(うわー、ないわー)
塾の帰り道。
駅裏の小さな公園で、三田が街灯に照らされながらギターを弾いていた。
演奏に足を止める人もいたけど、それは――歌が上手いからじゃない気がした。
高くて掠れた声はギターの音色に負けていて、上手いかどうかよく分からない。
音痴ってわけじゃないけど、声が細くて、物足りない感じがする。
多分、注目を集めているのは歌じゃなくて、街灯に照らされた三田の横顔――あの透明な雰囲気そのものだ。
俺とは違って、容姿も性格も「一軍」の三田。
同じクラスなのに、一度も話したことはない。
(てか、困ったもん見ちゃったな)
学校で三田がギターを持ってるところなんて、見たことない。
ってことは、軽音部とかじゃなくて、個人的にやってるのか?
……クラスのやつら、知ってんのかな。
そのとき。
優しそうなカップルと笑顔で話していた三田が、リクエストに応えるみたいに指先でコードを探った。
その手つきが妙にきれいで、なんか――学校の、明るくてなにも考えてなさそうな三田とは別人みたいに見えた。
◇
次の日。
教室に入ると、三田はいつもの場所で、いつものメンバーと喋っていた。
(……ほんとに同一人物?)
昨日、公園で聞いた繊細なギターの音が、まだ耳の奥に残っている。
なのに本人は、あくびをしながらくしゃくしゃのプリントを伸ばしたりして、周りにからかわれている。
あの、街灯の下でふっと消えそうだった透明さなんて、影も形もない。
でも──
(指、きれいだな)
髪を直したり、プリントを後ろに回したりする指先を、つい目で追ってしまう。
気づいたら、授業中ずっと三田を見ていた。
「奏人、つぎ音楽だよ」
幼なじみの理玖が机の前に立って、のんびり言った。
理玖とは小学校も中学校も同じ。
良くも悪くも、いて当たり前の空気みたいな存在だ。
「音楽って、谷崎じゃん。早くしないと!」
慌てて自分のロッカーに向かう。
音楽の谷崎先生。
いい音楽を作ろうとしてやり過ぎるタイプの、ちょっとヤバめな先生だ。
遅れたら最後。
「音楽をナメてるのか!!」って太い声が、校舎に響き渡る。
(ほんと、今どき熱血とかなんなんだ)
廊下を走って音楽室に入ると、タイミングよく谷崎がぬっと現れた。
「音楽を──」
「ナメてません……」
反射的に返すと、近くにいた三田がくすっと笑った。
不覚にも、嬉しいと思ってしまった。
「よし、じゃあ前回の続きから。男子、全体的に声小さいから頑張れよー」
谷崎の合図で、みんながぞろぞろと自分の場所に移動していく。
俺と理玖も列に加わった。
谷崎のピアノに合わせて、真面目に歌う。
声を出さないとすごい目力で睨まれるから、恥ずかしいけどちゃんと声も出す。
斜め前の三田も、同じように真剣に歌っていた。
谷崎が怖いからかもしれないけど──歌が好きなんだろうな。
いつもの眠そうな感じじゃなくて、背中からやる気が伝わってくる。
好きなものがあるって、なんだか羨ましい。
それにしても、さすが高校生。
みんなで歌うと迫力があるし、女子の透き通った高い声と男子の低音がきれいにハモってる。
(なんか……いい感じかも)
そんなことを考えていたら、三田が一瞬だけ振り返って俺を見た。
(……え?)
変だった?
音、外した?
てか、なんでわざわざ見る?
考えてたら、俺は歌詞を思いきり間違えた。
「あ」
三田の肩が、小さく揺れる。
(……いや、今絶対笑っただろ)
むかついた、というより、妙に恥ずかしくて、俺は三田の背中をこっそりにらんだ。
塾の帰り道。
駅裏の小さな公園で、三田が街灯に照らされながらギターを弾いていた。
演奏に足を止める人もいたけど、それは――歌が上手いからじゃない気がした。
高くて掠れた声はギターの音色に負けていて、上手いかどうかよく分からない。
音痴ってわけじゃないけど、声が細くて、物足りない感じがする。
多分、注目を集めているのは歌じゃなくて、街灯に照らされた三田の横顔――あの透明な雰囲気そのものだ。
俺とは違って、容姿も性格も「一軍」の三田。
同じクラスなのに、一度も話したことはない。
(てか、困ったもん見ちゃったな)
学校で三田がギターを持ってるところなんて、見たことない。
ってことは、軽音部とかじゃなくて、個人的にやってるのか?
……クラスのやつら、知ってんのかな。
そのとき。
優しそうなカップルと笑顔で話していた三田が、リクエストに応えるみたいに指先でコードを探った。
その手つきが妙にきれいで、なんか――学校の、明るくてなにも考えてなさそうな三田とは別人みたいに見えた。
◇
次の日。
教室に入ると、三田はいつもの場所で、いつものメンバーと喋っていた。
(……ほんとに同一人物?)
昨日、公園で聞いた繊細なギターの音が、まだ耳の奥に残っている。
なのに本人は、あくびをしながらくしゃくしゃのプリントを伸ばしたりして、周りにからかわれている。
あの、街灯の下でふっと消えそうだった透明さなんて、影も形もない。
でも──
(指、きれいだな)
髪を直したり、プリントを後ろに回したりする指先を、つい目で追ってしまう。
気づいたら、授業中ずっと三田を見ていた。
「奏人、つぎ音楽だよ」
幼なじみの理玖が机の前に立って、のんびり言った。
理玖とは小学校も中学校も同じ。
良くも悪くも、いて当たり前の空気みたいな存在だ。
「音楽って、谷崎じゃん。早くしないと!」
慌てて自分のロッカーに向かう。
音楽の谷崎先生。
いい音楽を作ろうとしてやり過ぎるタイプの、ちょっとヤバめな先生だ。
遅れたら最後。
「音楽をナメてるのか!!」って太い声が、校舎に響き渡る。
(ほんと、今どき熱血とかなんなんだ)
廊下を走って音楽室に入ると、タイミングよく谷崎がぬっと現れた。
「音楽を──」
「ナメてません……」
反射的に返すと、近くにいた三田がくすっと笑った。
不覚にも、嬉しいと思ってしまった。
「よし、じゃあ前回の続きから。男子、全体的に声小さいから頑張れよー」
谷崎の合図で、みんながぞろぞろと自分の場所に移動していく。
俺と理玖も列に加わった。
谷崎のピアノに合わせて、真面目に歌う。
声を出さないとすごい目力で睨まれるから、恥ずかしいけどちゃんと声も出す。
斜め前の三田も、同じように真剣に歌っていた。
谷崎が怖いからかもしれないけど──歌が好きなんだろうな。
いつもの眠そうな感じじゃなくて、背中からやる気が伝わってくる。
好きなものがあるって、なんだか羨ましい。
それにしても、さすが高校生。
みんなで歌うと迫力があるし、女子の透き通った高い声と男子の低音がきれいにハモってる。
(なんか……いい感じかも)
そんなことを考えていたら、三田が一瞬だけ振り返って俺を見た。
(……え?)
変だった?
音、外した?
てか、なんでわざわざ見る?
考えてたら、俺は歌詞を思いきり間違えた。
「あ」
三田の肩が、小さく揺れる。
(……いや、今絶対笑っただろ)
むかついた、というより、妙に恥ずかしくて、俺は三田の背中をこっそりにらんだ。



