「はぁ~食べた~!あ、肉まんだ!」
「圭太先輩、まだ食べるんですか?」
「私買い物したいなー」
「私も!商店街見て回りたいです!」
「豚まんと肉まんの違いって知ってる?」
好き勝手言っているみんなの声を聞いて、千冬がスマホで時間を確認する。
「自由行動にしましょう。夕方には天王寺まで移動しますから、2時間後にここに集合です」
「「「はーい」」」
みんなが元気よく返事をして、バラバラと解散する。
千冬に旗とか持たせてやった方がいいかもな。旅行会社のガイドさんが持ってるみたいな。
…いや、ピンク頭がいい目印になってるからいっか。
「伊織さん、手」
「あ?」
「手、つなご?」
「……」
いつのまにか横にいた蓮。
疑問文に聞こえたけど、答えるより先に手は握られている。
ま、いいか、別に。
すると、千冬がピンクの髪をふわっと跳ねさせながら駆け寄ってきた。
「蓮くん、僕とアメリカ村まで行ってみない?あっ、伊織先輩も一緒に……」
俺と蓮の繋がれた手に、千冬の視線が落ちる。
言葉は途切れ、千冬は口を噤んだ。
俺たちの手にそっと自分の手を添える。
「……もう、大学生が手を繋いで買い物なんて、恥ずかしいですよ」
「あ…」
繋がれた手を優しく解くと、蓮が小さく声を上げた。
千冬は俯いているせいか、心なしか顔が暗い。
ベルトで散歩よりはマシだから、俺は気にしねぇけど。
まぁ、一緒に歩く人からしたら恥ずかしいか。
「さ、行きましょうか」
顔を上げた千冬は、いつもの可愛らしい顔で柔らかく笑った。
*
「あー、なんか雰囲気あるな」
「道頓堀も賑やかでしたけど、こっちはこっちで、また違った賑やかさですよね」
「あ!」
「あ、蓮くん、あの古着屋気になった?僕もなんだ。行ってみる?」
「うん…、はい!」
仲良く店を見て回るピンクと金の頭。
カラフルな壁画や、派手なアート、個性的な古着屋なんかが並ぶこの通りに、2人はよく馴染んでる。
髪色もさながら、やっぱ顔面か?
むしろ俺の方が浮いてる気ぃすんな…。
「千冬さんっ、これ絶対似合います」
「え、どれ?」
「この、マネキンの。下は、これより、こっち合わせた方が…」
「確かにかっこいい!蓮くん、センスいいね」
「あ、ち…、千冬さんも、…えっと…、優しくて…、あ、あと、その髪も、すごく似合ってます」
「え? …ふっ、あはは! ありがとう蓮くん。この髪、みんな触れてくれないからちょっと不安だったんだよー」
「大丈夫ですっ、すごく、すごくかっこいいです!」
「ふふっ。あ、これは蓮くんに似合うよ、絶対」
「わぁ!」
女子会?いや、子犬の戯れ?
店の中で親睦を深める2人はいいけど、周りに少しずつギャラリーができてきてる。
主に女性の。
俺はそろりとギャラリーの後ろへ移動し、小物を眺めることにした。
無関係のフリをしよう。
「僕ちょっと試着してくるね」
「待ってます!」
「うん、ありがとう」
何着か服を片手に試着室に消えた千冬を見送った蓮が、俺を見つけ声をかけた。
「伊織さん!千冬さん、すごく優しい!」
「おう。良かったな」
「伊織さんは何か買う?」
「俺は別に。服とかこだわりねぇし。お前は?千冬といろいろ見てたじゃねぇか」
「あ……えっと…」
目を泳がせ口籠る蓮を不思議に思いつつ、目の前に並ぶ小物の中から、シルバーのリングピアスを手に取る。
シンプルなデザインだけど、蓮にはよく似合いそうだ。
というか、こいつなら何を着けても様になるだろうな。
「お金、なくって…」
「は?」
「交通費とかホテル代で、ギリギリ、で…、ちょっと、…節約」
あー、そっか。
まだ1年生だしな。授業が忙しくて、バイトもそんなできねぇだろうし。
独特な挙動と綺麗すぎる容姿に忘れかけてたけど、こいつも俺と同じただの大学生だったと思い出す。
「普通の大学生らしいところもあんだな」
「え?」
「いや、何でもねぇ」
手に持っていたピアスの値札を見て、安さに驚く。
アクセサリーってこんな安いのか?
俺のバイトの時給より安いじゃねぇか。
「これ、お前に似合いそうだし買ってやるか?安モンだけど」
「え!」
「入部歓迎ってことで。あ、てかお前ピアス空いてる?」
耳たぶを覗き込もうとすると、手に持っていたピアスを蓮に奪われる。
「要る!買ってくる!」
「は、」
キラッキラの笑顔を浮かべ、レジに飛んでいってしまった蓮を呆然と見る。
俺が買ってやるって、言ったよな?
聞こえてなかったのか?
「伊織先輩、お待たせしました!…あれ?蓮くんは?」
「今レジ。すれ違ったんだな」
店の奥から買い物袋を持って出てきた千冬が、蓮の姿を探して辺りを見回す。
甘く整った顔はご機嫌そうで、満足する買い物ができたんだなと分かる。
「千冬、頭」
「頭?あ……、」
最低限の単語で断り、俺は千冬の髪に手を伸ばした。
試着をしたせいか、柔らかそうなピンク髪が少し乱れていた。
緩いパーマが当てられた、ふわふわした触り心地。
色も相まって、わたがしみてぇ。
「ほい、できたぞ」
「………」
「何だよ?」
「あ、いえ…」
千冬は一瞬固まったが、大人しく俺に髪を整えられ、俺が手を離すとぎこちなくお礼を言った。
自分の髪をちょっとつまんで見上げてから、手を下ろし、長いまつ毛を伏せる千冬。
視線は俺の手のあたりを遠慮がちに彷徨っている。
「…俺…も、………」
「?」
小さな声は店の喧騒に消え、続きは聞こえない。
千冬は躊躇いながら手を伸ばし、その指先がそっと俺の手を掠めた。
「伊織さん、千冬さん!」
「蓮。終わったか」
「うん!千冬さんも、終わった?」
会計を終えた蓮が犬のように駆け寄る。
俺に伸びかけていた千冬の手は、ぴくりと跳ね、直ぐに戻された。
蓮が人懐っこく千冬に尋ねると、千冬はサッと振り返り、いつもの可愛らしい笑みで蓮に返事する。
なんか俺に言いたそうだったけど、もういいのか?
……まあ、大事な用ならまた言ってくれるか。
後輩二人に「行くぞ」と声をかけ店を出る。
蓮と千冬の楽しそうな会話を背中で聞きながら、なんだか優しい気持ちになる。
子犬達の散歩も、悪くねぇかもな。


