月曜日。
朝から三田の視線を感じる。
できるかぎりスルーしたけど、ついに捕まった。
「ちょっとさ、音楽でやってる曲、歌ってみて」
(は?)
俺は思わず顔をしかめた。
「やだ」
「なんで、お願い」
お願いされたからって、そんな簡単に歌えたら苦労していない。
それに――
「笑ったじゃん、音楽のとき」
俺が言うと、三田は首をかしげた。
「誰が笑ったの」
「三田」
「覚えてない」
さらっと言われて、モヤッとする。
「じゃ、なんで後ろ見たんだよ」
「いや、普通に歌うまいなと思って」
「はぁ?」
「自覚ない? てか、音楽好きじゃないの?」
「……嫌いじゃないけど、好きでもない」
そう言うと、三田は「なんだそれ」と言って、おもしろそうに笑った。
「奏人、歌うまいよ。声がいいし。変なテクニック入れてなくて、まっすぐなのがいい! それに多分オレの……」
「待った待った!」
褒めてくれるのは嬉しいけど、どう返せばいいのか分からない。
あれはただ、谷崎に怒られたくなくて必死に声を出しただけだ。
「音楽の授業、楽しくなかった?」
不意にそう言われて、胸の奥がドキッとした。
「それは……」
楽しかった。
正直、あの一体感とか、歌うのが楽しいと思った自分に、ちょっと驚いたくらいだ。
でも、その言葉は飲み込む。
黙っていると、三田は「やっぱりね」って顔で笑った。
普通の友達みたいに。
「じゃ、今日の十九時に、あの公園で待ってるから」
そう言って、三田は何もなかったみたいに一軍の輪に戻っていった。
ひとり残された俺は「え?」のまま固まった。
(なんで約束みたいになってんの。しかも、あの公園でって……俺が見てたの、気付いてた?)
何もかもが急すぎて、ついていけない。
だけど、胸のどこかでほんの少しだけわくわくしている自分がいた。
◇
俺は夕食を食べながら、心の中で「十九時……十九時……」と呟いていた。
もうすぐ、その十九時になる。
(本当に来てたらどうしよう)
別に「行く」とは言ってない。
うなずいてもいないし、返事すらしてない。
でも、もし三田が待っていて、俺が行かなかったら――なんか、約束破ったみたいになる。
(それは……嫌だ)
皿の上のハンバーグを細かく切りながら、無意識にため息が出る。
「奏人、なに怖い顔してご飯食べてるの?」
母さんが怪訝そうな顔で言った。
「え? あ、運動不足だから、その辺走ってこようかなーなんて」
自分でも驚くほど、嘘くさいセリフだ。今まで一度もそんなことしたことないのに。
母さんも、ポカンと口を開けて俺を見ている。
「……早く、帰って来なさいよ」
「わかった」
(あー、もう)
足早に歩きながら、スマホを見る。
18:58。
結局、俺は公園へ向かっていた。
いないのを確認すれば、この変な罪悪感も消える。そう思った。
それなのに……
「あれ、本当に来た」
三田のゆるい第一声に、頭に血が上るのを感じた。
「……はい?」
思わず、低い声が出る。
でも三田は気にする様子もなく、ギターをベンチに置いてスマホを取り出した。
「連絡先、交換しよ」
「……」
俺は、うつむいている三田のつむじをじっと見た。
なんか……ぐりぐりしてやりたい衝動に駆られる。
「あのな、三田」
「ん?」
「この公園さ、夜は酔っ払いとかいて危ないから、あんま来ない方がいいと思う。それに制服ってのも、なんかヤバいし」
三田は顔を上げて、まっすぐ俺を見た。
「そうなの? てか、まだ夜の七時だし。大丈夫でしょ」
軽い。
「いや、正直、俺が来るの待ってられたら困る」
本音が口からそのまま出た。
「なんだそれ! 来なかったら適当に帰るし」
三田はそう言って笑った。
その笑い方が、なんか無邪気で——逆に心配になる。
三田がスマホを差し出す。
「ほら、連絡先。早く!」
「……なんで交換すんの」
尋ねると、三田は一瞬動きを止めて、地面を見つめた。
「あ……えーと」
「うん?」
三田が動揺してる。
一軍じゃないみたいに、視線が揺れている。
「その……」
「……?」
三田は、ちらっと俺を見て、またすぐ視線をそらした。
そして、小さな声でボソッとつぶやいた。
「動画撮りたい」
「?」
「俺がギターやるから、歌って」
「やだ」
「ほら! ぜったいそう言うと思った」
「まさか、そのために呼んだ?」
「……まぁ、うん」
「歌わないって言ったじゃん」
「一回だけ!」
三田が手を合わせる。
一回だけって言えば、何でも通ると思ってるのか?
「やらないから!」
自分でも驚くくらい大きな声でそう言って、俺はその場を後にした。
朝から三田の視線を感じる。
できるかぎりスルーしたけど、ついに捕まった。
「ちょっとさ、音楽でやってる曲、歌ってみて」
(は?)
俺は思わず顔をしかめた。
「やだ」
「なんで、お願い」
お願いされたからって、そんな簡単に歌えたら苦労していない。
それに――
「笑ったじゃん、音楽のとき」
俺が言うと、三田は首をかしげた。
「誰が笑ったの」
「三田」
「覚えてない」
さらっと言われて、モヤッとする。
「じゃ、なんで後ろ見たんだよ」
「いや、普通に歌うまいなと思って」
「はぁ?」
「自覚ない? てか、音楽好きじゃないの?」
「……嫌いじゃないけど、好きでもない」
そう言うと、三田は「なんだそれ」と言って、おもしろそうに笑った。
「奏人、歌うまいよ。声がいいし。変なテクニック入れてなくて、まっすぐなのがいい! それに多分オレの……」
「待った待った!」
褒めてくれるのは嬉しいけど、どう返せばいいのか分からない。
あれはただ、谷崎に怒られたくなくて必死に声を出しただけだ。
「音楽の授業、楽しくなかった?」
不意にそう言われて、胸の奥がドキッとした。
「それは……」
楽しかった。
正直、あの一体感とか、歌うのが楽しいと思った自分に、ちょっと驚いたくらいだ。
でも、その言葉は飲み込む。
黙っていると、三田は「やっぱりね」って顔で笑った。
普通の友達みたいに。
「じゃ、今日の十九時に、あの公園で待ってるから」
そう言って、三田は何もなかったみたいに一軍の輪に戻っていった。
ひとり残された俺は「え?」のまま固まった。
(なんで約束みたいになってんの。しかも、あの公園でって……俺が見てたの、気付いてた?)
何もかもが急すぎて、ついていけない。
だけど、胸のどこかでほんの少しだけわくわくしている自分がいた。
◇
俺は夕食を食べながら、心の中で「十九時……十九時……」と呟いていた。
もうすぐ、その十九時になる。
(本当に来てたらどうしよう)
別に「行く」とは言ってない。
うなずいてもいないし、返事すらしてない。
でも、もし三田が待っていて、俺が行かなかったら――なんか、約束破ったみたいになる。
(それは……嫌だ)
皿の上のハンバーグを細かく切りながら、無意識にため息が出る。
「奏人、なに怖い顔してご飯食べてるの?」
母さんが怪訝そうな顔で言った。
「え? あ、運動不足だから、その辺走ってこようかなーなんて」
自分でも驚くほど、嘘くさいセリフだ。今まで一度もそんなことしたことないのに。
母さんも、ポカンと口を開けて俺を見ている。
「……早く、帰って来なさいよ」
「わかった」
(あー、もう)
足早に歩きながら、スマホを見る。
18:58。
結局、俺は公園へ向かっていた。
いないのを確認すれば、この変な罪悪感も消える。そう思った。
それなのに……
「あれ、本当に来た」
三田のゆるい第一声に、頭に血が上るのを感じた。
「……はい?」
思わず、低い声が出る。
でも三田は気にする様子もなく、ギターをベンチに置いてスマホを取り出した。
「連絡先、交換しよ」
「……」
俺は、うつむいている三田のつむじをじっと見た。
なんか……ぐりぐりしてやりたい衝動に駆られる。
「あのな、三田」
「ん?」
「この公園さ、夜は酔っ払いとかいて危ないから、あんま来ない方がいいと思う。それに制服ってのも、なんかヤバいし」
三田は顔を上げて、まっすぐ俺を見た。
「そうなの? てか、まだ夜の七時だし。大丈夫でしょ」
軽い。
「いや、正直、俺が来るの待ってられたら困る」
本音が口からそのまま出た。
「なんだそれ! 来なかったら適当に帰るし」
三田はそう言って笑った。
その笑い方が、なんか無邪気で——逆に心配になる。
三田がスマホを差し出す。
「ほら、連絡先。早く!」
「……なんで交換すんの」
尋ねると、三田は一瞬動きを止めて、地面を見つめた。
「あ……えーと」
「うん?」
三田が動揺してる。
一軍じゃないみたいに、視線が揺れている。
「その……」
「……?」
三田は、ちらっと俺を見て、またすぐ視線をそらした。
そして、小さな声でボソッとつぶやいた。
「動画撮りたい」
「?」
「俺がギターやるから、歌って」
「やだ」
「ほら! ぜったいそう言うと思った」
「まさか、そのために呼んだ?」
「……まぁ、うん」
「歌わないって言ったじゃん」
「一回だけ!」
三田が手を合わせる。
一回だけって言えば、何でも通ると思ってるのか?
「やらないから!」
自分でも驚くくらい大きな声でそう言って、俺はその場を後にした。



