「うっまー!」
「とろけるー!」
「あれ、マキさんどこ?」
「そっちも一口ちょうだい」
「圭太先輩、食べ過ぎです」
グリコ看板の前で集合写真を撮った後、大阪といえばたこ焼き!という圭太の号令のもと、早速買い食いをする。
主に圭太が。
「伊織さん、見て!あの看板、テレビでよく見るやつ!でもすごくおっきい!」
「分かったから、お前はフラフラするな。真っ直ぐ歩け」
「あ、ごめんなさい。楽しくて、つい…」
俺はといえば、いつの間にか蓮のお目付け役になっている。
こういうのは千冬にやらせろよ、と思うも、千冬は、たこ焼きを見つけ次第食べる圭太と、カメラ片手にフラフラどこかに行ってしまうマキさんの世話で忙しそうだ。
「はぁ…」
「あ、伊織さん!あれもよく見るやつ!」
「あーもう、お前それ貸せ」
蓮のベルトの端を掴む。犬のリードみたいな感じに。
「俺から離れんな」
「……」
「っおい!」
蓮が無言で、ベルトをグッと引っ張った。
俺の腕も、つられて引き寄せられる。
「何すんだよ」
「伊織さん、こっちがいい」
蓮の手が、俺の手からベルトを放して、優しく包む。
つまり、手を繋がれている。
「だめ?」
体も寄せて、横から顔を覗き込むように首を傾け、囁くように聞かれる。
綺麗な鼻筋。
伏せ気味の瞼から、甘えたような視線を送る。
「……別に、いいけどよ…」
イケメンオーラに圧倒され、許可してしまう。
そのまま蓮は、満足そうに微笑んだ。
…俺よりデカくて、ちょっと冷たい手。
「伊織さん、見て!」
「今度は何だよ」
「ビリケンさんの真似」
「ブッ」
イケメンの変顔って、おもしろ。
少し進んだところで、1日目の撮影係になっている明日香さんが手を挙げた。
「はーい、集合!この先のお好み焼き屋さんで、みんなでお昼です!」
「お好み焼きやったー!」
「圭太先輩、あれだけたこ焼き食べて、まだ入るんですか?」
「ビール飲んでいい?」
「マキ、もう飲むの?」
「俺も飲みてぇ」
明日香さんを先頭に、お好み焼き屋の暖簾をくぐる。
ソースの焼けるいい匂いと、ヘラが鉄板を叩く音に、完全にお好み焼きの口になる。
4人ずつ向かい合って座る席に案内されると、1番奥には4年のマキさんと明日香さんがそれぞれ座る。
マキさんの隣は俺、その隣に圭太、千冬。
「蓮は真ん中ね!」
「あ、ハイ…」
圭太に指示されて、明日香さんの隣に蓮が座り、その横に3年の彩葉、2年の海未が座った。
「みなさん何飲みます?」
率先して注文を取りまとめてるのは千冬。さすが。
この店の1番人気のお好み焼きと、まだ二十歳になってない1、2年生たちと、圭太以外はビールも注文した。
「それでは!蓮の新入部にかんぱーい」
「「「かんぱーい」」」
圭太の掛け声で、全員で乾杯する。
「ぷはーっ、うめぇー」
「伊織、オッサンぽい〜」
隣に座る圭太が何か言ってるけど、気にせず2杯目を手酌する。昼から飲むビールはマジで美味ぇ。
「じゃあ、蓮のために改めて自己紹介してこうか!朝も言ったけど、俺は部長の西野圭太ね。教育学部の3年。好きな映画はアベンジャーズシリーズ!よろしく〜。次は明日香さん!」
「私は佐藤明日香。4年で、文学部。好きな映画は『プラダを着た悪魔』。よろしくね!じゃ、次はマキ」
「俺は黒森真樹人。薬学部の4年生。2浪してるから、年齢はちょっと上。好きな映画は『メメント』。よろしく」
蓮が最後になるように順番に言う流れっぽいな。
なら、次は俺か。
「俺は睦月伊織。圭太と同じ教育学部の3年。是枝監督の作品をよく観る。よろしく」
「えーと、僕は雨宮千冬。2年の経済学部で、好きな映画はホラー系とかサイコ系とか。よろしくー」
「はい、私は、高橋海未です。千冬と同じ、経済学部の2年生。映画は、ディズニーと、新海誠監督の作品が好きです。」
「私は建築学部3年の鈴木彩葉。小さい頃からジブリ映画が大好きです。よろしくお願いします。」
既存メンバーの自己紹介が一通り済んで、全員の視線が蓮に集まる。
「お、俺は…、…早川蓮です。」
「…」
「…」
「…」
「終わりかいッ!」
圭太のツッコミで笑いが起き、沈黙が終わる。
ちょうど焼きたてのお好み焼きが席に届いて、千冬の采配でそれぞれに配られた。
すっげぇいい匂い。
「うまー!!」
「キャベツ甘い!ふわふわ!」
「熱っ」
「伊織、猫舌だもんな〜。俺がふーふーしてやるよ」
「やめろ」
整った顔を近づける圭太を腕で押し返すと、「あはは!」と楽しげに笑う。
酒入ってないのに、1番酔っ払ってるように見えるな、コイツ。
「で、蓮くんは何学部なの?」
「えっ…と、け、経済?」
「何で疑問文なんだよ」
「経済なら、僕らの後輩だ」
「そうだね。こんなかっこいい1年生が入ったなら、ゼミの友達とか噂してそうだけど…」
「経済は1番人数多いもんねぇ、まだ発見されて無いんじゃない?」
「彩葉先輩、発見って…。野生動物じゃないんですから」
2杯目の最後の一口を飲み干して、もう一杯注ごうとすると、隣から手が伸びてきて、マキさんにビール瓶を奪われる。
「伊織、あんま飲み過ぎんな」
さっき喫煙所に寄ってたマキさんは、仄かにタバコの匂いを纏っている。
「…はい」
大人しく返事をすると、マキさんが俺の顎の下を指で撫でた。
これはマキさんの癖みたいなもんで、よくやられる。
くすぐったさに反射で目をギュッと閉じると、マキさんは優しく目尻を緩めた。
「いい子だ」
──バンッ!
「いっ、伊織さんは、こ、こ、恋人とか、いるんですか!?」
突然、机に手をついて、身を乗り出して尋ねる蓮に驚く。
そんな勢いで訊くことかよ。
「恋バナ?いいねいいね!先輩たち、どうなんですか?」
蓮の突然の質問にノリノリで食い付いたのは、海未。
でも海未に限らず、女子3人は目を輝かせる。…もはやギラついて見える。
ちなみに女子達はみんな彼氏持ちだ。
「別にいねぇけど…」
大学に入れば自然と彼女ができるなんて思ってるヤツは認識を改めた方がいい。
俺は一度もできたことはない。
「マキは?まだ彼女いない?」
向かいのマキさんにビールのグラスを向けながら明日香さんが尋ねる。
「1年のときにちょっと付き合った人はいたけど、それっきり」
それを聞いて「よしっ」と小さくガッツポーズする明日香さん。
明日香さん彼氏持ちだろ?なんのガッツポーズだよ。
続けて彩葉が箸をパチン!と置いて尋ねる。
「圭太は?いろいろ噂聞くけど、本当のところはどうなの!?」
「いないよ、俺は伊織のお世話に忙しいからね〜」
「お前に世話された覚えなんてねぇよ」
「ほら、ふーふー」
「だからやめろって」
お好み焼きを乗せた箸を向ける圭太の手を押し戻す。
彩葉は「ごちそうさまです…」と呟く。
いや、まだ食べてんだろ。
「…千冬は…?」
ごくりと息を呑んだ海未が、緊張した面持ちで千冬に尋ねた。
「僕も。ゆるいサークルだと思ってたのに、誰かさんのせいで仕事が多くて忙しいから。今は授業とバイトとサークルで手一杯」
ジトっとした目で圭太を見る。
圭太は気にせず最後の一口を口に放り込んだ。
「千冬、おかわり頼もう!」
「まったく…。伊織先輩、何とか言ってやってください」
「よく食うな」
「そういうことじゃないです!」
ムッと、かわいらしく唇を尖らせながらも店員を呼ぶ千冬。
なんだかんだ千冬は面倒見いいよな。
「あ、伊織先輩、唇にソースついてますよ」
「え?どこ」
千冬に指摘されて、親指の腹で唇を拭うと、
──カシャ
スマホのシャッター音。
スマホの後ろから顔をひょこっと出した千冬がイタズラっぽく笑った。
「嘘です。ふふっ」
海未はそんな千冬を見て、目を瞑って何度か頷いた。
…何を納得する要素があったんだよ?

