酔いが覚めるような寒さの中、背中に暖かさと成人男性一人分の重みを感じながら歩く。
「うー…すまません…」
弱々しい声
「お前、飲めねえなら自制しろよ」
「だって…伊織さんに……かっこ悪いところ……うっ」
「分かった分かった喋るな。1度吐いとけ」
背中から下ろし、コンビニで買った水と袋を渡す。
筋肉のついた逞しい背中をなでてやりながら独り呟く。
「可愛いやつ」
「……なんか言った、いおりはん?」
「言ってねーよ。歩けるか?おぶるか?」
「…んー…おんぶ…」
「はいはい」
フッと笑いが漏れる。
店で見ていたイケメンと同じヤツなのか?と思うほどぐだぐだな早川。大人びた表情を見せることもあるけれど、コイツの中身は、子供みたいに純粋で真っ直ぐだ。
ほんと、可愛いやつ。
どさりと早川をベッドに下ろす。
自分のベッドに他人が寝てるって、変な光景だ。
「口ゆすいだか?水飲めよ」
酒で赤く染まった頬が彼を幼く感じさせる。
「伊織さん……手」
言われるがまま差し出すと、グイッと引かれベッドに引き込まれ、早川に背を向ける格好で抱きしめられる。
「おい、」
体格の差を実感する。
「何もしないから、このまま…お願い」
縋るような声。
どうやら俺はコイツの“お願い”に弱いらしい。
俺の耳元で響く掠れた声。
「ねぇ、伊織さん…。俺、伊織さんが、好きです」
顔に熱が集まる。
背中から、早川の熱と鼓動が伝わる。
「早川、」
「蓮。蓮って、呼んで?」
甘く囁かれ、身体がピクリと震えた。
「…いいから早く寝ろ、蓮」
「…うん」
ぎゅ、と腰に回された腕の力が強まった。
鼓動がうるさい。
ああ、俺は、
コイツのこと、まんまと好きになってしまったみてぇだ。
「おつかれ睦月。今日も残業?」
「そうです」
コーヒー片手に俺の肩に体重をかけるこの男は、何かと俺を気にかけてくれる先輩の西野さん。
長身でスタイルが良く、顔も整っているので、女性社員のファンが多い。
「お前最近おかしくない?」
「そうですか?」
「ぼーっとしてる。さっき女子トイレ入りそうになってただろ。確信犯なら褒めてやる」
親指を立てて関心したように1人頷く西野さんに、思わず呆れ交じりのため息が出る。
「…違いますよ」
「何かあったなら、頼れる先輩に相談したらどうだ?俺とか」
俺にキメ顔を晒す西野さん。いつも通り俺はスルー。西野さんは、無視されるのを知っていて、こういうのがやめられない人。だから、多分、彼女ができないんだろう。
滑ってますよ。
西野さんに指摘されて、自分のことに思考を戻す。
正直、最近おかしいのは認める。
気づくと早川のことばかり考えているんだ。
押し黙る俺に、西野さんは優しく声をかけてきた。
「明日は早く上がれよ、久しぶりに飲み行こう」
「…はい」
いつもふざけてるが、確かに西野さんは頼れる先輩に違いない。



