「は?新入生?今年誰も入ってねぇよな」
「それが昨日、入部したんだよ」
今日から俺の所属する映画サークルのゴールデンウィーク合宿。……という名の、大阪旅行。
俺は同級生で部長の西野圭太(にしの・けいた)と一緒に、集合場所の改札前に到着したところだった。
すでに到着していた女子たちに軽く挨拶をすると、圭太は話を続ける。
「昨日部室に来て、『明日からの合宿も参加したい』って言ったんだって。千冬が言ってた」
「千冬、昨日部室にいたんだ」
「そー。忘れ物取りに行ったら、偶然会ったんだって」
雨宮千冬(あめみや・ちふゆ)は、俺たちの一個下の後輩で2年生。
可愛らしく甘い顔立ちとは裏腹に、中身は世話焼きでみんなのオカンみたいな奴だ。
圭太は真剣そうな口調で話し、センター分けの黒髪から覗く形の良い眉を寄せた。
しかし、切れ長の目と口の端には愉快さが滲んでいて、若干意地の悪そうな笑みになってる。
無駄に顔がいいせいで、そんな表情も爽やかに見えるのがウザいけどな。
「へぇ。それにしてもすげぇな、いきなり合宿参加なんて」
「まあ、そういうイベント目当てでサークル入る人もいるからねぇ。あ、噂をすれば……。えっ、伊織見て!千冬の髪、ピンクになってる!」
「え? ははっ、うわー、やったなー」
「あ、千冬の隣にいるのが新入生くんじゃない?」
「あの金髪?」
圭太が示したのは、笑顔でこちらに手を振る千冬と並んで歩く、金髪の男。
軽くセットしただけの透明感のあるブロンドがサラリと輝き、眩しいほどの笑顔をより引き立てる。
…うわ。
控えめに言って、超絶、美形だ。
遠くからでもわかる、スタイルの良さと顔立ちの綺麗さ。小顔だし、目鼻立ちもくっきりしてる。ファンタジー映画に出てくる王子様とかみてぇ。
このサークルの男は何故か顔がいい奴ばかりだけど、今回の新入生も例に違わずみたいだ。
そんなことを考えていると、金髪美形と目が合った。
「あ!伊織さん!」
「え…?」
途端に顔を輝かせたそいつは、荷物をその場に置き去りして、真っ直ぐにこちらに向かって走ってきた。
そして、呆然と立ち尽くす俺に、全力で飛び込んできた。
「伊織さんっ!俺、来ちゃった…!」
「はっ…!? ゔ、」
俺に飛びつき、俺を胸の中で強く抱きしめる金髪。
は?
いや、誰だよお前。
てか苦しいわ!
「放せっ!」
「あ…」
しばし呆気に取られたものの、金髪の胸板を強く押し返して距離を取る。
派手髪の美形が改札前でそんな目立つことをしたせいで、通りすがりの人達が「芸能人?」「何かの撮影?」とコソコソと話す声が聞こえる。
何だこれ。
恥ずかしすぎる。
「何だよ!お前」
「伊織さん、俺のこと覚えてないの?」
「知らねぇよ、初対面だろ」
怪訝な顔で金髪を見る。
そいつの顔は、近くで見ると尚更綺麗な顔だった。
光を弾く滑らかな肌に、芸術品のように美しく凹凸のある、中性的な造り。
鼻根からスッと通った鼻筋と、尖りすぎず柔らかな曲線を描く鼻先。
綺麗な二重の目元は横幅が広く、長いまつ毛に縁取られている。
そして何より目を引くのは、美しいヘーゼルの瞳。
色素の薄いブラウンの虹彩は、光に当たると宝石のようにキラキラと黄金色に輝いた。
「伊織さん、俺だよ…」
「だから誰だよって言ってんだろ」
金髪がしゅんと眉尻を下げると、さっきまでの王子様モードは消え、捨てられた子犬のような哀しげな顔になる。
なんだ?
この美形、細やかな表情一つで雰囲気がガラッと変わって、…なんだか目が引きつけられる。
無意識に金髪を観察しすぎていると、隣にいた圭太が俺の肩に腕をかけた。
いつものように飄々とした様子で、俺に尋ねる。
「伊織、知り合い?」
「あ?…いや、知ら」
「知り合いです!」
「おい」
俺の言葉に被せて発言する金髪に再び目を遣る。
金髪は俺の視線をまっすぐに捉え、綺麗な顔でニカっと笑い返した。
今度は子供みたいな無邪気な笑顔。
ほんと、いろんな顔すんだな…。
「蓮くん、荷物」
金髪の後ろから声をかける千冬。
千冬は金髪に話しかけながらも、淡いピンクの髪の下からくりっとした目で俺を窺った。
千冬が俺に何か言いたそうにしてる気がして、栗色の目をじっと見つめ返す。
でも千冬は、焦ったようにすぐに目を逸らしてしまった。
千冬の手には蓮の荷物。
金髪が置き去りにした荷物も持ってきてくれたらしい。
さすが千冬。しっかりしてんな。
「千冬さん、ごめんなさい。俺…えっと…」
「いいよ。無くさないように気を付けてね」
千冬が柔らかく微笑むと、金髪は頷いて返事をした。
すかさず圭太が切り出す。
「ねえ、新入生くん、名前は?」
「早川蓮(はやかわ・れん)、です」
「蓮ね。俺は3年の西野圭太。この『映画同好会』の部長ね。あと、伊織のソウルメイト」
「は?」
圭太は組んでいた肩をさらに引き寄せ、俺の頭に自分の頭をコツンとぶつける。
ソウルメイトって何。初耳だけど。
楽しそうに自己紹介をする圭太に対して、金髪イケメンもとい早川蓮は、表情を固くして圭太をじっと見つめ直した。
「…よろしくお願いします」
「うん!よろしく!」
「はよ。遅刻してごめん」
「マキさん!」
「マキさん、おはようございます」
最後に到着したのは、4年の黒森真樹人(くろもり・まきと)さん。
少し長い焦茶の髪を無造作に結んで、眠そうな目で微笑む。
「はよ。あれ、見ない顔だ。千冬の弟?」
「マキさんよく見て。千冬より背高いです」
「じゃあ兄ちゃんか」
「っ、違います!蓮くんは僕より後輩です!」
マキさんと圭太が千冬をからかい、みんなが笑う。
マキさんのゆるゆるオーラで、やっと空気が和んだ感じがした。
いつも通りの映画サークル。
俺の好きな気の知れたメンバーと雰囲気。
変なテンションだった蓮も、ようやく落ち着いてきたようで、口を閉じたまま俺たち一人一人のことをじっと見つめていた。
「それで、1年生くんの名前は…」
「マキおはよ!やっとみんな揃ったね。席順はくじ引きだから、はいっ、引いてー!」
マキさんの背中をバシンと叩き、マキさんの言葉を遮ったのは、4年生の明日香(あすか)さん。
頼れる姉御肌の元部長だ。
新幹線のチケットをババ抜きのトランプのように持って、蓮の前に差し出す。
「蓮くん、だよね?選んで!」
「俺、伊織さんの隣がいいです」
「あははっ!蓮くん、一応、サークル合宿だから!みんなと親睦深めよう、ね?」
「…はい」
明日香さんに宥められて大人しくチケットを引く蓮。
俺も続けてチケットを引いた。
ていうか…、
誰か千冬のピンク頭、ツッコんでやれよ。


