サークル合宿に飛び入り参加した謎の後輩に、なぜか執着されている


「集合時間までまだあるな」
「ですね。近くにラテアートのお店があるみたいですから、行ってみませんか?」
「らてあーと?」
「そ!しかも3D!」

ピンときてない様子の蓮に、乗り出し気味の千冬が答える。
3Dのラテアート?
正直俺も良く分かんねぇけど、他にやりたいこともないしとりあえずついていく。

俺の前を歩く2人は、買い物の時間ですっかり打ち解けて、ふざけ合って笑い合っている。
その様子を眺めて、頬が緩む。
兄弟みてぇ。



「ここです。入りましょう」

千冬に続いて蓮と俺も店に入る。
扉を開けば、コーヒーと、パンケーキの甘い香り。
店の中は若い女の人ばかりで、若干の肩身の狭さを感じる。
近くのテーブルの人たちが、クリームがたっぷり乗ったマグカップを、小さなぬいぐるみと一緒に撮影している。
いや、あのクリーム、絵描いてあんぞ。

…あ、あれが3Dラテアートか。
なるほど、すげぇ。

感心したまま案内された席まで移動していると、通り過ぎざまにコソコソと話し声が聞こえる。

「え、見て…!めっちゃイケメン…!」
「あのピンクの子、アイドル?」
「ロケかな?後ろの人スタッフっぽいし」

訂正。かなり肩身狭ぇわ。











「すごーい!」
「わあ!」
「すげぇな。撮ってやるよ」
「ありがとうございます!」

ソファに腰掛け、3Dラテアートが乗ったマグカップを前に、アイドル顔負けの顔面で綺麗に笑う2人。その向かいで、ただのホットコーヒーを前にスマホを構える俺。
どう見てもコイツらの撮影スタッフって感じだ。

「蓮くんゲッコウガ好きなの?」
「はい!千冬さんはリザードンだ!」
「ふふっ、弟たちが好きなんだよね〜」

2人はゲームのキャラクターを注文したらしい。
ふわふわのクリームで表現されたキャラクター達は、ふわふわには似合わない、強そうなモンスターの形。
いいのか?それで。

「伊織先輩も一緒に撮りましょう?」
「いいよ、俺は」
「俺も、伊織さんと撮りたいっ!」

2人がテーブル越しに手を伸ばし、俺の左右の手をそれぞれが取った。
息ぴったりすぎんだろ。

「あの…、」

その時、隣のテーブルにいた女性客のグループの1人が、蓮に声をかけた。

「もしよかったら、写真、撮ってもらってもいいですか?」

頬を染める彼女達の視線の先は、蓮と千冬。
声をかけた女性の後ろで、お友達らしき女性たちが、「ヤバい」「こっち向いた顔もイケメン…!」と小声で叫び喜んでいる。

あー、これは。
コイツらが撮影に応じるなら、俺がカメラ係だな。


「えっと…」

俺の手を離した千冬が、何かを言いかけると同時に、蓮が元気よく返事した。

「はい、もちろんです!」
「あ、ありがとうございます!」

きゃあきゃあ騒ぐ女性達が自分のスマホで前髪のチェックなんかをしている。
俺と千冬はといえば、この状況に置き去り気味。
千冬、多分お前は映る側だぞ、大丈夫か?

案の定、近くにいた女性が「すみませんが…」と言いながら俺にスマホを渡そうとする。
受け取ろうと手を伸ばすと、蓮が横からそのスマホを取り上げた。

「はい!じゃあ、撮ります!いいですか?…3、2、1…」
「は」
「「「え」」」

──カシャッ。

蓮はそのまま驚く女性客達の写真を撮り、誰も状況が飲み込めないまま、固まっていた。
蓮は無邪気に笑う。

「あの!今度は俺たちも撮ってくれませんか?これで!」

呆然とする女性客に自分のスマホを預けると、俺の手を握り微笑んだ。

「これで、一緒に撮れるね」
「え?お、おう…」

蓮に手を引かれ、ソファの、蓮の隣に座らされる。
手はぎゅっと握られたまま、体を寄せる蓮の肩がぶつかる。

「………じゃ、じゃあ…、撮ります…?」

困惑気味の女性客が、蓮のスマホを構える。
蓮は綺麗な横顔を俺に近付けると、伏せ気味の瞼から覗く甘い瞳で、優しく微笑んだ。

「いつもみたいに、かわいく笑って」
「っ、」

耳元で囁くから、耳にかかる息が擽ったくて一瞬肩が跳ねる。
そんな反応を見てか、蓮が小さく笑った。

「その顔も、かわいい」

テーブルの下で握られている手が、一瞬離れたと思ったら、今度は指を絡めて再び強く握られる。
な、何だよこれ…。

「えっと…、3、2、1…」

女性のカウントダウンの後、シャッター音。
撮影が終わるや否や、蓮は手をパッと離し、立ち上がった。

「ありがとうございました!」
「い、いえ…。」

呆然とする女性客からスマホを受け取り、無垢な笑顔を向ける。
女性客は席に戻り、微妙な雰囲気のまま、静かに帰り支度を始めた。

「………蓮くんって、天然?」
「え!何がですか?」
「…ううん、なんでもない!さ、早く飲もっか。集合時間に遅れちゃうといけないからね」
「はい!」


俺は服の首元をつまんで、パタパタと服の中に風を送りながら、ホットコーヒーを一口飲んだ。


…なんか、この店暑くねぇか?