本と陽依が加わって盛り上がってしまった。それに対し、段田とその他ふたりからのメッセージが止まった。
「お前の母親みたいな人と直接対決しても、お前が憔悴するだけだ。ああいう人からは、全力で逃げて距離を置くしかないよ」
義父は黙って、ポロシャツの胸ポケットからボールペンと思しきものを出した。
義父は、段田達に聞こえるように、わざと通話状態にして言葉を選ばずにものを言っている。段田が釣られて喋ってくるなら義父の思惑通りだろうけど、段田は通話に参加しない。
『おとうさーん! 友達の滝本です!』
『菊原陽依です!』
『息子さんのこと、自分達に任せて下さい!』
『心配しないで下さい!』
滝本と陽依が、義父に話しかける。
「滝本くんと、菊原さん、倅が世話になってます。この子は本当に良い子です。信じてあげて下さい」
『最初から信じてますよ。皆が喧嘩しないように、気を遣い過ぎるんです』
と、陽依。
『本当はもっと、話したいんですけどね』
と、滝本。
『じゃあ、休み明けに』
『キャンパスで会おうね』
そこで、通話が終了した。
メッセージの画面には、段田と仲の良いふたりがグループから抜けたことが通知されていた。
「とおちゃん、やっちまった。俺が出る幕は無かったのかもしれない」
「そんなこと、ないよ。とおちゃん、ありがとう」
義父は、俺を息子だと認識してくれている。俺も、もう少し義父に甘えても良いのかもしれない。
夕飯は、祖父が奮発して鰻を出前ってくれた。胃が苦しいが、気持ち悪くはない。
昼間着手できなかったレポートをひとつ終えてベッドに入り、スマートフォンを見る。滝本からメッセージが来ていた。個別にメッセージのやりとりをするのは、初めてだ。新幹線の時間を訊かれた。時間が合えば会おうという感じだったが、滝本は昼前、俺は昼過ぎと、時間が異なっていたため会うのは難しそうだった。
スマートフォンを伏せて浅い眠りに入る。夢の中で、俺と滝本、陽依、生方閑真が一緒に大学の講義を受けていた。
閑真はこの連休、実家に帰ったのだろうか。教育学部の閑真は、課題を抱えているのかもしれない。段田に一方的に嫌われて風評被害を受けている彼は、本当に強い。強いけど、頼れる相手はいるのだろうか。トイレで介抱されたことを思い出したが、思い出さないことにした。
返事できなくてごめんなさい、と俺がメッセージを送ると、火に油を注いだような返事が来た。
『今更何なの?』
『旅行が台無し』
『うちらはあんたをかけがえのない友達だと思ってるけど、この仕打ちはあんまり』
『死にたい』
これに対して滝本と陽依は、段田は言い過ぎだと非難し、段田と旅行中の仲の良いふたりは段田を擁護する。
どうしよう、と思ったとき、義父が俺の部屋にやってきた。
「起きたか。ばあちゃんが、夕飯何食べたいかって……?」
義父は、俺の顔を見て絶句した。しまった。義父に心配をかけるわけにはゆかない。
「夕飯? 久しぶりに俺がつくるよ!」
「……お前、大丈夫じゃないだろう。顔色が悪いぞ」
義父は、俺の手元のスマートフォンに視線を落とした。グループトークの画面には、現在進行系で段田からメッセージが送られてくる。
「顔色? 全然そんなことないよ。昼寝させてもらったから、調子良いんだけど」
スマートフォンをしまおうとしたが、義父の大きな手が画面を抑えつける。
「とおちゃんは、他人のケータイなんか興味無い。でも、真っ青な顔をしてケータイから離れられない人に対しては、別だ。お前は18歳だから成人の年齢だけど、まだまだ守られる年齢なんだよ。とおちゃんは、他の子の父親とは違うけど、お前のことは戸籍上の父親として父親らしいことがしたい。多分、今、親ポジションの者がしゃしゃり出ないと収拾がつかないことになっているんじやないのか?」
俺を息子のように思ってくれる義父の気持ちは嬉しいが、親を巻き込んだら段田がどんな行動に出るか、わかったもんじゃない。
「今のお前は、実の母親から心無い言葉を言われ続けていた頃と同じ顔色をしている。お前にとって今の環境は毒だ、と、とおちゃんは思うよ」
義父は、スマートフォンから手を離してくれた。どこをタップしたのか知らないが、通話状態になっている。
『父ちゃん最高じゃん』
『父ちゃん、神ってる』
『うちの親父そこまで格好良くないよ。優しいけど』
『タッキーそれ、私の台詞』
滝本と陽依が加わって盛り上がってしまった。それに対し、段田とその他ふたりからのメッセージが止まった。
「お前の母親みたいな人と直接対決しても、お前が憔悴するだけだ。ああいう人からは、全力で逃げて距離を置くしかないよ」
義父は黙って、ポロシャツの胸ポケットからボールペンと思しきものを出した。
義父は、段田達に聞こえるように、わざと通話状態にして言葉を選ばずにものを言っている。段田が釣られて喋ってくるなら義父の思惑通りだろうけど、段田は通話に参加しない。
『おとうさーん! 友達の滝本です!』
『菊原陽依です!』
『息子さんのこと、自分達に任せて下さい!』
『心配しないで下さい!』
滝本と陽依が、義父に話しかける。
「滝本くんと、菊原さん、倅が世話になってます。この子は本当に良い子です。信じてあげて下さい」
『最初から信じてますよ。皆が喧嘩しないように、気を遣い過ぎるんです』
と、陽依。
『本当はもっと、話したいんですけどね』
と、滝本。
『じゃあ、休み明けに』
『キャンパスで会おうね』
そこで、通話が終了した。
メッセージの画面には、段田と仲の良いふたりがグループから抜けたことが通知されていた。
「とおちゃん、やっちまった。俺が出る幕は無かったのかもしれない」
「そんなこと、ないよ。とおちゃん、ありがとう」
義父は、俺を息子だと認識してくれている。俺も、もう少し義父に甘えても良いのかもしれない。
夕飯は、祖父が奮発して鰻を出前ってくれた。胃が苦しいが、気持ち悪くはない。
昼間着手できなかったレポートをひとつ終えてベッドに入り、スマートフォンを見る。滝本からメッセージが来ていた。個別にメッセージのやりとりをするのは、初めてだ。新幹線の時間を訊かれた。時間が合えば会おうという感じだったが、滝本は昼前、俺は昼過ぎと、時間が異なっていたため会うのは難しそうだった。
スマートフォンを伏せて浅い眠りに入る。夢の中で、俺と滝本、陽依、生方閑真が一緒に大学の講義を受けていた。
閑真はこの連休、実家に帰ったのだろうか。教育学部の閑真は、課題を抱えているのかもしれない。段田に一方的に嫌われて風評被害を受けている彼は、本当に強い。強いけど、頼れる相手はいるのだろうか。トイレで介抱されたことを思い出したが、思い出さないことにした。


