サークル合宿に飛び入り参加した謎の後輩に、なぜか執着されている


新幹線の席は、俺は二列席の窓側。横に千冬、そして通路を挟んで蓮とかいう奴。
目的地の大阪まで、まだ少しある。後ろの席に座る後輩の海未に断って、座席をリクライニングさせて、ため息をついた。
…まだ新幹線に乗っただけなのに、既にちょっと疲れたな。

「伊織先輩、動画撮りましょうよ」

隣に座った千冬が肩を寄せてスマホの画面をかざす。金木犀みたいな甘い匂いがほんのり香った。

「インスタか?」
「違いますよ、記録用です」

ピコン、と録画の開始音。
千冬が袖に少し隠れた手を、画面に向かって振る。

「ほら、先輩もハート作って」
「なんでだよ」

千冬が俺の指で勝手にハートを作ると、

──ガタッ。

通路の向こうに座っていた蓮がいきなり立ち上がった。

「…えっと、蓮くん、どうかした?」
「……………いえ」

ぐっと言葉を溜めて、静かに一言だけ言って席に座り直す蓮。
虫でもいたのか?












新幹線で過ごす時間も中盤に差し掛かった頃。窓の外の景色をしばらく眺めていると、徐々に眠気がやってきた。
到着までまだあるし、少し寝るか…。

目を閉じようとした時、横の千冬が俺の袖を引っ張る。
なんだよ、俺は寝かかってんのに。

「…伊織先輩、僕と席替わってください」
「なんで」

千冬が、どこか幼さのある綺麗な顔を近づけると、小声で俺に訴える。

「蓮くん、ずっとこっち見てて怖いんですよ…!」

千冬越しに蓮を見ると、身を乗り出してこちらを見ていて、目が合う。パッと体を戻す。
…変なやつ。

「もう見てないみたいだぞ」
「伊織先輩ッ!頼みますよ…!知り合いなんでしょ!?」
「だから知らねぇって。それに俺は窓側の方が好きなんだよ」

好き、と言った瞬間、蓮が「えッ」と声を上げる。
1人で忙しいやつだな。

「俺はちょっと寝るから」
「ちょっ、伊織先輩っっ…!!」

小声で叫ぶ千冬を無視して目を瞑る。
なんなんだ、本当に。
顔がやたらいい金髪の後輩のことを、頭の隅で考える。
突然現れて、知り合いだと言い張る意味分かんねぇやつ。
…人違い、だと思うけどな…。

そしてすぐに、俺は眠りに落ちた。














「伊織さん、起きて」
「……うーん」

また千冬か?
こっちは気持ちよく寝てんのに、まだなんか用かよ…。

「伊織さん、もうじき着くよ」

そういえば、今何時だ?
頭はぼんやりしたまま、呼びかけにうっすら目を開こうとする。
でも陽の光が窓から容赦なく差し込んでいて、瞼が上がることを拒否した。

「……眩しくて…ムリ」
「…」

俺を起こす声が静かになったと思ったら、ふわっと、爽やかな石鹸の香り。
頬に何かが掠めて、ギッ、と座席が鳴る。

瞼の向こうに感じていた光が消えて、すぐ近くで、さっきの声が聞こえた。

「これなら、目、開けれる?」

その声にハッとして目を開けると、視界に飛び込んできたのは、きめ細かい綺麗な肌と、吸い込まれるような美しい目。
目にギリギリかからない長さの金髪の下で、長いまつ毛がゆっくり上下した。

「おはよ、伊織さん」
「っ!」

見惚れてしまいそうなほど甘い微笑み。

イケメンのドアップに驚いた俺は、座席に貼り付けられたかのように固まった。





「………はよう、ございます……」


思わず、敬語になっちまった。














蓮の寝起きドッキリ(?)にまんまと引っかかった俺は、驚きにドキドキうるさい心臓を落ち着かせながら新幹線を降りる。

ていうか、千冬はどこ行ったんだよ。
俺が蓮に起こされた時、隣の席は空席だった。
トイレか?

俺の隣を歩く蓮は、辺りをキョロキョロ見渡しては、俺に無邪気な笑顔を向ける。

「伊織さん、すごいね!人が多い!」
「都会だからな」
「俺、大阪来たの初めて!伊織さんと来れたの超嬉しい!」
「…合宿だからな」

テンション高ぇな、こいつ。
寝起きに見た甘い笑みの奴と、本当に同じ奴なのかと、疑いたくなるくらいガキみてぇなはしゃぎっぷり。散歩に連れ出されて喜ぶ犬みてぇ。

でも、ずっとニコニコ笑顔の蓮に、つられるように俺の頬も緩む。
確かに、旅行は気が弾むもんだしな。
見慣れない景色を見渡しながら、旅行特有のちょっとした開放感に、胸の奥がくすぐったくなった。





改札に向かっていると、俺たちの前を歩いていたマキさんが、振り返って手を振った。
俺もマキさんの視線を追って振り返ると、ピンク頭と、圭太の姿。

「おかえり、2人とも」
「マキさんありがとうございます!良かった〜、合流できて」
「お前らどこ行ってたんだよ?」
「圭太先輩だけ別車両だったから、僕が迎えに行ってたんですよ」

当たり前のように俺の頭に肘を乗せる圭太。
やめろ。

「急遽1人増えたから、並びで席取れなくて」
「伊織、俺がいなくて寂しかった?」

首を曲げて、頭に乗せられた肘を振り落としてやる。

「気づかなかった」
「うそでしょ!?」

大袈裟に驚きのリアクションを取る圭太に、ちょっと笑う。

「あの…、圭太さん、ごめんなさい。俺が急に参加したから…」
「ああ、それはいーの!全然気にしないで!むしろ、来てくれて嬉しいから」

そう言って蓮にウィンクする圭太。
やってることはキザだけど、顔がいいから様になる。蓮も、ホッとしたように相好を崩した。

…変なやつだけど、こうやって笑ってると、不思議と俺も安心する。
同じサークルの仲間になったわけだし、仲良くやっていけた方が楽しいに決まってる。


「そうだぞ、蓮。圭太のことは気にすんな」
「伊織はもうちょっと気にしようか?」


圭太のツッコミに笑い合って、俺たちの大阪旅行は幕を開けた。