「ただいまー。どうぞ入って」
「お邪魔します……」
なんでオレは、白瀬の家なんかにいるんだろう。盛大なため息をつきつつ、渋々と靴を脱ぐ。
うちよりでかくて部屋数も多そうな白瀬家は、白を基調としていてホコリひとつ落ちていない。白瀬のイメージ通りといったところか。おかえりとの返事はない様子から、家には誰もいないようだ。
「俺の部屋行ってて」
「いや、部屋とか知らないし」
「二階の左奥。適当に座ってていいから」
「……はあ」
勝手すぎると思ったが、白瀬はリビングらしき部屋に入っていってしまった。仕方なく二階へと上がり、指定された部屋のドアをおそるおそる開ける。するとそこには、物の少ないスタイリッシュな光景が広がっていた。きちんと整えられたベッドに、こちらも整頓されている、無駄なものなんてひとつも置いていないデスク。こちらも端的に言って、ザ・白瀬といった感じだ。
ついまじまじと眺めていると、ドアの向こうから白瀬の声が聞こえてきた。
「真宮ー、開けてー。両手塞がってるから」
言われるままに開けると、白瀬はトレイを持って立っていた。どうやら茶菓子を用意してくれたらしい。
「アイスティー飲める? クッキーは?」
「……飲めるし食える」
「よかった。暑かったし飲んでよ。クッキーも好きなだけ食べて。おかわりもよかったら持ってくる」
「それはどうも……」
トレイをデスクに置いて、オレにグラスを渡して。エアコンを起動する白瀬は、ひとつひとつが腹立つくらいにスマートだ。そんな白瀬の足元に、ふわっとしたなにかが横切った。それに気づいた瞬間、オレは思わず息を飲んだ。
「っ、猫」
「あ、ユキ〜。ついてきたのか」
ユキと呼ばれた猫は、白瀬の足に体をすりつけながらニャアンと嬉しそうに鳴いた。主人の帰りを歓迎しているらしい。真っ白でふわっふわの長毛で、あどけない顔をしている。猫種はラグドールだろうか。控えめに言って、最高にかわいい。
怖がらせないようにゆっくりと屈んで、手を伸ばそうとした――のだけれど。
「あっ」
手が触れる直前、ユキは白瀬に抱き上げられてしまった。
「真宮、さっきの俺の話、ちゃんと覚えてる?」
「え?」
「俺のお願いを聞いてくれたら、抱っこし放題」
「う……触んのもダメってこと?」
「そう」
「お前……純粋な猫使って結構鬼畜なこと言ってんぞ……」
「ん、まあな。自覚あるよ。でも……なりふり構ってられなくてさ」
「…………?」
「立ったままもあれだよな。そこの椅子にでも座って」
「う、うん……」
急に神妙な顔をしてオレに椅子を勧めた白瀬は、ユキを抱いたままベッドに座った。それから、ゴロゴロと甘えた音を出すユキの喉を撫でながら深呼吸をひとつした。
「単刀直入に言うけど、俺、美容師になりたいんだ」
「……へえ」
その言葉に、俺は静かに息を飲んだ。そうか、白瀬はもう将来なりたいものが決まっているのか。オレなんか、まだ全然見当もつかないのに。
「専門に入ってからなんて待ってられなくて。今からもうやれることはやりたくてさ」
「……すげーな」
白瀬のことは苦手だけど、素直にそう感じた。ついこぼれた褒め言葉にハッとして、視線と一緒に照れくささを窓の外へと逃がす。
「それで、真宮にしか頼めないことがあって」
「…………? オレにしか?」
「そう……真宮、頼む! 真宮の髪で、練習をさせてください!」
「…………は?」
オレの髪で練習? 全く意味が分からなくて、オレはたっぷりと間を置いた後に首を傾げた。
「もちろん切ったりはしないよ。三つ編みとか、コテで巻き髪とか。ヘアアレンジの練習をさせてほしい」
「……え、すげー無理」
でも白瀬の説明のおかげで、なんとなく理解できた。なるほど。うん、そんなの絶対に嫌に決まってる。
「分かる、嫌だよな! 女子の髪型にされるとか勘弁だよな! でも頼む! この通り!」
両手をパチンと合わせて、白瀬はその手を掲げつつ頭を下げた。それに驚いたのか、ユキは白瀬の膝から下りてしまった。あーあ、あのふわふわの体を抱っこさせてほしいけど。すげーすげー惜しいけど。白瀬の言う通り、勘弁願いたい。
「オレ、帰る」
「っ、真宮! 少しの時間でいいんだ! 放課後真宮が暇な時、ここに来てもらって、ちょっとだけ」
慌てたように立ち上がる白瀬は必死な顔をしていて、胸がチクンと痛む。なんで、苦手なヤツのためにオレが後ろめたさを感じなきゃいけないんだよ。後味が悪すぎる。
「あのさ、そもそもなんでオレ? 白瀬が頼めば、学校の全女子が喜んで相手してくれるよね」
これはせめてもの、オレなりのアドバイスだ。でもこんなこと、白瀬だって分からないはずないのに。あれだけ毎日、キャーキャー言われているのだから。
「それは……嫌なんだよ」
「…………? なんで?」
「女子の誰かに頼んだら……俺に好かれてるってその子に勘違いさせるかもしれないし、最悪みんなからハブられたりするかもしれないだろ」
「あ、モテてる自覚がずいぶんおありなようで」
「あんな毎日言われてたらな……マジでどうかしてると思うけど」
「……え?」
なんだか今、普段の白瀬からは想像できない黒い言葉が聞こえた気がする。思わず聞き返したけど、白瀬は黙ったまま再びユキを抱き上げた。
「真宮、綺麗な髪してるから。ずっと触らせてほしいって思ってた。長さもあるからアレンジできそうだし」
「ええー……たまに目が合うなって思ってたけど、そういう?」
「うん。ずっと機会窺ってて、さっき猫にごはんあげてるの見て、チャンスだって思った。真宮、手出して」
「え? ……わっ、ええ、やばい、マジでふわふわ……っ」
なにかと思えば、ユキがオレの手の中へとやってきた。とっさに抱きとめれば、まるでわたあめみたいにふわふわで、それでいてずっしりとした重みがある。やばい、命をひしひしと感じる。愛しいってこういうことかも。
「引き受けてくれたら、毎回こうやって抱っこできるよ」
「う……」
「真宮の好きなだけしていい。ユキも抱っこされるの大好きだから」
「うう……」
「抱っこだけじゃなくて、ユキが許す限り猫吸いも可」
「っ、お前ぇ……極悪人かよぉ……」
悪どい、悪どすぎる。なにが王子だ。他人の心を上手いこと操って、自分の願いを叶える悪魔の間違いじゃないか?
でも……ユキの愛らしさに抗えない自分がいる。オレの腕の中でぐるぐると喉を鳴らしてくれるなんて、夢みたいだ。
「……オレ、変な目で見られたくねぇよ」
「え?」
「髪巻かれて、そのまま電車乗って帰るとか無理すぎる」
学校では極力目立たないようにしているのに。放課後に練習台になって、制服でそのまま帰る? そんなの、いい笑い者じゃないか。
「それなら大丈夫だよ。ちゃんと元の髪に戻すから」
「そんなんできんの? シャンプー?」
「そこまでしなくても、濡らして乾かせば平気。俺が責任持って、ドライヤーかけさせてもらいます」
オレの心が揺らいでいることに、きっと白瀬は気づいている。でも、先ほどまでの勢いは消えている。オレがちゃんとオレの気持ちで決意するのを、待っているのだろうか。そういうところが王子と呼ばれる所以なのかな。オレはもう、コイツの強引さや悪どさを知ってしまったわけだけれど。
「……絶対、元に戻してよ。髪で顔隠れてないと、不安だから」
「っ、うん、約束する」
「それから、学校では話しかけないでほしい。白瀬に声かけられるだけで、絶対目立つ」
「ん、分かった」
「あとは……ユキを抱っこさせてくれるって話も、絶対だからな。もちろん、ユキが嫌じゃなかったらでいいけど」
「うん、もちろん。ユキも嬉しいよな。もともと人懐っこい子だけど……初対面の人にそこまで懐いてるのは初めて見たかも」
さっきからユキはオレの顔に頭をすりつけて、今は肩にあごを乗せてぺったりとくっついている。白瀬に頭を撫でられて、ナァンとちいさく鳴いた。まんまと白瀬の思惑に乗せられて、正直癪だけど。ユキのこの愛おしさに免じて、オレは条件を飲むことにした。
「……じゃあ、交渉成立な」
「ありがとう、真宮……本当に嬉しい。助かる。これからよろしくお願いします」
白瀬はそう言って、ほほ笑みながらちいさく頭を下げた。そこまでされると、ちょっと悪い気がしてくる。だってオレは、ただただユキがお目当てだから。
「別に、そんなんしなくていいから。白瀬のためだけじゃないし……ギブアンドテイクだろ」
「ギブアンドテイクか。たしかに」
「白瀬が提案したのに。変なヤツ」
「はは、まあな。じゃあさっそく、今日の分練習させてもらっていい?」
「は? 今日もやんの?」
「もちろん。せっかくここにいるんだし、させてほしい」
「……はあ、わかった」
今日は簡単に三つ編みでも、と意気ごむ白瀬を横目に、オレは再び椅子に腰を下ろす。
オレはこれから、ここに何度も通うことになったみたいだ。今日も平穏に一日を終えるはずだったのに、想定外のことになった。未だに腑に落ちない思いもあるけれど……危ないからと腕から下ろしたユキが、オレの足元で眠りはじめたから。今日のところはとりあえず、これでよかった、ということにしようか。
「お邪魔します……」
なんでオレは、白瀬の家なんかにいるんだろう。盛大なため息をつきつつ、渋々と靴を脱ぐ。
うちよりでかくて部屋数も多そうな白瀬家は、白を基調としていてホコリひとつ落ちていない。白瀬のイメージ通りといったところか。おかえりとの返事はない様子から、家には誰もいないようだ。
「俺の部屋行ってて」
「いや、部屋とか知らないし」
「二階の左奥。適当に座ってていいから」
「……はあ」
勝手すぎると思ったが、白瀬はリビングらしき部屋に入っていってしまった。仕方なく二階へと上がり、指定された部屋のドアをおそるおそる開ける。するとそこには、物の少ないスタイリッシュな光景が広がっていた。きちんと整えられたベッドに、こちらも整頓されている、無駄なものなんてひとつも置いていないデスク。こちらも端的に言って、ザ・白瀬といった感じだ。
ついまじまじと眺めていると、ドアの向こうから白瀬の声が聞こえてきた。
「真宮ー、開けてー。両手塞がってるから」
言われるままに開けると、白瀬はトレイを持って立っていた。どうやら茶菓子を用意してくれたらしい。
「アイスティー飲める? クッキーは?」
「……飲めるし食える」
「よかった。暑かったし飲んでよ。クッキーも好きなだけ食べて。おかわりもよかったら持ってくる」
「それはどうも……」
トレイをデスクに置いて、オレにグラスを渡して。エアコンを起動する白瀬は、ひとつひとつが腹立つくらいにスマートだ。そんな白瀬の足元に、ふわっとしたなにかが横切った。それに気づいた瞬間、オレは思わず息を飲んだ。
「っ、猫」
「あ、ユキ〜。ついてきたのか」
ユキと呼ばれた猫は、白瀬の足に体をすりつけながらニャアンと嬉しそうに鳴いた。主人の帰りを歓迎しているらしい。真っ白でふわっふわの長毛で、あどけない顔をしている。猫種はラグドールだろうか。控えめに言って、最高にかわいい。
怖がらせないようにゆっくりと屈んで、手を伸ばそうとした――のだけれど。
「あっ」
手が触れる直前、ユキは白瀬に抱き上げられてしまった。
「真宮、さっきの俺の話、ちゃんと覚えてる?」
「え?」
「俺のお願いを聞いてくれたら、抱っこし放題」
「う……触んのもダメってこと?」
「そう」
「お前……純粋な猫使って結構鬼畜なこと言ってんぞ……」
「ん、まあな。自覚あるよ。でも……なりふり構ってられなくてさ」
「…………?」
「立ったままもあれだよな。そこの椅子にでも座って」
「う、うん……」
急に神妙な顔をしてオレに椅子を勧めた白瀬は、ユキを抱いたままベッドに座った。それから、ゴロゴロと甘えた音を出すユキの喉を撫でながら深呼吸をひとつした。
「単刀直入に言うけど、俺、美容師になりたいんだ」
「……へえ」
その言葉に、俺は静かに息を飲んだ。そうか、白瀬はもう将来なりたいものが決まっているのか。オレなんか、まだ全然見当もつかないのに。
「専門に入ってからなんて待ってられなくて。今からもうやれることはやりたくてさ」
「……すげーな」
白瀬のことは苦手だけど、素直にそう感じた。ついこぼれた褒め言葉にハッとして、視線と一緒に照れくささを窓の外へと逃がす。
「それで、真宮にしか頼めないことがあって」
「…………? オレにしか?」
「そう……真宮、頼む! 真宮の髪で、練習をさせてください!」
「…………は?」
オレの髪で練習? 全く意味が分からなくて、オレはたっぷりと間を置いた後に首を傾げた。
「もちろん切ったりはしないよ。三つ編みとか、コテで巻き髪とか。ヘアアレンジの練習をさせてほしい」
「……え、すげー無理」
でも白瀬の説明のおかげで、なんとなく理解できた。なるほど。うん、そんなの絶対に嫌に決まってる。
「分かる、嫌だよな! 女子の髪型にされるとか勘弁だよな! でも頼む! この通り!」
両手をパチンと合わせて、白瀬はその手を掲げつつ頭を下げた。それに驚いたのか、ユキは白瀬の膝から下りてしまった。あーあ、あのふわふわの体を抱っこさせてほしいけど。すげーすげー惜しいけど。白瀬の言う通り、勘弁願いたい。
「オレ、帰る」
「っ、真宮! 少しの時間でいいんだ! 放課後真宮が暇な時、ここに来てもらって、ちょっとだけ」
慌てたように立ち上がる白瀬は必死な顔をしていて、胸がチクンと痛む。なんで、苦手なヤツのためにオレが後ろめたさを感じなきゃいけないんだよ。後味が悪すぎる。
「あのさ、そもそもなんでオレ? 白瀬が頼めば、学校の全女子が喜んで相手してくれるよね」
これはせめてもの、オレなりのアドバイスだ。でもこんなこと、白瀬だって分からないはずないのに。あれだけ毎日、キャーキャー言われているのだから。
「それは……嫌なんだよ」
「…………? なんで?」
「女子の誰かに頼んだら……俺に好かれてるってその子に勘違いさせるかもしれないし、最悪みんなからハブられたりするかもしれないだろ」
「あ、モテてる自覚がずいぶんおありなようで」
「あんな毎日言われてたらな……マジでどうかしてると思うけど」
「……え?」
なんだか今、普段の白瀬からは想像できない黒い言葉が聞こえた気がする。思わず聞き返したけど、白瀬は黙ったまま再びユキを抱き上げた。
「真宮、綺麗な髪してるから。ずっと触らせてほしいって思ってた。長さもあるからアレンジできそうだし」
「ええー……たまに目が合うなって思ってたけど、そういう?」
「うん。ずっと機会窺ってて、さっき猫にごはんあげてるの見て、チャンスだって思った。真宮、手出して」
「え? ……わっ、ええ、やばい、マジでふわふわ……っ」
なにかと思えば、ユキがオレの手の中へとやってきた。とっさに抱きとめれば、まるでわたあめみたいにふわふわで、それでいてずっしりとした重みがある。やばい、命をひしひしと感じる。愛しいってこういうことかも。
「引き受けてくれたら、毎回こうやって抱っこできるよ」
「う……」
「真宮の好きなだけしていい。ユキも抱っこされるの大好きだから」
「うう……」
「抱っこだけじゃなくて、ユキが許す限り猫吸いも可」
「っ、お前ぇ……極悪人かよぉ……」
悪どい、悪どすぎる。なにが王子だ。他人の心を上手いこと操って、自分の願いを叶える悪魔の間違いじゃないか?
でも……ユキの愛らしさに抗えない自分がいる。オレの腕の中でぐるぐると喉を鳴らしてくれるなんて、夢みたいだ。
「……オレ、変な目で見られたくねぇよ」
「え?」
「髪巻かれて、そのまま電車乗って帰るとか無理すぎる」
学校では極力目立たないようにしているのに。放課後に練習台になって、制服でそのまま帰る? そんなの、いい笑い者じゃないか。
「それなら大丈夫だよ。ちゃんと元の髪に戻すから」
「そんなんできんの? シャンプー?」
「そこまでしなくても、濡らして乾かせば平気。俺が責任持って、ドライヤーかけさせてもらいます」
オレの心が揺らいでいることに、きっと白瀬は気づいている。でも、先ほどまでの勢いは消えている。オレがちゃんとオレの気持ちで決意するのを、待っているのだろうか。そういうところが王子と呼ばれる所以なのかな。オレはもう、コイツの強引さや悪どさを知ってしまったわけだけれど。
「……絶対、元に戻してよ。髪で顔隠れてないと、不安だから」
「っ、うん、約束する」
「それから、学校では話しかけないでほしい。白瀬に声かけられるだけで、絶対目立つ」
「ん、分かった」
「あとは……ユキを抱っこさせてくれるって話も、絶対だからな。もちろん、ユキが嫌じゃなかったらでいいけど」
「うん、もちろん。ユキも嬉しいよな。もともと人懐っこい子だけど……初対面の人にそこまで懐いてるのは初めて見たかも」
さっきからユキはオレの顔に頭をすりつけて、今は肩にあごを乗せてぺったりとくっついている。白瀬に頭を撫でられて、ナァンとちいさく鳴いた。まんまと白瀬の思惑に乗せられて、正直癪だけど。ユキのこの愛おしさに免じて、オレは条件を飲むことにした。
「……じゃあ、交渉成立な」
「ありがとう、真宮……本当に嬉しい。助かる。これからよろしくお願いします」
白瀬はそう言って、ほほ笑みながらちいさく頭を下げた。そこまでされると、ちょっと悪い気がしてくる。だってオレは、ただただユキがお目当てだから。
「別に、そんなんしなくていいから。白瀬のためだけじゃないし……ギブアンドテイクだろ」
「ギブアンドテイクか。たしかに」
「白瀬が提案したのに。変なヤツ」
「はは、まあな。じゃあさっそく、今日の分練習させてもらっていい?」
「は? 今日もやんの?」
「もちろん。せっかくここにいるんだし、させてほしい」
「……はあ、わかった」
今日は簡単に三つ編みでも、と意気ごむ白瀬を横目に、オレは再び椅子に腰を下ろす。
オレはこれから、ここに何度も通うことになったみたいだ。今日も平穏に一日を終えるはずだったのに、想定外のことになった。未だに腑に落ちない思いもあるけれど……危ないからと腕から下ろしたユキが、オレの足元で眠りはじめたから。今日のところはとりあえず、これでよかった、ということにしようか。



