その名は時間管理局


 ============== これは、勿論フィクションです。 =======
 俺の名は、加賀見進。別名「異次元の殺し屋・万華鏡」。次元を渡り歩く殺し屋をしていたが、時間管理局に『異動』になった。俺の使命は、この未来世界(3026年)から、所謂タイムリープをして逃げた犯人を追って、『悪さ』をしていた場合、逮捕し、局に移送させることだった。殺しはしないが、痛め付けること位は許されている。
 今の俺は、『異次元のパトロール警官』。次元の『調整係』だ。

 ボスは言った。「今日の任務は、場所が『本の国』。君が次元管理局に拾われる前の自分自身と接近遭遇した次元だ。時間軸は、1991年。『差異』は、存在しなかった筈のサイン帳がプレミア取引されていることだ。」

 俺は、MRIに似た装置に横たわった。
 何故、『行きは恐いが、帰りは楽ちん』なのか、出勤した時にボスに尋ねてみた。
 どうやら、この装置はただの移送装置ではなく、所謂『睡眠学習』的なことをやっているらしい。総理で現着した時に『体内時計』が進んでいる訳だ。
 何を学習するかと言えば、『差異』を時間管理局のデータベースが弾き出した理由だ。
 仮眠状態で『学習』した俺は、現地に跳んだ。

 1991年。『本の国』では、空前の大相撲ブームだった。兄弟力士で横綱を奪い合いするなんて、そりゃあ、滅多にないことだ。
 その力士の弟の方はハンサムで、特に人気が高かった。
 出場時間が迫ったので、付け人がファンを整理したが、隙をついて、女子高生らしき女性がサインを求めた。
 付け人が追い払おうとしたが、「まあ、いいじゃないか。色紙、持ってる?ああ、サイン帳ね。あれ、〇〇選手のサインも貰ったの?タレントの〇〇さんのもある。気が多いなあ。僕の試合、観てくれている?」
 などと、言いながら、すらすらとサインをして女子高生に渡した。
 「今日も勝つから、観客席で観てて。」
 女子高生は深くお辞儀をし、礼を言った。
 付け人が俺に気づき、尋ねた。
 「あなたは?」「ああ。臨時の警備員です。着替える前だけど、何か騒がしかったようだから。」
 「ああ。大丈夫ですよ。ご苦労様。」奥から力士が答えた。
 これからなので、と言われ、俺は廊下に出て、彼女を追った。

 外に出て、100メートルほど先の公園で、彼女は、いた。
 「どうやって、未来から来たの?この世界から帰れないよ。未成年じゃない、未来人さん。」
 彼女は、正直に答えた。
 「シッパーのバイトで、言われた通りやったけど、帰れないの?」
 「ああ。残念ながら、今のままではね。オジサンが送り返すけど、サイン帳、諦めてくれる?」
 連れて来た当人がいれば、俺の備品のセンサーが動く。今は動かない。
 俺は、その場でサイン帳を消すと、彼女を銃で撃って、未来へ送った。
 そして、俺は未来へ帰った。

 3026年。俺が出発した日付。午後4時。時間管理局。
 「五十嵐。慣れたか、仕事。」
 ボスの言葉に、その頭の揺れは慣れないが、と思った。
 「頭の揺れが気になるなら、横向いて話しても良いぞ。どうだった?」
 「シッパーの一味は見つかりませんでした。シッパーに唆されて、自称女子高生、実は22歳くらいの女の子が過去に跳んで人気力士にサイン帳を渡したのが原因で、その子孫が代々持っていたサイン帳に、馬鹿でかいプレミアがついたようです。その力士以外のサインは偽物なのに。サイン帳は消滅させ、女の子は、この時間軸の『保安檻』に送りました。その女の子は重罪ですか?」
 「説諭して自宅に帰したそうだ。変なサイトの詐欺に引っかからないようにと言って。」
 「悪いのは、シッパーですものね。ところで、この『差異』って、どうやって見付けるんです?」
 「次元管理局の『データベース』については話したね。このデータベースを管理しているシステムは、所謂『特異点』なんだ。バリアと言うべきか。外界で異変が起きても、影響は受けない。そして、システムは、この時間軸で異変があると、データベースを調べて、どこかの次元の過去に何かあったと判断する。周回プログラムで、次元の管理をしている。君がいた次元管理局は、次元の異常な膨脹が始まったので、新たに独立したんだ。装置を盗んで逃亡した件を解決する役目を兼ねて。」
 「あのー。も1つ。何で俺自身が体験したことをデータベースが登録出来ているんですか?」
 「管理官が渡した腕時計は、改訂版だが、初版は、君が次元管理局にスカウトされた時に記録プログラムが内蔵された腕時計を渡された。詰まり、君が、どの女と何回セックスしたかまで把握されている。」
 「聞かなければ良かった。」
 そう言って、俺は、新しい腕時計をスキャンさせて、『退勤』をシステムに記録した。

 帰ると、かな子は、「女子高生もどきとは、寝なかったの?そんな暇はないか。」と言った。
 どうして?と聞こうとして止めた。
 恐くなったから。元殺し屋だが、毎晩妻に『殺されて』いる。
 独り身の時は、考えもしなかった。
 結婚は『地獄』への片道切符だった。

 俺は、黙々と夕食を食べ、絞首台を上る思いで、ベッドに向かった。

 ―完―